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第32話 みんな寝不足の朝。すやすやおやすみさん

 集合時間10分前。

 マイクロバスの前には今日のライブで使用する機材たちが続々と運ばれてきていた。力持ちのスタッフさんたち、いつもありがとうございます。


「おはようございます~! 今日も元気にがんばりましょうね~!」


 メイメイだ。

 ビルの入り口付近から、大声で挨拶しながらこちらに向かって大股で歩いてくるのが見える。桜色の新衣装を身にまとい、朝日を浴びる姿はまさに天使。日に日にメイメイの天使度が上がっていっている気がするよ。どうかずっと、人の姿のままでいてね。


「メイメイおはよう。今日も元気だね」


「がんばりますよ~。今日はいっぱいシュークリーム膨らませるぞ~!」


「それは膨らませないで。歌変わっちゃうから……」


 元気にシュークリームが膨らんじゃうと、切ない恋の歌じゃなくなっちゃう。


「みなさんおはようございます! 遅くなりました! サクラ、入ります! 今日はよろしくお願いします!」


 サクにゃんが反対側のビルのほうから猛ダッシュでやってくる。

 そんな急がなくてもまだ集合時間前だよー。


「おはようー。今日のメインMC!」


「はい! メインMCです! 本日は、この身に代えましても、粉骨砕身MCを務めさせていただきます!」


 朝からサクにゃんの鼻息が荒い……。

 よく見ると、なんか両手にマジックでいっぱい文字が書いてあるな。MC用のカンペ、かな?


「肩の力を抜いてね? あー、3rdの衣装、桜色でいいよねー。ネコミミも桜色だね。 特別バージョンだ!」


「えへへ。ありがとうございます! この制服を見た時、気づいたらサクラバージョンのネコミミを作ってました!」


 サクにゃんが少し恥ずかしそうに自分の耳を触る。

 うん、とっても似合う!

 今日は全身サクラネコだね。お、しかも今日はしっぽ付きだ。ひさしぶりにしっぽつけてるの見たかも!


「みんな揃ったかしら?」


 バスの入り口から都が顔を覗かせる。

 おや、すでに中にいたのね。


「あれ? まだ何人か来ていないような……」


「春さんと海さんと栞はすでにバスの中よ」


「あとは誰だ……」


 ひー、ふー、みー。


「ナギサちゃんとウタちゃんがまだです~」


 あ、ウタは……。

 言いかけてボクは口をつぐむ。

 ウタが一時的にマネージャー業を離れていることはまだ≪初夏≫のみんなにはちゃんと伝えていない。今日の定期公演終わりかなあ。今言っても動揺するだけだよね……。どうしたものか。


(わたしにまかせてください)


 お、レイ? じゃあお願いします!


「ナギサさんはあと3分もすれば到着すると思います。今ちょうど駅前を走っている最中のようです」


「また早朝ランニングか。いや、健康にはいいし、悪いことじゃないんだけど集合時間は守れ!」


 ホントマイペースで困ったちゃんだよ。


「仕方ないので、ナギサちゃんは置いていきましょう~」


「そうだね。ナギチは代々森体育館まで思う存分ランニングしたらいいよ」


「それでウタちゃんは~?」


 メイメイがキョロキョロと辺りを見回している。

 うん、ウタの棺桶は自動運転でやって来ないんだ……。


「うたさんは安息日です」


 ん? レイさん何をおっしゃっているのですか?


「安息日ですか~」


「安息日なのでしかたないです」


「それならしかたないですね~」


「安息日! 了解しました!」


 いや、だから何が仕方ないの?

 キミたち安息日の意味わかって言ってる?

 それは有給休暇みたいなものと違うよ? って、まあいいか。よくわからないけれど、メイメイが納得したなら深くツッコまなくても。



「では全員揃ったということで出発しましょう!」


 1名欠席。1名遅刻、と。


「待って~♡ みんなのアイドル☆ナギサちゃんが到着だよ~♡」


 プシュー。

 ナギチがバスに駆け寄るも、タッチの差でマイクロバスのドアが閉まる。


「出発進行ー!」


「あ~ん♡ いじわるしないで~♡」


 プシュー。

 バスの入り口のドアが開く。


「ナギサ、遅いわよ!」


 ハルルが荒々しくバスの窓を開け、上からナギチを叱りつける。

 今日は真っ先にバスに乗っちゃって……もしかしてなんだかご機嫌斜めですか?


「ごめ~ん。いつものルートをランニングしてたら、黒猫の集団が前を横切ってきて~、それから靴紐が急にバラバラになっちゃったからうまく走れなくて~。そしたらカラスが一斉に――」


 ナギチが頭を掻きながらバスに乗り込んでくる。

 ふ、不吉だ!


「不吉ね……。私もずっと金縛りにあっていて今日ぜんぜん寝れてないのよ!」


「わたくしも緊張で眠れなくて……」


 ハルルにウーミーが不眠を訴えてくる。

 不機嫌な理由は寝不足かあ。


「ボクも今日はなんだか寝苦しかったな……」


 悪夢を見続けて眠れなくて……。


「みなさん、大変ですね! そんな時はサクラの作った『2秒ですやすやおやすみさんDX~ゴールデンウィークver』をどうぞ! みなさんの分ありますから、バスの中でお休みください!」


「サクラ、ありがとう!」


 ありがとうありがとう!

 そういえば、サクにゃんはいつも朝が弱いはずなのに、今日に限っては元気だね。


「みんなお疲れね。最後尾の座席で栞が寝ているから静かにしてあげてね」


 都が後ろに視線を送る。

 と、一番後ろの座席……というより通路に寝袋が! あれ2つ⁉

 シオ……とメイメイだ!

 さっきまで隣にいたはずなのに、いつの間にメイメイは寝袋に⁉


 まあ、細かいことは良いか……。今はボクも寝かせてもらおう。


「ボクたちも静かに寝ますかね……」


「そうですわね……」


 ウーミーが生あくびをしながら答える。


「え~、みんな寝ちゃうの~? アイドル☆ナギサと遊んで~♡」


 ランニングウェアのままで汗臭いしうるさいなあ。


「サクにゃん、もう1個『2秒ですやすやおやすみさん』貸してくれない?」


「はい、まだまだあります!」


 サクにゃんから追加のチップを受け取る。


「ナギチ、こっちへ」


「カエちゃ~ん♡ な~に♡」


「おやすみさん」


 問答無用!

 ナギチの首にチップを取り付ける。


「あっ♡」


 崩れ落ちるナギチ。

 何とか受け止めて近くの座席に転がす。うわっ、汗が手についた!


「すやすやおやすみさん……さすがの威力だ……」


 さて、ボクはどこで寝ようかな。

 空いている席をリクライニングしてーと。


「かえでくん、こちらへどうぞ」


 レイが自分の膝を叩いて迎えてくれる。


「ん、ありがとう」


 そうだよね! レイの膝枕に勝るクッションはこの世に存在しない!

 ボクもチップを首につけて、すやすやおやすみさん……。


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