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第2話 麻里さんと輸入ジュース

「いつまでも遊んでいないで本題に入ろうじゃないか」


 麻里さんが部屋の隅に歩いていき、冷蔵庫を開ける。


 まったく……今の今まで誰と誰がふざけていたんでしたっけね? ホント、人の体で遊ぶのはやめてくださいよ。黙って会話を聞いていただけで赤ちゃんにされたらたまらないですわ……。


「よし、今日は特別にジュースを用意しておいたぞ」


 と、麻里さんがいつものようにペットボトルを投げてよこす。


「ありがとうございます。いつものお茶じゃないなんてめずらしい……これ何のジュースですか?」


 見たことのないパッケージ。

 これ何語? 1文字も読めない……。


「……知り合いの会社が輸入してきたんだ。来月から日本で発売するらしい。中身は何だったかな……」


 麻里さんが「はて?」と首をひねる。

 いや……中身がわからないものはちょっと……。輸入品って大丈夫なんですか?


「おいしいですよ。甘くてほんのり酸味があって、後味に少し苦みがあって」


「レイ⁉」


 振り返ればレイはすでに謎のペットボトルの蓋を開けていて、なんなら半分くらい飲み干していた。

 勇気ありすぎるでしょ……。


「いや、その……甘くてすっぱくて苦い? 大丈夫なの、それ?」


 認可されていない物質とか入ってないですよね?


「いちいち細かいやつだな。万が一異常が出たら、昨日のバックアップの状態に戻せばいいだけだろ」


「雑過ぎません、それ? ボクは良いとしてもレイは?」


 バックアップとかないですよね。


「わたしは大丈夫です。鍛えてますから」


 鍛えてるって何を……毒耐性?

 こういう時、レイは大胆過ぎて困る。麻里さんが渡してくるものだから全幅の信頼を寄せているんだろうけどさ……。


「……師匠。少し座ってもよろしいですか?」


「おう、どうした? 顔が赤いぞ」


 レイの顔が上気し、少し汗も掻いているようだった。


「この部屋、暑くありませんか?」


 レイの呼吸が荒い。浅い呼吸を繰り返しながら、ソファに腰を下ろし、背もたれに寄り掛かってしまった。


「室温は……25度だな」


 別に暑くもないし寒くもない。湿度もちょうどいいし、とても快適な部屋だと思うよ。

 しかし、レイはすでに汗ばんでいる、という状態を通り越し、滝のような汗を流していた。なんなら白いブラウスが完全に透けてしまっている。


「あのー、もしかして、この謎のジュースのせいでは?」

 

 この状況、どう考えてもそれ以外ありえないんですよね……。


「そうか。発汗作用もあったのか~。まあ一時的なものだろうな。それよりも楓、お前だ」


「え、なんですか?」


「零に予想以上の効果が表れているようだ。予防措置として、お前の体を拘束させてもらう」


 ん? 体を拘束?

 麻里さんは何を言っているんでしょうか。


 と、問いかける前に、あっという間にマジックテープで手足を縛られミノムシ状態。もぞもぞしか動けない!


「ちょっと⁉ なんでボクが⁉」


「よいしょ、よいしょ……楓、大きくなったな」


 麻里さんが手足を縛られたミノムシ(ボク)を引きずるように移動する。


「うぉ~! ファイト~いっぱ~つ!」


 往年のドリンクCMのような掛け声で叫びながらボクの体を持ち上げると、ソファでぐったりしているレイの膝の上に投げて転がしてきた。


「ちょっと! レイ、大丈夫なの?」


 ボクは寝返りをうつような動作で半回転。姿勢を変えてレイの太ももの上で仰向けになる。見上げるようにレイの様子を伺……胸が邪魔でレイの顔は見えなかった……。


「わたしは大丈夫です……。少し……暑いだけですから……」


 声だけでの判断になるけど、ぜんぜん大丈夫そうではなかった。

 とにかく息苦しそう。


 つめたっ!


 いよいよブラウスが吸収できなくなった汗が、ボクの顔に落ちてくる。


 異常な発汗。

 インフルエンザになった時でも、こんなに汗って出るものだっけ?


 つめたっ!


 満足に身動きが取れないので、レイから滴ってくる汗を避けることができない……。


「あのー、麻里さん? レイが異常に汗を掻いているんですけど、ホントに大丈夫なんですか?」


 せめて体温を測って状態を見てあげるとか。

 なんか医学的な処置をですね……。


「ああ、平気だ。それよりも楓、良い感じに汗を吸収しているか? 本当は相互作用を見てみたかったんだが、これはこれでおもしろいサンプルが取れそうだな」


 今なんか怪しげなことをつぶやきませんでしたかね?

 サンプル?


「まさか実験……?」


「ああ、ちょっとした実験に付き合ってもらおうと思ってな。ちょうど良いタイミングで2人がきたからな」


「だ、だましたなー! 来月発売の輸入ジュースって言ったじゃないですか!」


 くそぅ、動けない! 麻里さん、ボクの足を押さえないでください!


「すまんすまん。あれはウソだ。今、小宮たちが媚薬効果のある香水の研究をしていてだな。その成分を濃縮させて経口投与してみたら効果がどうなるか、つい興味が湧いてしまったんだよ」


「興味が湧いてしまって、じゃないですよ! ボクたちで人体実験しないでください! ってレイ、そんなの飲んでホントに大丈夫なの⁉」


 媚薬効果の香水を濃縮させて、って言葉だけでとんでもなくヤバそうなのが伝わってくる……。


「わたしは平気です。かえでくんは大丈夫ですか?」


「いや、ボクはまだ1口も飲んでなかったから」


「それは……良かったです……」


 ますます汗が。

 他人のことを気にしているような状態じゃなさそうなのに。


 それにしてもレイの汗でボクの顔がびちゃびちゃに……。もう目を開けていられないほどの水滴で目の回りが濡れているんですけど……。


「すみませんが顔を拭きたいので、拘束を解いてもらえませんか?」


「もうしばらく実験に付き合ってくれたらな。よし、そろそろいいだろう。楓にはもう1つの実験のほうを頼む」


 もう1つの実験? なんですか? めちゃくちゃ嫌なんですけど……一刻も早くこの拘束をほどいてほしいんですけど……。


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