第34話 定期公演#4 その3~ハルル、渾身の一発ギャグ
『≪The Beginning of Summer≫ファンクラブ設立記念! ファン総選挙~専用ドームの名前を決めろ~』
天井から下がってきた巨大モニターに表示された文章を読む。
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2024年6月15日(土)≪The Beginning of Summer≫ファンクラブ(仮称)を設立いたします。詳細は定期公演#4終了後、公式ホームページにて告知予定です。
定期公演#4で使用した地下ドームの名称を、ファンクラブ会員による投票で決定いたします。
投票期間:2024年6月15日(土)~6月30日(日)
投票は、ファンクラブID毎に1回のみとなります。
事前に≪The Beginning of Summer≫メンバーで検討した下記の中から1つを選び投票をしてください。
1. 夏大好きドーム
2. 初夏の秘密基地
3. ギャラクシードーム
4. その他(自由記述)
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「なんと~! ファンクラブができるらしいですよ! 私も初耳!」
「やりました~! 会員No.1は私のものですよ~」
「サツキ……それはファンの人に譲ろうね」
「しゅ~ん」
「サクラ、ファンクラブに入るの初めてです!」
「だから入るほうじゃなくて、入ってもらうほうだから……」
「会員証はポイントもたまりますか~」
「そうね、月の継続でポイントがたまるようにお願いしましょうね」
ええい。
話が進まない!
“ファンクラブやっとか”
“いつもダブルウェーブは個別ファンクラブの設置遅いよな”
“まあようやく認められたってことで”
“すぐ申し込むぞ”
“これでチケットも取りやすくなる”
“ファンクラブの一桁番号って運営が押さえるものなんじゃ?”
“俺、某声優のファンクラブでNo.2持ってるぜ”
“あるんだ、そんな番号”
“どうせならクレカ付きの会員証にしてくれ”
“PayPay♪”
“CD買う度にポイント貯まれば助かるw”
“お前ら調教され過ぎwCD1000枚買うぞwww”
ナギチ、さっさと進めるんだ!
もうみんなドームの名前の投票を忘れてしまっている!
「ファンクラブの詳細はのちほどホームページで発表します! みんな定期公演終了後にチェックしてね~」
「ナギサ、それだけじゃなくてドームの名前」
「そうでした! え~となになに? ファンクラブに入ってくださった方限定で、ドームの名前の候補に投票する権利があるんだって!」
ナギチはモニターに映った文字を読み上げるだけ。
まあ正直、ボクたちもファンの人たちとほとんど同じ情報しか持ってないからね。
「そうそう、ドームの名前の候補! さっきまで私たちが考えていたの~」
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1. 夏大好きドーム
2. 初夏の秘密基地
3. ギャラクシードーム
4. その他(自由記述)
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「あれ? ねぇ! ナギサのギャラクシードームは⁉ どうなってるの~? ちょっと3番は誤植⁉」
ナギチが抗議の声を上げる。「まあまあ」と困り顔でなだめるハルル。
さすがに何らかの配慮で『ナギサの』の部分は削除されてしまったかあ。まあ仕方ないんじゃない? 1人だけ名前が入ってたらおかしいし。
「え~納得いかない! ねえみなさん、聞いて~! ホントはね『ナギサのギャラクシードーム』って名前だったのよ! 私が考えたの『ギャラクシー☆』でしょ!」
再び仁王立ちでキメポーズのピースウィンク。
ナギチはまじめにやったらホントにかわいくてアイドルなのに、どうしてこうしてちょっとふざけちゃうのかなー。
“ギャラクシー”
“ナギサのギャラクシードームwww”
“グループ関係なくなってるw”
“逆に何で候補に入れたw”
“ケーキ大好きドームにしようぜ”
“ぼくらの海桜愛してるドームは?”
“無難なのは2か?”
“いや逆に1……3も?”
“一人何票まで投票できるんだ?”
“ファンクラブ限定だから1票だろ”
“積ませろ~”
“うわ出た!CD積ませろおじさんw”
“CD積ませろおじさん「CD積ませろ~」”
そうね、今回はCD積ませろおじさんの出番はないかも。
多重投票なしの1人1票だからね。4thシングルが出た時にはまた積んでもらって。
「みんな~、とにかくファンクラブに入ってね! そして『ナギサのギャラクシードーム』に清き一票を!」
「ナギサちゃん、それはずるいですよ~」
「ケーキ作ってあげるから投票してね♡」
「は~い。みんな『ナギサのギャラクシードーム』に入れてください~」
「不正! 1票マイナスにします!」
「そんな~。ハルちゃん自分のが候補に残らなかったからって嫉妬?」
「ちがっ!」
言葉に詰まるハルル。まさかの図星だ!
いやー、愛の巣はダメでしょ、さすがに残せない。あ、でもギャラクシードームみたいに名前の部分が消えるなら別にいいのかな。そこは考慮せずに投票しちゃったかも。
「サクラは断然2番です!『初夏の秘密基地』に投票お願いします!」
「2番にお願いしますですわ~」
“海桜は2番推しか”
“ハルルは選外とw”
“となると、夏大好きは誰だ?”
“メイメイっぽい?”
“夏大好きはメイメイっぽいな”
“ハッピーアイスクリーム!”
“懐かしっw”
「はいはい、みんな投票はファンのみなさんにお任せしましょうね。各自の宣伝はSNSでどうぞ」
立ち直ったハルル、場をまとめに入る。
「は~い。そろそろ次の曲のお時間! みんなお水飲んだりして準備できてる?」
「あ~、私お水飲みたいです~」
「申告しなくていいからさっと飲みに行く!」
「は~い。ナギサちゃんのおもしろギャグで場を温めておいてくださいね~」
メイメイが無茶ぶりを残し、舞台脇にあるテーブルへ。
「ナギサ、なんかギャグある……?」
「ハルちゃんその振りはひどい~☆」
「ごめん」
「じゃあ~、これから私の言う通りにしてくれる?」
ナギチ、ギャラクシーウィンク☆
「……何?」
ハルルが警戒気味に身構える。
「まずは気をつけのポーズ! それから、両手をちょっと開いて~、キューピーちゃんみたいな、そうそう、そんな感じ」
手を下ろしてしまったので、ハルルのマイクに音声が乗らなくなってしまった。
すかさずサクにゃんが走り寄ってきて、ハルルの口元にマイクを近づける。
「ありがと、サクラ。それで次は?」
「え~と、左足だけちょっとあげて~、右足だけで立つ。左足は膝から曲げて開いて~、違う違う。正面から見て開いて見えるように」
「こう?」
「もっと膝を曲げて左足を跳ね上げるように! そうそう、それ! 手はキューピーちゃんで。うまいうまい!」
これはなんだ……?
「ナギサ、これで合ってるのかしら?」
「合ってる合ってる☆ せーのって言ったら……」
ナギチがハルルの耳元で何かを囁く。
「せーの」
「ハル!」
……ハル?
「ねぇ、これ合ってる? 合ってるの?」
シーンとした会場の様子に不安げにキョロキョロするハルル。でもポーズは崩さない。
「合ってる~! みんな見てあげて~! 手と足で『ハル』の文字になってるでしょ~。ハルちゃんの一発ギャグ!」
「ナ~ギ~サ~! 何やらせるのよ!」
「え~かわいいのに~♡」
追いかけるハルルと逃げ回るナギチ。
仲良きことは美しきかな。
配信のコメント欄は、『ハル』の人文字ギャグに好意的だったことは特記しておこうと思う。




