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第34話 緊急モード・指揮命令系統をこちらに切り替える

 バスを降りてその異様さに気づかされる。

 何が異様かって? 敷地内の警戒態勢が尋常ではなかったわけですよ……。


「え、これ、どういう状態⁉」


 ボクの知っている代々森体育館の風景じゃない……。


 完全封鎖された敷地。

 ボクの身長の2倍くらいの高さのバリケードで、見渡す限り敷地がぐるりと囲われていた。そのバリケードの内側を『ボンバーマン見つけるワンDXver.2.0』『ボンバーイレイサーにゃんだふるver.2.0』たちがせわしなく歩き回っているという警戒ぶりだ。


 まるで刑務所の中の運動場みたい。


 バリケードの内側には、ボクたち以外生きた人間が見当たらない。

 これまでの警備は有人警備だったのに、今回はそれすらもすべて遠隔操作のロボットに置き換えているようだ。犯人が紛れ込む可能性を排除、か。いよいよ本気だね。


「カエくん見てくださいよ~。なんだか大きなワンちゃんもいますよ~」


 メイメイが指さすほうを見る。


「なんじゃこりゃ⁉」


「とても大きい、わね……」


「ですわね……」


 ボクたちは、あっけにとられながら見上げることしかできなかった。

 メイメイが指さすまで、大きすぎてその存在にすら気づかなかった。

 そもそもこれは、犬、なのだろうか。5m? もしかしたら10mくらいあるかもしれない鉄の塊。その巨大な犬のロボットは、敷地の中心部に4本足で立ち、ゆっくりと首を振って周囲を警戒しているようだった。


「あれは『ワンにゃん中継がう~演算ちゃうちゃうね~』です!」


 サクにゃんが腰に手を当てながら自慢げに説明してくれる。


 ごめん、なんて?

 がう? ちゃうちゃう?

 何にも頭に入ってこなかったよ……。


「『ワンにゃん中継がう~演算ちゃうちゃうね~』は半径5km内の『ボンバーマン見つけるワンDXver.2.2』『ボンバーイレイサーにゃんだふるver.2.4』の情報を集約する役割と、最適な配置を指示する役割を担っています」


「司令塔的な犬ってことかな?」


「司令塔がう!」


 がう……語尾、なのかな。超大型犬だから強そうな感じの語尾を? あーそうか。これまではサクにゃんが手元のノートパソコンで出していた指示を自動化したってことか。これで定期公演中もバッチリだね。


≪ハロー。聞こえるかしら。ハローハロー≫


 突然、ウタの声が頭の中に響いてくる。


「ウタ⁉」


 周囲を見回してみるも、ウタの姿はない。


「カエくんどうしましたか~? ウタちゃんは安息日ですよ~」


 いや……まだその設定生きてたの⁉


≪楓、聞こえるかしら? あなたの育ての親・詩お姉ちゃんよ≫


 はいはい。でも育てられた覚えはないですけどね……。


≪あら。あなたが生まれたばかり頃、毎日付きっきりであんなことやこんなことを教えてあげたのに忘れてしまったのね。お姉ちゃんかなしいわ≫


 いや、それはまあ、覚えてないですけど……というか、これはどういう状況? ウタの声がボクにだけ聞こえている状態?

 少なくとも、目の前で小首をかしげているメイメイには聞こえていなさそう。


≪そうよ。私専用のポートを利用して、直接あなたの脳に干渉しているのよ≫


 今さら何されても驚きはしませんがって感じではあるけど、えーと?……ボクの脳にはなんか通信機器的なものが埋め込まれているんですかね?


≪今はその理解で問題ないわ≫


(わたしも聞こえています)


≪零さん⁉ どうしてあなたが……っと驚くことでもないわね≫


 え、そこは普通に驚いても良いところなのでは⁉

 あー、これ、もしかしてレイがいつも話しかけてくる念話の……。


(そうです。ハッキングしました)


≪堂々と言ってくれるわね。そう簡単に突破できるセキュリティではないはずなのだけど?≫


(愛の勝利です)


≪愛、ね。まあいいわ。そういうことにしておきましょう≫


(はい、愛です)


 うーん。ボクの脳内なのに、2人で意味の分からない会話を続けないでくれる? ボクって、ハッキングされると誰かにこうやって脳内に話しかけられちゃうのか……。


≪そう簡単にハッキングされるようなシステムではないから安心なさい≫


 いや、そうは言っても普通にレイが突破してるしなあ。


≪零さんを基準に語るのはやめなさい≫


(愛がありますから)


 ちょっとその愛、万能すぎない⁉


≪まあそんなことよりも、よ。私が楓に話しかけたのはこのあとの打ち合わせのためよ≫


 そんなことよりって……打ち合わせ?


≪そう。今回は周囲20km圏内に、死角ができないようにあらゆるタイプの監視を入れているわ。桜さんの作ったロボットも含めて、もちろん敷地内、そして施設内にもね≫


 それは万全そうですね。


≪全監視についてAIに並列演算でチェックを行わせているから、万に一つも取りこぼしはない……はずなのだけど、念には念を入れておきたいの≫


 念には念を。

 そうだね、準備しすぎて損はない問題だからね。


≪なのでこうして楓にも通信を繋いだというわけなの。わかってもらえたかしら?≫


 うん……うーん?

 まあ、何かあったらボクに無線で警戒指示がくるってことだね。わかったよ。その時は指示に従って行動する。


≪違うわよ? あなたの五感はもともと常時監視データとして保存しているけれど、それをリアルタイム監視に切り替えるという話よ≫


 ん、ああ、なんか前に麻里さんが言っていたやつかな。ボクにはプライベートという概念がなさそうで安心しましたよ?

 それで、リアルタイム監視にすると何か良いことがあるの?


≪私がこうして、VRグラスをかけると……楓が見ている景色をリアルタイムで体感することができるわ≫


 こうして、と言われても……。

 遠隔地でボクと同じ体験ができるってことなんだね。それはすごいなあ。


≪あとはこのVRグローブをつけて、と。そして緊急モード・指揮命令系統をこちらに切り替え。I have control.≫


 えっ、指揮命令⁉

 ちょちょちょ! 体が勝手に⁉ 何、えっ、ボクの体が勝手に動く!


(かえでくん、それは……みんなが……見ています。んっ♡)


 ボクの右手が勝手にレイの胸を揉みしだいてる⁉

 あ、あれ⁉ 声も出せない!


≪どう? これが緊急モードよ≫


 どうって……ボクの体をウタが自由に操作できるってことなの⁉


≪ご名答≫


 まったく、ご名答じゃないんだよ。

 あー、これ今、なんとかグラスをかけながら、すっごいドヤ顔してるな……。


≪何かあった時は私が楓の体を使って直接対処するというケースも想定しておいてちょうだい。You have control.≫


 うーん。

 そういうのはホントのホントに緊急事態の時だけにしてよね? 絶対ふざけて使うのだけはなしだよ?


≪当たり前でしょ。私を誰だと思ってるのかしら。公私はきっちり分ける派よ≫


 誰がどの口でそれを言ってるんだ……。

 ウタだけはそのセリフを言っちゃダメな人でしょうに。


≪リアルタイム監視は切らずにAIにチェックさせておくからそのつもりで。何もなければこちらから話しかけることはないから安心して。それでは今日の定期公演がんばってね≫


 そっちは頼みます。

 ボクはボクで全力を尽くすよ。


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