第38話 定期公演#4 その7~僕らの時代
MCコーナーを無事に終えたボクたちのことを、都が出迎えてくれる。
「3人ともお疲れ様。ずいぶん盛り上がっていたわね」
「いやー、どうなるかと思ったけど、わりと良い感じだったかな?」
「なぎささんのリアクションがとても良かったです」
「レイちゃんありがと。私もギャラクシーにがんばりました~☆」
いや、ナギチはまったり会話に参加していないで早く着替えなさいね? みんなが舞台で待ってるよ!
「コメント欄で、レイのコスプレが見たいって人もたくさんいたね。どうする? コスプレイヤーデビューしちゃう?」
「しません。エッチな写真は撮られたくないです」
案の定のお答え。
残念だったな、お前たち。カメラを構えて待っていても、レイがコミケのコスプレエリアに登場することはなさそうだよ。
「ま、これからもこういう企画の時にはお願いね。レイほどメイクがうまくできる人はいないからなあ」
ということにしておこう。
深く突っ込んではいけない。そしてあまり広く知られてもいけない。真相は僕の心の中だけに。
「着替え終わったわ! ギャラクシー出撃☆」
ナギチが両手を広げ、アラレちゃんポーズで控室を飛び出していく。
「おー、後半戦もファイト!」
「みんな~、おっまたせ~! ギャラクシーに再登場☆」
「ナギサ、おかえりなさ~い。そういえばインフルエンザ明けだったわね。さっきのコーナーを見るまで忘れていたわよ。ナギサ元気すぎるし」
司会代行のハルルがナギチを出迎える。
「大丈夫~! とっくに治ってて、自宅謹慎期間? 違うわ、自宅待機期間だっただけだから~」
「謹慎処分ですか! さすが渚さんです! ギャラクシー警察にかわいい罪で逮捕されていたんですね!」
「かわいすぎるって罪なのね! ギャラクシー許して~☆」
なんだかんだで今日はナギチが話題の主役になっているみたい。メインMCとしての活動は成功かな?
でもそろそろ曲紹介のほうを頼むよー。
「続いての曲はお待ちかねの新曲よ! 3rdシングルの表題曲『僕らの時代』。かっこいい曲に仕上がっているから楽しみにしてね☆ 続いて『We’ll be the No.1 IDOL』。最後に3rdシングルカップリング曲『たとえ報われなくても僕は君を愛してる』続けて3曲お届けします」
後半はノンストップで! 体力勝負だ!
全員がスタンバイし、前奏が始まる。
裏打ちのビートが心地良く響いていく。
3rdシングルの表題曲『僕らの時代』。
気軽に誰とでもつながれるネットワーク社会。
孤独を愛する者にとっては、非常に生きにくい時代になった。
本当の仲間さえいればそれでいい。知らない誰かの独り言なんて聞きたくないんだ。周りの顔色を窺って愛想笑いをやめよう。SNSを捨て、真の仲間を見つけよう。
さあ同志たちよ、立ち上がれ。
薄っぺらくてつまらない時代に抵抗しようじゃないか。
社会へのアンチテーゼを唱えた楽曲となっている。
過激な歌詞、そして激しいダンスが目を惹く曲だ。
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今だ立ち上がれ レジスタンスたち
薄っぺらい関係に終止符を
さあ目の前にいる者たちは
敵か味方か
地下に引きこもるな 表に出よう
嘘だらけの世界をぶち壊せ
さあ人生やり直しはきかない
全力で生きろよ
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「この曲ってさ、やっぱりあれだと思う?」
「あれ、ですか」
歌詞がさ、すごく攻撃的で過激に見えるけど、ボクにはなんだかちょっと淋しい感じがするというか。ダンスの激しさと少し合っていない気がしているんだよね。
「ボンバー仮面V3のことだよ」
アイツに負けないぞっていう、悲痛な叫びっていうかさ……。新しいドームができてうれしいけれど、ホントはこんな地下に籠っていないで表に飛び出して、ファンのみんなの目の前で大声を出して歌いたいって叫びに見えちゃってね。
「そう言われて歌詞を確認すると、たしかにそうも読み取れます」
レイが手元の端末を眺めている。
「考えすぎかなあ。でも、≪初夏≫の曲の歌詞って、その時の状況やメインボーカルのメンバーの人となりや心情をかなり詳しく表現しているよね。よくリサーチしてるなって思う。実際ドキッとさせられることが多いよ」
「≪初夏≫の楽曲の作詞はすべて師匠です。みなさんの状況を把握されているのはそのためでしょう」
「え、麻里さんが⁉ これまでの楽曲の歌詞すべて⁉」
でもクレジットに書かれている作詞の人、毎回名前違うじゃん。
そんなバカな……。
「作曲も師匠です。編曲は別の方のようですが」
「あの人何やってるの……。事務所の上層部とかそんなレベルじゃないじゃん。がっつりプロデューサーじゃんか……」
ちょっと理解が追いつかない。
作詞作曲すべて?
「ひょっとしてソロユニット曲も……?」
「はい、すべてです」
マジですか……。
それじゃあ『シュークリームが膨らまないの』みたいなかわいらしい歌詞も……。うわー、想像したくない! 麻里さんがあんなかわいい歌詞を考えている姿なんてぇ⁉
「かえでくん……師匠はなぎささんよりも乙女ですよ。傷つきやすく、いつも心の中では泣いていらっしゃいます」
そういうのはちょっと聞きたくないかも……。
人の心が一切な人体実験を繰り返すマッドサイエンティスト。
そういう人であってほしい……。
たまにメイメイやハルルの前で見せる親っぽい顔とか、絶対演技だって思ってたのに!
うわー、ボクの脳がその事実の受け入れを拒否しています!
誰かー! 記憶を消してー!




