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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第33話 ボクたちから伝えたい1つのこと

「さあ、次は私たちの番。栞、舞台装置の準備行ける? 詩、時間管理お願い」


 都がテキパキと指示を飛ばす。


「レイ、今はフォローお願いね」


「大丈夫です。わたしに任せてください」


 レイが力強くうなずいた。レイがフォローしてくれる、それだけで絶対うまくいくという安心感が半端ない。


「ミャちゃん、うちはOKよ。いつでも始められる」


「ありがとう、栞。ド派手にぶちかましちゃって!」


「OKボス! 詩、タイムまかせたで!」


「ええ、リーダーの合図とともに」


 それぞれ準備万端だ。ボクも準備万端だ。


「さあ、私たちも円陣」


 それぞれがみんなの表情を確認する。大丈夫、いける。

 都が大きく息を吸い込む。


「私たちは何だ! 私たちはマネージャーだ! アイドル導く一番星だ! トップを目指せ! GOペンタグラム!」


 GOペンタグラム!

 爆音とともに、紙吹雪が舞い、同時にシオの作ったプログラムが起動する。

 プロジェクションマッピング全面展開。


「なんやこれ⁉ こんなんありかいな」


 見ると、ステージ下で、ナギチが腰を抜かして尻もちをつき、天井を見上げていた。


 会場全体を包む夜の演出。

 満天の星空から無数の星が流れる。

 そう、ボクたちはキミたちの道を照らす一番星になる。



 サビ前。

 ウタの演出で一瞬、流れ星が止む。静寂。暗闇。


 反転。

 

 無数の花火が打ち上がる。色とりどり。まるで昼間のようだ。

 テンション爆上げでサビへ。


「わ~きれ~い。わ~い、アメちゃんだ♪」


 花火に交じって無数の小さな丸いアメ玉が降ってくる。シオの謎演出。



 間奏に入る。

 都が指を鳴らし、まっすぐに手を伸ばし、頭上を指さす。

 指された先の天井部分から、円が広がるように花火の雨が割れて消えていく。

 そしてその後から現れたのは、見渡す限りの人の波。

 赤、青、桃、黄、水、5色のペンライトが光り輝き、止むことのない歓声が響き渡る。 

 会場全体、360度すべてが観客席に替わっていた。


 ここは武道館だ。


 会場の空間がバーチャル演出に侵食されて、はるか遠く、アリーナ席から3階席までペンライトを振る人の波が見える。


 これが武道館の景色――。



「え、なんですか、押さないでください! え、これをサクラも振るんですか?」


 サクにゃんが、隣の観客にペンライトを渡されて振り方を指導されている。


「なんや~、水色のペンライト! 兄ちゃんわかっとるやん!」


 ナギチが隣の人と仲良く一緒に水色のペンライトを振っている。



 さあ、ボクの番だ。


「イエーイ! きたぜー武道館ー! 今日はボクたちのコンサートに集まってくれてありがとうーー! ガンガンいくぞー! アリーナ―!」


 ボクの張り上げた大声に観客たちが雄叫びで応える。気持ちいいーーーーーー!


「負けるな2階席! 3階席見えてるかー! 声聞こえないぞー!」


 都の煽りにさらに上がる声量。熱気。地面が揺れる。


「配信で見てくれてるみんな―! 愛してるー!」


 ウタのカメラに向けた投げキッスに、会場が「えー俺たちはー?」と一気にブーイングの嵐に変わる。


「うちは~会場のみんなも~めっちゃ愛してるで~~~!」


 ちゃっかりシオさんのハート爆レスラッシュアピール。観客のボルテージは最大。そして曲もラストへ。



 ねぇ、みんな。見ていてくれていますか。

 ボクたちのダンスは、キミたちよりもずっと完成度が低いでしょう。

 ボクたちの歌は、キミたちよりも音程が不安定でしょう。


 もっとうまく踊れるように。

 もっとうまく歌えるように。

 でも、本当に伝えたいことはそういうことじゃないんです。


 自分を、仲間を信じてほしい。

 目標を定めたのなら、そこだけを見て一心不乱に走ってほしい。

 

 今の舞台で、今の自分たちで、与えられた武器で何ができるかなんて考えなくていいんです。

 そういうことはボクたちに任せておけばいい。


 キミたちは、ただガムシャラに夢だけを追いかけてください。


 その一途でガムシャラな足掻きを、その一瞬のきらめきをみんな見たいんだ。


 最初は下手でもいい。ちゃんとしゃべれなくてもいい。

 決して無難にうまくやろうとしないで。

 全力でぶつかって、そしていっぱい失敗してください。


 その1つ1つの努力、使ったエネルギー、流した涙にみんな吸い寄せられるものだから。1人、また1人とファンが増えていき、気づけば、ここに広がっているような光景が現実となる日がくるんだ。


