第9話 親子で楽しむ演劇~雨の雫と妖精と~その2~かえるのがっしょう
「ぴっちょんぴっちょん♪ 雨降りぴっちょん♪」
マキの歌に合わせて、ボクたち5人は一列に並んで下手から舞台中央へと歩みを進める。
白赤青黄紫。
それぞれ自分の役のカラーに合わせた全身タイツと短いパレオを身に着けている。背中にはキラキラ光る透明な羽根を2枚ずつ。どこからどう見てもかわいらしい妖精さんだ。
ね? さっきのモジモジ君よりは妖精さんっぽくなったよね⁉
ボクたちの登場に、子どもたちからたくさんの拍手が注がれる。
さっそくオープニングの演劇パートがスタートする。
「ねぇ、白ちゃん。今日もたくさん雨が降っているね~」
「朱ちゃん。今日もたくさん雨が降っているね~」
「「「雨降り楽しいね~。アメアメ降れ降れ、もっと降れ~♪」」」
蒼ちゃん(メイメイ)、藤ちゃん(レイ)、黄ちゃん(ボク)の3人が唱えた呪文に合わせて、プロジェクションマッピングで背景の雨雲が濃くなり、雨音が強くなっていく。
「わーい、雨がたくさん降ってきたぞー。今日も水たまりでジャンプしよう!」
「パッチャパッチャ♪」
「ピッチャピッチャ♪」
「「楽しいね~」」
マキとハルルが顔を見合わせて笑顔を作る。
「ねぇねぇ、みんな。朱ちゃん、蒼ちゃん、黄ちゃん、藤ちゃん、みんなでお歌を歌いましょう」
「いいね、白ちゃん。どんな歌を歌うの?」
「何がいいかしら?」
白ちゃん(マキ)が首をひねって考える。
「『かえるのがっしょう』なんてどうかな~?」
蒼ちゃん(メイメイ)が手を上げて提案する。
「『かえるのがっしょう』を歌うの? すっごく楽しそう! 蒼ちゃん冴えてるね」
黄ちゃん(ボク)が蒼ちゃん(メイメイ)の頭を撫でる。
「輪唱するのはどうでしょうか?」
藤ちゃん(レイ)が指揮棒を振るようなジェスチャーを見せる。
「「「「輪唱?」」」」
「輪唱は、1人ずつ歌い出して、ちょっとずつ歌がずれていく歌い方です。『かえるのうたが~』と白ちゃんが歌い出したら、次に蒼ちゃんが『かえるのうたが~』と続いていきます。白ちゃんはそのまま途切れないように『きこえてくるよ』と歌い続けてください」
「わかったわ!」
「白ちゃん、蒼ちゃんが歌い出して、その次は朱ちゃんが『かえるのうたが~』と続き、次は黄ちゃんが『かえるのうたが~』。そして最後に私、藤ちゃんが『かえるのうたが~』と続いていきます。ちょっと試しにみんなで歌ってみましょう」
藤ちゃん(レイ)の指示通り、白ちゃん(マキ)がアカペラで歌い出す。1フレーズずらして蒼ちゃん(メイメイ)が、次に朱ちゃん(ハルル)が続く。
「とってもいいです。練習はこれくらいにして、音楽をかけて本番のお歌を歌いましょう」
藤ちゃん(レイ)が舞台の隅に置かれたピアノに移動する。
何とピアノは藤ちゃん(レイ)の生演奏だ。
「ねぇ、良い子のお友だち~! わたしたちと一緒に『かえるのがっしょう』を歌ってくれる子はいるかな~?」
白ちゃん(マキ)が舞台上から、観客席を見回す。
「一緒に歌ってくれるよ~って子は、元気よく手を上げて~!」
は~い。
観客席のそこかしこから、とっても元気な声が響き渡る。
「みんな元気ね~。青色が好きなお友だちは~、蒼ちゃんと一緒に2番目に歌ってね~」
「あ~、蒼ちゃんずる~い。赤色が好きなお友だちは、朱ちゃんと一緒に3番目に歌おうね!」
「黄色が好きなお友だちは4番目だよ」
「紫色が好きなお友だちは最後の5番目に歌いましょう」
ボクたちはさりげなく、自分のカラーを子どもたちにアピールする。
「みんな~。そんなこと言ってもみんなが一番好きなのは白色だよね⁉ さあ、元気よく、1番に歌おうぜ~! せ~の」
白ちゃん(マキ)の掛け声で、レイがピアノの伴奏をスタートさせた。
『かえるのうたが~』
観客席全体を巻き込んでの大合唱。
『きこえてくるよ』
お父さんお母さんたちも一緒に歌ってくれる。
『クワクワクワクワ』
『ケケケケ ケケケケ クワクワクワ』
これだけの大人数で5重の輪唱は癖になるね。めっちゃ気持ちいい。
「みんな上手~!」
「すっごい楽しかったね~」
「朱ちゃんと3番目のお友だちの声が一番大きかったよね!」
「何を言っているのかな? 黄ちゃんと4番目のお友だちが一番楽しく歌えていたでしょ」
「最後の藤ちゃんと一緒に歌ったお友だちが一番きれいにそろっていました」
ボクたち3人は軽くにらみ合う。
「3人とも~、ケンカしないの~。せっかくみんなで楽しく歌ったんだから、仲良くしようよ~」
蒼ちゃん(メイメイ)がボクたちの手を繋ぎ合わせてくれる。
「朱ちゃん、藤ちゃん、ごめんね」
「ううん、こちらこそごめんね」
「わたしも悪かったです。ごめんなさい」
3人で一緒に頭を下げる。
「ちゃんと謝れるのってステキね。朱ちゃんも黄ちゃんも藤ちゃんもえらいぞ~」
白ちゃん(マキ)がボクたちの背中を叩いて回る。そして、手をポンと合わせて叩いてから空を見上げる。
「そうだ! 良いこと思いついた!」
「白ちゃん、なーに?」
「みんなでしりとりしない?」
「「「「しりとり?」」」」」
「そう、しりとり。雨がいっぱい降って楽しくなるしりとり~!」
白ちゃん(マキ)が空を見上げたまま、笑顔で手を広げた。まるで雨を全身で浴びているかのように体がキラキラ光る。
「いいね、白ちゃん。そうだ、それならさ、見に来てくれているお友だちと一緒にしりとりしようよ」
「いいですね。わたしたちと一緒にしりとりをしてくれるお友だちに舞台にも上がってもらいましょう」
「そうしよう! 朱ちゃんと一緒にしりとりしてくれるお友だちは手を上げて~!」
朱ちゃん(ハルル)の呼びかけに合わせて、観客席の子どもたちの手が一斉に上がる。
「誰がいいかな~? じゃあ、キミ! 赤いリボンをつけているそこの女の子にしよう!」
朱ちゃん(ハルル)は、赤がトレードマークの女の子を選ぶ。
なるほどね。それは良い選び方だ。
ボクたちもそれに倣って、自分たちと同じ色のアイテムを身に着けている子を選んでいく。
「じゃあ、最後に白ちゃんと一緒にしりとりしてくれる子~?」
白ちゃん(マキ)が観客席から体操服姿の男の子を連れて舞台に戻ってきた時、事件は起こった。
「ではもう1人。黒ちゃんと一緒にしりとりをしてくれるお友だちはいらっしゃいますか?」
舞台袖からゆっくりとボクたちに向かって歩み寄ってきたのは――。
マッドブラックのフルフェイスヘルメットをかぶった男。
ボンバー仮面V3だった。




