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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第36話 オーディション前夜~11階会議室にて~

 ボクたちは11階の会議室で待機していた。


 都もレイも無言。もうすでに15分以上が経過している。

 いい加減沈黙にも耐え切れなくなってきたので、内容のない会話をぶつけてみる。


「花さんと詩お姉ちゃん遅いねー」


「ええ、そうね。何かわかったのかしら……わかっているといいのだけれど」


 都は気が気でない様子。こちらに目線を合わせてくることもなく、落ち着きなく何度も端末に着信がないか確認している。


 アカリさんとウタのバディは、レッスン以外でもいつも一緒に行動しているイメージだ。深い仲ではないと関係性は否定しているものの、キスする仲、なんだよね……。いや、キスするのに深くないって海外の感覚どうなってるんだろ。女の子同士だとアイサツなの? そもそも海外ってざっくりしているけれど、どこの国なんだ? ううーん、複雑すぎて理解できない。


「わたしはそういう感覚は大切だと思いますよ」


 レイ、それどっちの意味で言っているの……?


「んふふっ」


 アカリさん笑いで返される。

 うわ、答える気ないやつー。万能すぎてずるいな。



 それからさらに30分ほど経過してところで、ようやく花さんとウタが会議室に現れた。


「詩~大丈夫⁉ 落ち着いてね。気を確かに。まずはほら、お茶でも飲んで」


「都さん……いったん落ち着こう? 私は大丈夫だから」


 ウタのほうは思ったよりも冷静そうに見えた。


「集まってもらったのに待たせてしまってごめんなさい。警察もきて話をしていたので時間がかかってしまったわ」


 少し疲れた様子の花さん。警察か……事件なのかなあ。


「それは大変でしたね。警察……灯さんは事件に巻き込まれたのでしょうか……」


「それはまだなんとも。警察と警備会社のほうで改めて現場検証や映像の確認をおこなっているのでなにかわかるといいのだけれど」


「詩お姉ちゃんも警察に話を聞かれたの?」


「ええ、部屋には監視カメラがないから、どんな話をしたのかとか、変わったことはなかったかとか……」


 声に張りがない。冷静そうに見えてやはりショックは大きそうだ。そして疲労も……。


「うたさん、それで、その、あかりさんにかわったところはあったのでしょうか。あ、事情聴取みたいですみません、気になってしまって……」


 尋ねてしまってから、ハッとしたのか、レイがすまなそうにする。


「ううん、大丈夫。たいしたことは話してないのよね……。テレビの話とか本の話とか、あとは明日のオーディションの話とかかしら」


 そう話すウタに変わったところは見られなかった。

 もしかしてアカリさんは本当に事件に巻き込まれたのか。でも、映像の最後で手を振って消えたという部分が大きく引っかかる。いかにもアカリさんらしいというか、意図的に消えたとしか思えないというか。探偵団のモニタリングの時もそうだし、今思えば対バンの時の様子も引っかかってくる。でも消えたって、なぜ? どうやって?


「灯さんが最後のほうに言っていたのは『明日のオーディション楽しみね♪ カエちゃんがまとめてくれるからきっと大丈夫ね♪』って。楓さん頼もしいから、本当に助かるわ」


 たしかに対バンから少し出しゃばってしまっている感はあるけれど、マネージャーとしては当然のことだよね? アカリさんの言葉にも特におかしなところはないか……。


「詩が部屋から出ていくときには何もなかったの? 灯さんが慌てている様子や誰かから呼び出されていることなんていうのは」


 都ナイス。その線はありそう。


「ううん、全然。そろそろ時間だから暗くなる前に帰りなさいって。いつもと同じくらいの時間かな」


 これも違ったか……。何も普段と変わらない。普段と違うのは、明日がオーディション当日だということだけ。でもそれはアカリさんに限った話ではないのだ。


「はい、もしもし、はい、はい――」


 花さんが電話に出ている。険しい表情からして、この件に関する電話だ。警備会社か、警察か。


「はい、承知いたしました。失礼します」


 深々と頭を下げて、花さんは通話を切った。


「何かわかりましたか⁉ 灯は見つかったんですか⁉」


 都が食い気味に花さんを問い詰める。


「待ちなさい。都、一度座りなさい。説明するから」


 そう言って全員をイスに座らせると、花さんは話し始めた。


「警察による現場検証と映像の解析の速報としては、事件性が極めて低いそうよ。詳しくは後日の調査になるみたい」


「つまり、灯さんは映像の通り……消えた?」


「それは警察も断定できずにいるわね。今のところ映像を改ざんされた形跡は発見できず、その可能性は極めて低いということだけ」


 映像は本物。つまり手を振って消えた、と。


「花さん、それ、ボクたちも見ることできませんか?」


「さすがにそれは……でも、そもそも警察が差し押さえているみたいだから、今はまず難しいわね」


 やっぱりダメか……。映像さえ見られれば何かわかることもあるかもしれないのに……。


「一瞬! チラッと! 1回だけでも!」


「私も見たいです!」


 ボクと都は懇願する。

 無理だとわかっていても、何かできることを。


「んふふっ、かえでくんは本当にわがままですね。そこまで言われたら奥の手を出しますよぅ」


 レイさん、メガネキランッ。その金縁メガネいつかけた?


