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第31話 定期公演の朝。エスプレッソの正しい飲み方は?

 ああ、もう朝か……。

 ぜんぜん眠れなかった。


 いつもよりもギュッと強くレイに抱きついて寝てみても、少しうとうとすると何かよくわからないモノに追いかけられる悪夢がやってきて、何度も目が覚めてしまった……。気負い過ぎなのかな……。


「ふわー、おはよう」


 ボクは、さも今起きたかのような演技をする。

 レイには心配をかけたくない……。


「かえでくん、おはようございます」


 レイはすでにキッチンに立ち、眠気覚ましのコーヒーを淹れてくれていた。

 いつもの朝の光景だ。


「とくに中止や延期の連絡が来なかったってことは、今日は予定通りの開催、なんだよね?」


 定期公演#3は今日開催される……はずだ。

 何度確認しても上層部からのメッセージは何も届いていない。


「予定通り開催するという連絡も受けていませんが、おそらくは大丈夫だと思います」


「検討中って言ってたんだから、検討結果くらい共有しろよって思うけどね……」


「ウタに聞いてみようかな……と思ったけど、ウタがこんな時間に起きてるわけないか」


 ウタは朝が弱い。

 極端に弱いから、今頃は夢の中だろう。


 と、ボクとレイの端末が同時に鳴る。


 まさか⁉


【今日の定期公演は予定通り開催よ。頼んだわね】


 着信はマネージャーグループ宛て。ウタからのメッセージだった。

 高速でスタンプが投下されていく。

 都、シオ、レイ。ボクも!


「良かった……。今日やれるんだ……」


 正直ほっとした。

 と、同時に武者震いがしてくる。


 全力でやらなければ!


「うたさんがこの時間に起きているのはめずらしいですね。徹夜でしょうか」


「あ、ホントだ! もしかしたら寝てないのかも。激励をしておこう」


【ボクたちもがんばるよ。ウタも体に気をつけてちゃんと寝てね】


 これでよし、と。


「かえでくん、コーヒーが入りました。どうぞ」


 目の前に置かれるコーヒーカップ。

 なんだかいつもより香りが強い気がする。


「ありがとう。えーと、砂糖は……」


「もう入れてあります。今日のコーヒーはエスプレッソです」


「おお、エスプレッソ! ミルクを入れずに飲むのは初めてかも」


「ラテアートを勉強中ですので、カプチーノはもうしばらくお時間をください」


 すまなそうに頭を下げるレイ。


「いや、別にカプチーノは絶対ラテアートがないとダメってことはないと思うんだけど……」


 ただフォームミルクを入れるだけでもいいのでは?

 レイは凝り性だからなあ。


 苦笑しながらカップを口に運ぶ。


「にがっ! えっ、エスプレッソって、にがっ!」


 下を突き刺すような刺激! そしてのどの奥に広がる苦み!

 コーヒー自体が熱いわけじゃないのに、口の中が熱くなる!


「カップの底にたまった砂糖をスプーンで混ぜながら飲んでくださいね」


「なるほど。そうやって飲むのね……やっぱにがっ!」


 うへぇ。

 イタリア人おそるべし!

 ティラミス1つ!


「もう少し砂糖を入れましょうか」


 レイがクスクスと笑いながら、グラニュー糖の入った瓶を持ってきてくれる。


「これはかなり苦いよ……」


「スプーンで砂糖をすくいながら口に運ぶ飲み方もあるみたいですよ」


 なるほど。

 どさっと砂糖を入れて……スプーンでペロペロ。


「あまっ! これは砂糖をなめてるみたいだ。いや、実際砂糖をなめてるんだけどさ……」


 ちょうど良い調節の仕方がわからない。

 誰かイタリアの人呼んでー!



「今日のお召し物はいかがいたしますか?」


「いかが……あ、そうか。シュークリームの衣装……」


 レイからの問いかけで思い出す。

 今日の定期公演でメイメイとボクのソロユニット曲『シュークリームが膨らまないの』がセットリストに入っているのだ。


「いや、でもさすがにふわふわのドレスで移動は……って、レイが着てるー」


 自室から出てきたもう1人のレイは、シュークリームの衣装を着こなしていた。黄色いベレー帽までかぶってフル装備じゃんかー。


「この衣装はかわいいので好きです。おそろいで着たいです」


「着たいですって言われてもなあ。真っ白だからバス移動の間に汚れたら困るよ……」


 さすがに現地でステージ上がる直前に着替えたい。


「そうですか、残念です。それではこちらの衣装にしますか」


 そう言って奥の部屋から現れたのは、3rdシングルのジャケット写真用の制服、の色違いバージョンを身にまとったレイだった。≪初夏≫のみんなは桜色の制服。ボクたちマネージャーは色違いで薄紫色の制服だ。


「似合ってるね。レイのメンカラーだ」


「ありがとうございます」


 レイがはにかむように笑う。

 頭の上に踊っている大きなリボンもとってもかわいいよ。

 

「じゃあボクもそっちを着ようかな」


 おそろいでね。


「はい。全自動お助けモードを作動しますか?」


 えーと……お願いします!


 またしても、ボクはレイに甘えてしまうのだった。


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