第22話 ミステリーツアー。3人組か4人組か?
「ミステリーツアーってこういうものだっけ……?」
定期公演#4の朝。
本社ビル前に並ぶ10台以上のレンタカーを前にして、思わずつぶやいてしまった。何か思ってたのと違う……。
「3人か4人ずつのグループに分かれて、車に乗り込みなさい。途中の休憩地点で何回か別のレンタカーに乗り換える手筈になっているから、スムーズに頼むわよ」
花さんから指示が飛ぶ。
途中休憩を挟むってことは、わりと長距離の移動なのかなー。どこまでいくんだろう。
いや、そもそもこれって――。
「ミステリーツアーっていうより、犯人の逃走劇っぽいんですけど⁉」
レンタカーを乗り捨てて、足がつかないようにしているって、完全に逃げてる人の動きでしょ! ボクたちはやましいことなんて何もしていないのに!
「ハンターに捕まらないようにがんばりましょう」
いや、逃走中の撮影じゃないからね?
今日は定期公演#4。遊びじゃないんだよ! 日本のどこかの場所に準備してくれているライブ会場に到着し、ボンバー仮面V3に場所を特定されないようにしながら定期公演の配信をしなければいけない! これが今日のミッションだ!
「世界の果てまで逃げますよ~!」
あれ……世界? 日本でライブ、だよね?
さすがに今日の今日で海外はないよね? よく考えたらボクはパスポートを持っていないし、まあ海外はないかー。
「わたしはユーコン川を下りたいです」
レイさんあの作品好きですね。最近いっつも藤やんのモノマネしてるもんなあ。でも今日は川下りではなくて定期公演ですよ。
「いつか藤村さんと一緒に『じゃじゃじゃじゃあ、はい、キュー!』をやってみたいです」
さすがにその夢はマニアックすぎないですかね? ボクはやっぱりサイコロの旅がいいかなあ。深夜バスに乗ってみたい!
「は~い、私は甘いもの対決列島やります~」
メイメイはそうですよね。知ってました。いや、もう普通に普段の動画でそれやろっか? 全国回るのは無理だとしても、ご当地の甘いものをお取り寄せしてメンバーと早食いで対決すれば良くない?
「あなたたち、おしゃべりしていないで早く車に乗りなさい! 車移動が長いんだから、渋滞に巻き込まれた場合も考慮して早め行動!」
「は、はい! 急ごう! 話は車の中でもできるもんね」
「「「「は~い」」」」
ん、人口密度が急に……。返事がいっぱい……。
いや……3人か4人のグループだからね?
運転手さんを除くと、普通の車は4人しか乗れないからね?
「適当に分かれて乗らないと……」
「「「「は~い」」」」
うん。
なんか急に大混雑。
これまではみんなで1台のバスだったからなあ。
「いや、この手はなんですか……?」
右にナギチ、左にハルル。
両方からボクの腕をがっちり固めて、持ち上げるようにしてくる2人。
「前世から私と添い遂げるって決まってますぅ♡」
「アカシックレコードによると私が隣で決まりですって♡」
やばい2人が結託して共闘……ゴジラxコングみたいになってるじゃんか!
誰かこのヤバい人たちを止めてー!
「ちょっとー、拉致反対! レイ、助けて!」
って、今度は何⁉ 後ろからも猛烈な力で引っ張られてる⁉
「コーチはサクラとみっちゃんと一緒の車に乗るんです!」
「最初から決めてましたわ~」
#海桜、キミたちもか! 制服伸びちゃうから裾を引っ張らないで!
「みなさん、かえでくんは1人しかいませんからね。ここは公平にくじ引きで決めましょう」
「「「くじびき?」」」」
おお、レイ! ナイスアイディア! くじびきなら恨みっこなしだ。
ここにいるのは、ボク、レイ、メイメイ、ナギチ、ハルル、サクにゃん、ウーミーの7人。シオと都はすでに別便で出発済み。ウタはセキュリティ対策をしてくれているから欠席。
つまり、3人組か4人組に分かれることになる。
「赤色のくじが4本。青色のくじが3本ですから、それできれいに分かれましょう。1回勝負です」
レイの右手には7本のこよりが握られていた。
古風だけど最も安全なくじ引きですね!
「ま、まずはカエデちゃんに引いてもらいましょうよ!」
「それがいいわね!」
「コーチお願いします!」
「赤……いいえ、青……どちらが良いのか難しいですわ~」
まあ、3人ほうが広く乗れるから、普通に考えると青が当たりなのでは?
後部座席の真ん中は補助席みたいで落ち着かないからね。
「かえでくん、最初にどうぞ」
7本で赤が4本。青が3本だから、確率的には赤を引く可能性が高いわけかー。まあ、どっちでもいいか。どうせただの移動だし。
「ほい、じゃあこれ!」
適当に選んで、レイの手の中から1本のこよりを引き抜く。
結果は――。
「赤だ」
まあ、確率通りかな。
ほかのみんなもさっさと引いて分かれましょー。って、あれ? なんでみんな黙ってけん制し合ってるの? 誰でもいいから早く引きなさいって。