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第5話 親バカ? 結果がすべて。運も実力の内?

「これで今日の実験は終了だな。お疲れさん」


 レイに全身をきれいに拭いてもらって、真新しい服に着替えさせてもらったところで、麻里さんが実験終了を宣言した。

 いや、なんで用意されていたのがゴスロリ調の黒いフリフリいっぱいのドレスなのかは甚だ疑問なんですけどね? ボクの顔にはカチューシャなんてかわいらしいものは似合わない……そっと頭に乗せなくていいから!


「お、そろそろ夕飯時だな。薬の調合が終わったらまた遊びに来てくれ。ではな」


 と、麻里さんが出口へと視線を移す。

 帰れってこと?


「師匠、ありがとうございました。また来ます」


 レイがぺこりと頭を下げる。それからボクの手を引いて出口に向かおうと歩き出す。


「ちょっと、ちょっと違うでしょ! 今日はメイメイのことを相談に来たんですよ!」


 つながれた手を乱暴に離し、ボクは麻里さんのほうに向きなおる。

 事前にメッセージで伝えておきましたよね? 怪しげな人体実験だけして帰そうなんて許しませんよ!


「ああそうだった」


「そうでしたね」


 くっ、この師弟コンビは!


「ボクは世界で1番メイメイのことを心配してるんです!」


「さつきさんは何事もないかのようにふるまわれていますが、やはり今の状況は心配ですね」


 さすがにおふざけモードから一転。レイが深いため息とともにコメントする。

 レイだってメイメイのことを気にかけてくれているのだ。


「そうか。2人の目にはそう映っているのか?」


 ボクたちの深刻な訴えにもかかわらず、麻里さんはまるで大したことではないかのように軽い返しだった。日本中、もしかしたら世界中から注目されちゃっているのに、これってそんなに重大な問題じゃないんですか?


「メイメイは、麻里さんが『事務所関係者以外に秋月美月さんとの母子関係を話してはいけない』と口止めしていたと言っていましたけど?」


「ああ、そうだな。たしかに私が早月に口止めした」


「それは何でなのか教えてもらえますか?」


 今日はその理由を聞きに来たんですよ。


「どうしても言わないとダメか?」


「もったいぶらないで教えてくださいよー。……もしかして他人には言えない理由ですか?」


 やはり予想通り言いにくそうにしている。

 隠し子だからなのかな……。

 いや、まあ、世間から母子関係を隠しているって意味では隠し子ではあるんだろうけれど、父親のほうの話でどうしても明かせない何かがあるとか。普通に考えてやっぱりそっち路線だよね……。だってさ、計算上は秋月美月さんが引退してすぐにメイメイを身ごもっているわけでしょ。まさかそれが理由での引退だからなの? 相手が誰であるにせよ、もし現役アイドルが妊娠、ってことだったとしたら、超絶スキャンダルじゃんか……。


「早月には実力で売れてほしかったんだ……」


「……はい?」


 予想だにしない答えに、頭の先から変な声が出てしまった……。

 えっと、実力で?


「柄にもなく……育ての親バカというやつなのかな。ハハハ。早月には親の七光りなどではなく実力で……夏目早月として売れてほしかったんだよ」


 そう語る麻里さんだったが、表情と言葉がまるで合っていなかった。

 照れるでもなく、茶化すでもなく、むしろ渋い表情――何か後ろ暗いことでも隠しているかのような、そんな表情に見えた。


「『結果がすべて。運も実力の内』そんなことを熱弁されていた人と同一人物とは思えない発言ですね。正直驚きました」


「それはそれ、これはこれだ」


「なんかずるい。いやね、別に否定しているわけじゃないですよ。メイメイが最初から二世として世間に登場していたとしたら、まったく違った展開になっていたでしょうし」


 もしかしたら≪初夏≫というグループである必要すらなかったかもしれない。

 それこそデビュー前から注目が集まっただろうからね。


 伝説のアイドルを母に持ち、自身もアイドルになることを決意したメイメイ。


 アイドルとしての資質を問うようなオーディションなど必要があるわけもなく、華々しくデビューを飾るだろう。

 デビュー記者会見。殺到するマスコミ。デビューと同日に発表されるデビュー曲のタイトル、そして発売日の告知。デビューイベントはNHKホールあたりで大きく打ち出すのだろうか?


 トークがたどたどしくても、それが「逆に擦れていなくて初々しい」と世間の目には映り、もし地を出してふざけようものなら、「伝説のアイドルの子なのに親しみやすいキャラクターだ」と持ち上げられるだろう。きっと何をやっても世間からは好意的に取られ、歌に演技にCMに引っ張りだこ。そしてあれよあれよという間に誰もが知っている国民的アイドルに。


 そして単独武道館ライブ。


『私、お母さんみたいに満員の武道館でライブをするのが夢だったんです!』


 そこに涙はなく、キラキラとした笑顔で両手を振るんだ。

 デビュー1年目のアニバーサリーライブ。



「そんな未来があったかもしれない……ですね」


 それがメイメイの望む未来なのだとしたら……?


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