「レイ……? まさか?」


「ええ、この手のバックアップはオンラインストレージにも保存されていますからねね。そちらからちょいと――」


 ホント何者なのこの人。


「はい、そちらのモニターに出ます」


 レイは会議室の壁にかかっている巨大モニターを示す。


 映像が流れる。

 メイメイとウタの部屋3722号室の扉を開けて出てくるところから。

 2人は別れを惜しむように手を振りあい、ウタがドアを閉める。

 扉が閉まるのを確認した後、アカリさんがゆっくりと廊下を歩きだす。途中2回ほど小さくスキップしている。


 カメラが切り替わり、37階エレベーターホール側からの映像。

 廊下をアカリさんが歩いてくる。

 あと1歩でエレベーターホールの絨毯、というところでピタッと止まる。

 一瞬天を扇いだ後、前方の監視カメラに向かって右手をゆっくり振る。少し遠くてその表情は覗えない。


 と、その時、下から小さなつむじ風が巻き起こるように、アカリさんのスカートと髪の毛が一瞬はためき持ち上がる。


 そしてアカリさんは消えた。


『サッちゃんのことを守ってあげて』


 ボクにはアカリさんの声がはっきりと聞こえたんだ。

 そうか、アカリさんはいなくなったのか。きっともう会うことはないのだという予感がした。


「この映像からだと、なにもわからないわね」


 都が首をひねっていた。

 そうか、アカリさんのことは、またボクだけに聞こえたんだな。

 アカリさんがボクだけに向けたメッセージ。「メイメイを守れ」だ。

 ボクは何から守ればいい。何をしたら守ったことになるの。教えてよ、アカリさん……。


「かえでくん、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよぅ」


 レイがボクの顔を覗き込み、おでこに手を当てる。


「う、うん……。ちょっと映像のことががショックで……」


「心配事があるならちゃんと口で言ってください。わたしはかえでくんの味方ですからね」


 レイははっきりと言葉にしろと言った。察してくれ、言わなくてもわかってくれというのは違うぞと。自らの意思で助けを求めるべきなんだ。

 でも、どんな助けを求めればいいのか、今のボクにはまだわからない。


「この件に関して、上からの指示が来たわ」


 花さんが端末を凝視している。


「『明日のオーディション全日程終了まで本件についての情報公開を禁止する』だそうよ。すでに内容を知ってしまっているあなたたちは、混乱を避けるために他の関係者との会話でこの話題を出さないようにくぎを刺されているわ。十分注意してね」


 アイドル候補生たちをオーディションに集中させろ、ということか。それはわかる。わかるけれど……アカリさんがいなくなった≪六花≫のほかのメンバーはどうすれば……。


「でもみんなに何の説明もなく、オーディションなんて参加できるわけないですよね」


「灯は消えてしまったんですよ! その理由を説明せずに混乱を避けると言われても!」


 都も食い下がる。


「逆に聞きます。あなたたちはどうしたら良いと思う? 理由、説明できるのかしら?」


 花さんの鋭い一言にボクたちは何も言い返せなかった。

 理由がわかっていたら苦労しない。そういうことだ……。


「明日のオーディションはどうされるおつもりですか? 4人のフォーメーションで今から歌割などを組みなおしますか?」


「そうね。4人で……。かなり厳しい戦いになるでしょうけれど、それしか方法は――」


 アカリさんはもう帰ってくることはないかもしれない。

 ≪六花≫は4人になってしまった。こんな状態でオーディションなんて……。


「待って、追加のメッセージが来たわ。……これは……」


 花さんが端末を見つめたまま、考え込んでしまった。上からの指示だろう。もしかして勝手に映像を見たことがバレたのか。


「……花さん、どうしました?」


 あまりに長い沈黙に、都が恐る恐る声をかけた。


「ああ、ごめんなさい。少しびっくりしてしまって。でも、たしかにそうね、これが今とれる最善策なのかもしれないわ」


 何やら花さんは1人で納得したようだ。


「ええと、追加の指示です。『明日のオーディションは、七瀬楓が灰原灯の代役を務めるものとする』」


 ………………は?


「楓、あなたが灯の穴を埋めて。あなたならできるわね?」


 花さん、これ冗談抜きで言ってる?

 え? ボク、マネージャーなのに歌って踊るんですか⁉


「かえでくんアイドルデビューですね!」


 レイさん、めっちゃうれしそうなところ悪いんですけど、これオーディションですし、デビューはしないですから……。


「楓ならいけるわね! 衣装のサイズ直し徹夜でやっておくわ!」


 ま、待ってください。都さん! あなた家庭科2だって情報はつかんでいるのでぜったいにやめてください。衣装がなくなってしまいます!


「お姉ちゃん……楓ちゃんのこと応援してるぞっ!」


 菩薩のような表情で姉プレイをしてくる詩お姉ちゃん。なんだろう、あなたそんなキャラでしたっけ? でも、ちょっとやる気出てきちゃいますけど、はい。


「楓、無茶を言っているのは重々承知しています。でも、上の指示に納得してしまっている自分がいるわ。先週の対バンを見せてもらって、この指示を受け取って、あなたならできるって確信している私がいるのよ。だから、ね、お願い!」


 花さんがボクの両肩に手を当てて……指が、指がめり込んでちょっと痛いです。


「は、はい、わかりました。やれるだけのことはやってみます……」


「やりました! かえでくんアイドルデビューですぅ」


 レイが首に抱きついて……ギブギブ、首締まってる! ……あと背中にあたって……んふふっ♪


「急いで衣装のサイズ直しを!」


 こら、都マジでやめて! 明日ジャージで出ないといけなくなったらそれこそオーディションが台無しに!


「都! それは大丈夫だから。私のほうでちゃんとやっておきます。だから……その衣装をゆっくりとこっちに渡して。膝をついて両手を頭の上に……」


「え、そう? それじゃあ詩にお願いしようかな……」


 誘拐犯か何かかな?


 花さんが咳払いする。


「今さらだけど、マネージャーのみなさん、明日のオーディションのサポート、しっかりとお願いしますね!」


「「「「はい、任せてください!」」」」


 ボクたちはキレイにシンクロした。


 代役つい引き受けちゃったけど、やっぱり不安です……。

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