 ボクは知っている。

 キミたちにはそれができるってことをね。


「みんなー、一緒に歌ってーーーーーー! せーの!」


 マイクをオフに、観客たちとラストのサビを合唱する。

 リフレイン。リフレイン。リフレイン。

 そしてフェイドアウト――。


 照明がゆっくりと消えていき、ペンライトの光が小さくなっていく。暗闇。無音。



 曲が終わり、照明が点く。

 さっきまでの喧騒がウソのように静まり返った会場。観客たちの姿はなく、≪六花≫の5人がステージ前に立ち尽くしているだけ。


「今日は、私たちのライブにきてくれて……ありがとう。ありがとう」


 ゆっくりと都が言う。ハルル、メイメイ、サクにゃん、ナギチ、アカリさん1人1人の目を見てうなずきながら。しかし彼女たちは、呆けたように無反応だ。


「わたしたちの、ライブ、楽しんで、くださってますか?」


 レイがゆっくりと肩で息をしながら、耳に手を当てて観客の反応を伺うポーズを見せる。無反応。


「なんや~。元気ないやんか~。せっかくがんばって踊ったのに、うちさみしいわぁ」


 シオが泣き真似をする。無反応。


「ねえ、栞。会場のみんなが元気ないみたいだから、配信のみんなと中継つないでくれない?」


「ウタちゃん、それナイスアイディアやん! よ~し、配信のみんな~! うちら歌どうだった~?」


 シオが遠くを見ながら呼びかける。


『うおぉぉぉうぉうぉうぉぉぉぉ』

『さいこぉぉぉぉぉぉぉぉ』

『ふぉぁぁふぉあぁぁぁぁあぁ』

『アンコールー!』

『あいしてるぅぅぅぅぅ』


 無数のバーチャルウィンドウが、会場の虚空に次々と現れる。

 在宅で見てくれている観客たちの姿だ。今もペンライトを振りながら興奮してくれているのが伝わってくる。


「配信で見てくれてるみんな―! 愛してるでー!」


「栞~。それさっき私が言ったやつだよ~。ずるい~」


 ウタが、シオにセリフを取られて悔しそうにしている。ナギチがクスッと笑った。


「わたしはかえでくんを愛していますけどね」


「ちょっ、レイさん⁉ それ、ライブで言うことなの⁉」


 レイがさらっととんでもないことを言い出したので、そのまま流せずに拾ってしまった。


「え、まってまって。2人ってそういう関係なの⁉」


 オロオロする都。


「と言ったら盛り上がるかなと思いまして。びっくりしましたか?」


 クールなレイさん。


「なんだ~。零、ホントびっくりさせないでよ!」


 都が胸をなでおろしていた。

 

 気づけば、サクにゃんが望遠の一眼レフを取り出してめちゃくちゃ連写している。

 サクにゃん……そのカメラどこから取り出したの?


「コーチ! コーチのダンス最高でした! レイカエ尊し尊し! ツーショットもいただきました!」


「サクにゃん、一応舞台は撮影禁止だよ……」


「お母さん……」

 

 ハイテンションなサクにゃんの横で、メイメイの小さなつぶやき。目にはうっすら涙がたまっていた。


「そうよ……カエデさん、ホントに! ホントにダンスすごくて……まるで≪BiAG≫の秋月美月さんがそこにいるのかと……ホントに……」


 ハルルの絞り出すような声。

 ああ、2人には伝わったんだね。


「うん、そうだよ。秋月美月さんを研究して真似たんだよ」


「研究して真似たってそんなさらっと。……足の運びや体重移動の癖なんて、同じ曲を完コピするならまだしも、まったく違う曲で……」


 まあ、ハルルの驚きもわかる。

 口で言っているほど簡単なことじゃないのはボク自身が一番わかっている。


「アナリーゼって言っていいのかな。秋月美月さんの嗜好、背景、いろいろ調べて分析させてもらったよ。美月さんならどう考えるか、この曲をどう踊るかなって」


「お母さんなら……あんなパフォーマンスを……私じゃ届かない……」


 メイメイがその場にうずくまってしまった。


「メイメイ。メイメイのお母さんはそんなふうに考えないんじゃないかな。今のボクにはわかる気がする。ねえ、こっちへ。ステージへ上がってきて」


 手を差し伸べる。

 でもメイメイは動かない。


「サッちゃん。行こう。アカリもついて行ってあげる♪」


 それまで静かにしていたアカリさんがゆっくりと動いた。アカリさんがやさしく手を引き、メイメイはステージのほうへ歩き出す。



「メイメイ、いらっしゃい」


「カエくん……わたし……」


 泣きそうなメイメイの言葉を制止する。


「美月さんは最後のステージまで『自分にはできない』なんて思ったことはなかったんじゃないかな」


 メイメイの手を取る。指先が冷たい。


「美月さんのパフォーマンスには、ううん、生き方には『みんな私を見て! もっと私を見て!』って気持ちが溢れているよ」


「私を見て……」


「そう、自分を見ろっていう強烈なエゴ。アイドルに最も必要だと言われる気持ちの1つ。そして、メイメイに足りないものだよ……」


 ああ、やっと言えた。

 ずっと言いたかった。でも言えなかった。


 周りのみんなのことが大好きで、みんながどう動けばいいのか、どうしたら舞台がうまくいくのか、フォローにばかり回っていたメイメイ。派手なパフォーマンスのメンバーに比べると、人気が出にくい立ち回り。


 だけど、ボクはそんなメイメイが好きだった。だからずっと言えなかった。


「メイメイだけじゃない、みんなにも意識してほしい。メンバーは仲間であり、ライバルだから、ステージ上ではお客さんの目を奪い合わないといけないこともある」


「ライバル……」


 みんながそれぞれお互いのことを気まずそうに見ている。


「ステージを壊してアピールすれば良いってわけじゃないのはわかるよね。全員で作り上げる舞台だ。その中で自分が一番輝くように演出するのは個人個人が突き詰めなければダメだ。仲間であり、ライバルである、その絶妙なせめぎあいがステージを最高のものにする。ファンのみんながもっと見たい、次はどんな景色を見せてくれるんだろうって思う最高のものを更新し続けるんだ」


「カエくん……わたし、考えたことなかった。お母さんがどんなことを思ってステージに上がっていたんだろうって。お母さんのこと、もっと教えてください……」


 ああ、もう大丈夫なんだね……。


 根拠はないけれど、ボクの中にそんな確信が生まれている。


 ボクの目からは涙がこぼれ、頬を伝っていた。


 メイメイ、さようなら。そして、はじめまして。

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