第35話 オーディション前夜~3502号室にて~
「さっきの話なんだけど……」
「なんでしょうか? 急に動くと危ないですよぅ」
夜。寝る前の日課になりつつある至福の時間。耳かきの時間だあああああああ。
「レイとメイメイとハルルが同じ学校って話」
「その話ですか。そういえば言ってませんでしたね」
あふん……。ふわふわの梵天が耳の入り口を行ったり来たりしている。
「この本社から歩いて5分くらいのところにある女子高に通っています。運営母体がグループ会社の1つなので、そのつながりですね。同じクラスにも今回のオーディション参加者が何人かいます。はい、おしまいです」
「ありがとう。芸能人が集まる学校みたいな感じなのかな? なんか不思議ー」
「そうですね。すでにデビュー済みのアイドルやミュージシャン、役者の方もいらっしゃいますし、運営側で働かれている方も多いですから、そうなのかもしれませんね」
なるほどね。
芸能界に入りたい子や芸能界で働きたい子を集めている学校なんだ。
もうちょっとだけごろごろ♡
「レイはどうしてその学校に入ったの? マネージャーになりたかったんだっけ?」
「師匠の勧めで……勧めではなくほとんど強制でしたが、マネージャーになる少し前くらいに転校したんです。前の共学のところには……あまり通えていなかったので……」
ああ、そういえば前に聞いた話だ。男子に告白されすぎて女子を敵に回したという伝説があったんだったね。
「少し解釈がねじ曲がっている気がしますが……はい、女子高はとても居心地が良いので助かっています。わたしのことをじろじろ見てくる人も少ないですし」
「少ない? まだいるんだ?」
もしかして、拡張観察か意識の具現化か何かを人に見られた、とか?
「えっと……はい……。1人だけ、その、多大なる好意を寄せてくださる先輩がいまして……」
「マジ?」
女子高……先輩……タイが曲がっていてよ?
「カエくん、マンガの読みすぎです。うちの学校にそういう風習はないです」
そうですか。しょんぼり。
と、その時、部屋のインターフォンが鳴った。
「ん、こんな時間に誰だろ」
「わたし、みてきますね」
そう言ってレイは立ち上がらなかった。代わりに、レイ(魔法使い)が応対のために玄関へと向かっていく。
便利だけど、これでいいんだっけ? とたまに疑問に思ってしまう。ボクはそのままふわふわの膝枕を堪能し続ける。
「なんと、それは大変です! かえでくん、緊急事態です!」
急にレイが大声を上げた。
「ん、何かあったの?」
レイがボクの頭をどかして立ち上がる。膝枕がなくなったので、仕方なくボクも起き上がった。
「落ち着いて聞いてください。さきほど、あかりさんが行方不明になりました」
「な……に?」
行方不明って? どういうこと……?
ちょっと理解が追いつかない。
「とにかく、いきましょう!」
少し慌てた様子のレイに手を引かれて歩きだす。途中でレイ(魔法使い)とすれ違い、ボクたちは玄関へと向かった。
「あ、楓! 灯さんが行方不明なのよ、どうしよう⁉」
部屋のドアの前で都がおろおろしていた。
「まってまって。ちょっと状況がわからない。もう少し詳しく教えてくれない?」
「えっと、さっき花さんから私のところに連絡があって、私まだ本社ビルに残っていたので、急いでみんなを集めているところなの。それで、花さんから聞いた話によると――」
情報を整理する。
1時間ほど前に、ビル内からアカリさんのGPS情報が急に途絶えたという一報が花さんに報告された。
端末の故障の可能性があるため、警備会社が詳しく状況確認したところ、GPS端末の不具合ではなく、物理的に端末自体の消失が確認された。
その後の追加調査で、管内モニタリングの録画映像にアカリさんが消える瞬間が残っていた、ということらしい。
「灯さんと早月さんの部屋から詩が出てきて、その3分後くらいに灯さんも部屋から出て廊下を歩いていたらしいのよ。それが突然、エレベーターホールの手前で止まって、廊下の監視カメラに向かって手を振った直後に、ふっと姿が消えた、らしいわ」
「なにそれ。ホラー? カメラの不具合とかそういうことではなくて?」
「ええ、それがタイミング的にあまりにも……その監視カメラの映像から灯さんが消えたのと同時刻にGPS情報もとだえているので、カメラの不具合ではない可能性が高いという見立てらしいわ」
なにそれこわい。神隠し?
「今はどういう状況なんですか?」
と、レイ。
「えっと、直前に話をしていた詩に、事情聴取みたいなことが行われているらしくて、それ以外の本社に残っているメンバーを会議室に集めてきて、って花さんから言われているわ」
「端末で呼び出してくれれば良かったのに」
「あ、それもそうね……。気が動転してしまって……」
「大丈夫。ほかの人への連絡は手伝うよ。あとは誰が残ってるの?」
「あとは……春さんと早月さんかしらね」
「OKボス。2人に連絡しちゃおう」
「あ、待って。この話は一旦マネージャーだけにとどめるように言われていて。明日オーディションだから、今は変にストレスを与えないようにって。もしかしたら何かの勘違いで、大した問題じゃない可能性もあるし」
なるほどね。うん、たしかにそのほうが良さそう。まだ騒ぎ立てるような状況じゃないか。
「じゃあ、ここにいるボクたちで全員なのかな?」
「そうね。11階の会議室で待機しましょう」
「OKボス」
「楓……その呼び方は……やめてくれないかしら?」
え、めっちゃ気に入ってたのに。
「みやこさん、これを着けてください」
スッと渡されるサングラス。これは探偵団の⁉
「いやよ、そんな大きなサングラス。2人ともふざけてないでいくわよ!」
「「OKボス」」
「……はあ……もういいわ」
ふぅ、都イジリは潤うわあ。
それにしてもアカリさんに何が起きたんだろう。




