第35話 定期公演#4 その4~ナギサ、魔法少女スタイルで着替える☆
メイメイが水分補給から戻って、全員で3曲目のスタンバイ。
定期公演#3までとは構成を変えて、ソロユニット曲ではなく5人の曲だ。ちなみに3rdシングルの衣装から着替えなしでそのまま突入する。
「次の曲はみんなお待ちかね、私がメインボーカルの曲『僕たちのワルツは永遠の光』」
ナギチが高らかに宣言し、前奏が始まる。
『僕たちのワルツは永遠の光』は、4分の3拍子のバラード曲だ。
この曲は、まるでナギチの心の中を表すかのように、温かく繊細な歌詞で構成されている。
ワルツを踊りながら明るく楽しい未来へ。永遠に続く時をみんなで一緒に歩いていきたい。そんなナギチの想いがこめられているのかもしれない。
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僕たちのワルツは光
永遠に輝く光
あの空の向こうを目指してね
どこまでも歩いて行こう
いつまでも笑っていたい
未来はしあわせ
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サビはナギチがメインボーカルを務め、ほかのメンバーがハモリを入れる。
ホントに楽しそうに笑い合い、見つめ合いながら、進んでいく。
ナギチが中心にいるからこそ生まれる柔らかな空間がそこにはある。いつまでも浸っていたい。繰り返すサビ。ずっと終わらないでいてくれ。そう願ってやまない。
この曲はライブでこそ真価を発揮する曲かもしれないね。音源ではわからない≪初夏≫の魅力を感じ取ってもらえるんじゃないだろうか。
「かえでくん、そろそろステージに上がる準備をしましょう」
「おお、そうだね。この3曲目が終わったらすぐにいかないと」
このあとはメインMCコーナーだ。
つまり、ナギチとレイとボクが出演することになる。ナギチは1回着替えのために下がるから、ナギチが戻るまでレイと2人で繋がないといけないのだ。
ライブ中にマネージャーだけが舞台に上がってしゃべるアイドルグループって、普通に考えておかしいんだけど、何でこんなの受け入れられてるんだろうね。それありきでセットリストが組まれているのに誰か疑問を持たないものなの?
「間に合ったわ。あとは私に任せて、楓と零はステージを盛り上げてきてちょうだい」
「おお、都。どこいってたのさ」
「栞のサポートよ。初めての会場で1人だから一応ね」
なるほど。
これまでの代々森体育館とは違う新しい場所だからね。しかも会場の規模も大きくなっているし、いくらシオとはいえ、誰かのサポートはほしいよね。
「あなたたち、そのままのかっこうで出るの?」
「あ、うん。今日は事前に撮っておいた映像を流すだけだからね」
ボクとレイが着ているのは3rdシングルのアナザーバージョン、薄紫色の制服だ。朝、部屋を出てくる時から着用していて、とくに着替えはしていない。
「リアクション担当はなぎささんです」
「ナギチに派手に踊ってもらおうと思ってー」
ちなみに、ナギチとはMCコーナーの打ち合わせを一切していない。完全にぶっつけ本番だ。
「渚さんも病みあがりなんだから、あまり興奮させないのよ?」
「へーい、善処しまーす」
なんていうか、ナギチが寝ている横でワタワタしながら撮影したけれど、あの映像はファンのみんなに喜んでもらえるかなあ?
「大丈夫ですよ。絶対に楽しんでいただけるような構成になっていますから、視聴している方もお腹がよじ切れるはずです」
「よじれるのはいいけど、切れちゃうのはまずいと思うんだ……」
「そこはなぎささんのリアクション次第です」
うわ、急に不安……。
ナギチが思惑通りに踊ってくれなかったら寒いものになっちゃう?
「躍らせますから大丈夫です」
さすがレイだわ。
根拠はないのに頼もしい!
「さあ、2人とも行って! タブレット端末を持って行くのを忘れずにね」
「「OKボス」」
曲が終わり会場が暗転した中、ボクたちはゆっくりとステージ脇に歩み寄る。
さて、いよいよMCコーナーだ。
「やー、パチパチパチパチパチ! とっても素敵な歌をありがとう!」
「『僕たちのワルツは永遠の光』涙が止まりませんでした」
ボクとレイがしゃべりながら舞台に上がり、スポットライトを浴びる。
「わ~、カエちゃんだ~♡」
「レイちゃんぜんぜん泣いてないじゃないですか~」
「このあとはお待ちかねのMCコーナーね! ナギサ、急いでお色直しを!」
「は~い。カエちゃん、レイちゃん、急いでいってくるね~」
ナギチがダッシュでステージを降りていく。
「気をつけてー」
「ごゆっくり」
ナギチが戻っていくのをみんなでお見送りする。
転んでない。安全、ヨシ!
「じゃあ、ちょっとだけみんなで話をする?」
ハルルが話を切り出す。
微妙な間を埋めてくれる。そしてボクとレイのマネージャーコンビだけをステージに残さないのも助かる。さすがリーダーだ。アドリブ苦手なのにありがとうね。
「この6人はなかなかステージ上では見られないメンバーよね」
「コーチとステージでおしゃべりするのはレアです!」
「レアモンスターですわ~」
「かえでくんはSSSランクモンスターですからね」
「なんでモンスター扱いなのさ……。わりとボクはお当番回多いからレアでもなんでもないんですけどね。そもそもなんでこんなに出番多いの? ボクマネージャーなんですよ? 裏方の人間がこんなにステージに上がってるのって、普通におかしくない?」
「かえでくんは使い勝手の良い便利屋さんですからね」
「うわっ、それ薄々感じてたけど、レイの口からは聞きたくなかった!」
「違いますわ~。みんなのアイドルですわ~」
「コーチはサクラたちのアイドルです!」
アイドルはキミたちでしょうが。
アイドルにアイドルって言われると、悪い意味にしか聞こえない……。
「そうね、みんなのアイドル……。カエデちゃんが誰のアイドルなのか、ここで決着をつけるのはどうかしら?」
「ハルルはアドリブ苦手なくせに何をぶっこんで――」
「聞き捨てならない企画ね。負けないわよ~! ギャラクシー☆」
「あ、ナギチおかえりー」
「なぎささん、早かったですね」
ナギチがボクたちと同じ、3rdアナザーバージョンの薄紫色の制服を着て登場だ。これこそレア衣装!
「魔法少女スタイルで一気に着替えたからね☆」
「魔法少女スタイル?」
いったいなんだろう?
まさかレイが何か特殊な全自動お助けモードを⁉
「かえでくん、魔法少女はどうやって変身するかわかりますか?」
「えっと……魔法で?」
「魔法で変身する時の具体的な着替え方です」
あー、そういうこと? レイが何を言っているのかやっとわかった!
「服がはじけて全裸になってから着替える!」
「正解です」
「ナギサちゃん、控室で全裸になったんですか~?」
「服をバリッとね☆」
破るな破るな。
「ではその時の着替えの映像がこちらになります~」
流すな流すな。
「いや~ん、アイドル生命終わっちゃう~♡」
「なんでちょっとうれしそうなのさ」
「ナギサ、さすがに控室でカメラは回ってないから……」
エッチなテントウムシが飛んでなければね。
「そろそろMCコーナーを始めます」
「そうね、ナイスレイさん。サツキ、ウミ、サクラ、私たちは捌けましょう」
「MCコーナー楽しみにしてます!」
「みんな~またあとで~」
「次の曲でお会いしましょう、ですわ~」
それぞれカメラに向かって挨拶をしながら、ステージを後にする。
さあ、ここからはボクたち3人のコーナーだ。




