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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第七章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #4編

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第28話 麻里さんが現れた意味

『定期公演#3では、みなに怖い思いをさせてしまったね。これは私たち管理側のミスだ。現場の皆様に対しては遅ればせながら謝罪をさせていただきたい。本当に申し訳なかった』


 モニター越しに麻里さんが深々と頭を下げていた。

 

 これは大きな意味を持つ謝罪だった。

 麻里さんが管理側を「私たち」と表現し、その代表として現場のメンバー、そしてスタッフたちの前に現れ、頭を下げたのだ。


 つまり、麻里さんはただの観察者ではなく、管理側……事務所上層部に属していて、しかもそれを代表するような権限を持っていると宣言したに等しい。


 たしかにいつも不思議だったんだ。

 麻里さんの持っている情報は常に最新で、しかもかなり深い事情まで把握していた。「誰かから又聞きする程度でそこまで情報が集まるだろうか?」その疑問がずっとあったのだけど、それが今払しょくされたことになる。


 答え:情報が集まるポジションに就いていたから。


 これまでもずっとボクたちは、麻里さんの指示――麻里さん単独ではなく所属組織かもしれないけれど、それに従って活動をしてきたことになる。


 ということはだ。ボクはそれ以上ということになるわけか。

 麻里さんの管理組織としての活動指示に加え、直接的にメイメイのマネジメントについて指示とも取れるアドバイスを受けてきたわけで……それは何を意味するのか……。

 組織としての意思決定とは異なる個人としての思いがあったのか、それとも単にボクが不完全な存在だから、善意でフォローしようとしてくれていたのか……それは今のところまだわからない。しかしボクは、いかなる場合も麻里さんの管理下にあったということだけはわかった。


『今回の定期公演#4では、前回のような状況になることを防ぐために、少し予定とは違うが、この会場をお披露目することにしたのだよ。我々の切り札だ』


 切り札。かっこいい言葉ではある。

 しかし、切り札とは隠していた奥の手のことだ。そのカードを切るということは、勝負に出る局面であるということの裏返しなのだと思う。


 単に逃げの一手として、会場の場所を隠匿しようとしただけではないということを示しているのだろう。おそらく、ここに手を出そうとするボンバー仮面V3に対して反撃を加える準備ができているのだと。しかも麻里さんの加える一撃だ。きっと決定的な一打となるに違いない。


 わくわくする。

 けれど一方で、背筋がぞわっとするものを感じるのだ。


 果たして、これは正しい行いなのかという疑問――。



『すべてが終わった後、犯人は私が葬ったよ』


 かつての≪BiAG≫の事件の顛末を想起させる。

 麻里さんが犯人に対して行ったのは非合法な対処だったのだろうということは想像がつく。

 では「すべて終わった」とは何を指しているのか。そして「葬った」とは物理的になのか、社会的になのか。


 そしてもっと気になるのは、今回の事件に対して、どんな解決のシナリオを描いているのかということだ。



 麻里さんとこの話をする中で、ずっと気になっていることがある。


 麻里さんはボンバー仮面V3のことを『お前たちの救世主』と称した。メイメイのお母さん、秋月美月さんも「当時の犯人に感謝をしていた」と語っていた。


 ボクはそうは思わない。絶対にそうは思いたくないんだ。

 犯罪者がどんな目的で、なぜこんなことをするかなんて考えたくもない。


 もし仮に、ボンバー仮面V3がホントのホントにメイメイのファンで、メイメイのことを有名にしようとしてこんな事件を起こしているのだとしても、アイツに感謝することだけは絶対にしたくない。

 後に≪初夏≫の歴史を振り返った時に、客観的に「そうだ」と誰もが認めたとしても、ボクだけは認めない。

 

 メイメイには常に正しくあってほしい。

 メイメイには、≪初夏≫のみんなには、後ろめたさなんて一切なく、真っすぐに前を向いて進んでいってほしいんだ。そして、誰もがキラキラした目で見つめるようなトップアイドルに登りつめてほしいと願っている。


 これがボクの願いだ。


 その夢に、犯罪者の手を借りるつもりはない。


 たとえ麻里さんが描いたシナリオと違ったとしても、ボクはアイツを排除する。



「かえでくん、大丈夫ですか?」


 レイが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「ん、ああ。ごめん、ちょっと考え事してた」


「1人で思い詰めないでください。わたしも、みんなもついていますから」


 それはボクの心を読んで言った言葉なのか、それとも単に思いつめた表情をしていたから心配しただけなのかはわからない。だけど、その一言がうれしかった。きっと傍から見てわかるほど、ボクは醜悪な顔をしていたのだろう。そしてきっとこれからもこんな顔をしなければならない状況に陥ることはあるはず。それでも――。


 ボクには仲間がいる。


 それを思い出せばどんな難しい状況だって乗り越えられる気がするんだ。

 なんせ、仲間だからね。


 きっと以前のボクにはいなかっただろう仲間たち。一緒に泣いて笑って、一緒に成長できる仲間たち。


 ああ、なんてしあわせなんだろう。


 そうだよ、簡単なことだったんだ。

 ボクたちは10人もいる。爆弾テロ? 配信ジャック? そんなちんけな犯罪者に負けようがないじゃないか。


 そう考えるとなんだか笑えてくるね。


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