表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

331/365

第35話 定期公演#3 その1~ボクに求められていること

 さあ、時間だ。

 ボクたちの定期公演#3がいよいよ開始される。


 配信画面から『公演開始までしばらくお待ちください』の文字が消え、Overtureが流れ始める。


 3回目ともなると少し冷静に状況が把握できてくる気がするね。

 今日の会場のAIたちの客層がいつもと少し違うのがわかるんだ。


「なんか……女の子が多い、よね?」


 ピンクと緑のペンライトを2本装備の若い女の子がたくさんいる、ような気のせいのような……。


「『#海桜』の親衛隊の方たちでしょうか」


「え、親衛隊⁉ AIにもそんな集団が⁉ まさかと思うけど、AIたちってSNSのアカウント持ってたりしないよね⁉」


 SNS上では『#海桜』を激推ししているグループがいるのを見かけているけれど、まさかAIたちの中にもそのメンバーがいる、のか。


「ほら、2人とも静かに。始まるわよ!」


 へーい。

 全員がセットポジションにつき、1曲目のパフォーマンスが開始される。


『明日への希望』


 まさかの選曲。

 ポストアポカリプス――人類史が崩壊した後の世界を描いたバラード曲、ハルルがメインボーカルを務める曲だ。

 スローバラードから開始されるアイドルライブは非常にめずらしいと思う。アコースティックライブでもない限り、テンションアゲアゲの曲から開始するからね。


 今日もハルルの声がよく通る。

 ボクはこの歌詞、ホント好きだなあ。


------------------------------

 たとえこの世界が滅びたとしても

 僕たちはこの足 大地を踏みしめる

 叫び声あげて 生き続ける

 それこそが魂 明日への希望

------------------------------


 命の大切さ、仲間の大切さ、生きることの意味、そして明日への希望を訴える。

 ハルルの悲痛な叫び声に魂が震えるのを感じるんだ。


 もしかしたらこれは今のボクたちの状況を歌っているのかもしれないね。

 物々しい警備の中、隔離されてこんなふうに定期公演を行っている。最近ずっと配信やSNS上でしかお客さんたちと触れ合えずにいる。最後に直接ファンの人たちと対面したのはいつのことだろう。


------------------------------

 悲しい記憶なんて いつかは薄れる

 明日だけを見つめて 生きていけばいいさ

 手に手を取り合って ぬくもりを感じれば

 僕たちの世界は広がり続ける

 後ろは振り向かない 明日への希望

------------------------------


 そうだよね。今は苦しくても、いつかはこの悲しい記憶も思い出に変わり、笑って過ごせる日が来ると信じて。

 ボクたちは、決して明日への希望を失わない。



 さあ、2曲目は打って変わってご機嫌なナンバーだ!


『We’ll be the No.1 IDOL』


 騒ぐぞ騒ぐぞー! 全員立ち上がれー! 行儀よく座ってるヤツはぶっ飛ばすぞー!


「かえでくん、お行儀が良くないですよ。ファンの方を殴ってはいけません」


 はい……ごめんなさい。今のは、その……比喩的な意味でして。決してホントに殴ろうとしていたわけでは……。


 はっ! No.1! No.1! No.1アイドルNo.1!


「かえでくん、次、出番ですよ」


 ああっ……はい。

 そうだった、3曲目はメイメイとボクのソロユニット曲『シュークリームが膨らまないの』だ。

 つまり、このあと出番なわけで。騒ぎたいのに……でも準備しなきゃ!



「衣装、変じゃない?」


 黄色いリボンたくさんついた真っ白なドレス。そしてシュー生地を思わせるような黄色いベレー帽。甘々な曲にあわせてふわふわな装いだ。


「今日のかえでくんは、いつにも増してとてもかわいいです」


「そ、そう? ちゃんと着れてるならいいんだけど。メイメイの足を引っ張らないようにがんばらないとなあ」


 マネージャーがアイドルの足を引っ張るようなことがあってはならない。うまくメイメイを引き立てて、この曲を完成させなければ。


「表情が少し硬いです。良いですか、かえでくん。この曲は2人のユニット曲です」


「え、うん、そうだね?」


 レイがボクの頬を両手で挟み込むように押さえてくる。顔が固定されて、至近距離でレイの目を見つめるようなかっこうだ。


「ファンの方たちは、2人のパフォーマンスを楽しみにされているんです。さつきさんだけでなく、さつきさんとかえでくんのパフォーマンスです」


 あー。

 レイが何を言いたいのかがようやく理解できた。

 

「そうだね。ボクがやらなければいけないのはメイメイを引き立てることじゃない。お客さんを楽しませることだ」


 ボクに求められているのは「目立つ」ということでもなく、必要以上に「存在を消せ」ということでもない。


 調和だ。


 メイメイの横に立って消えない光を放ち、メイメイの美しさを陰らせることがないように灯す。


「ありがとう。ボク、がんばるよ」


 レイは何も答えず、目元だけで微笑んでくれる。それからゆっくりとボクの頬から手を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