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第30話 マネージャーチーム・スクランブルシフト

「え、ウタ? それってどういうこと⁉」


「どうもこうもないわ。言葉の通りよ。私はしばらくマネージャー業を外れるって言ってるのよ」


 花さんにマネージャー陣だけが会議室に集められたと思ったら、開口一番ウタの口から衝撃の発表がなされたのだった。


「これは上層部の承認を得ている決定事項よ」


 花さんがぴしゃりと言い放つ。

 議論の余地はない、と。


「でも……」


「事態は深刻なのよ。あの爆弾テロからずっと、私たちは何一つ敵の情報を掴めていなかった……。そしてその敵は、私たちをあざ笑うかのように、再び姿を現したのよ! 1秒でも早く『ボンバー仮面V3』なる人物、もしくはその裏にいる組織を特定しなければ……」


 ウタが苦虫を嚙み潰したような表情で、いや実際に噛み潰しているかのように歯ぎしりをしている。

 わかるけどさ……。あれからしばらく時間も経ったし、もう大丈夫なのかなってちょっと油断してたよ。気が緩んでた。でも、あいつはまだ顔を見せてきただけ。相手の出方もわかっていないのにそこまでする?


「これは決定なのですね?」


 再度、都が確認を入れる。


「そうよ。各自配置を変更します。零、あなたが糸川海のマネジメントも担当してちょうだい。都は零のフォローをお願い」


「はい、かしこまりました」


「海さん渚さんのフォローは任せてください」


 レイと都が花さんの指示を了承する。

 2人とも柔軟だ……。まだボクだけがついていけない……。


「詩には『特別対策チーム』に入ってもらいます。それと都で手が足りない分は、適宜、栞がカバーして」


「イエッサー! 万事うちにまかしといてください!」


 シオがノリノリで敬礼。

 うーむ、手厚いバックアップだ……。


「話は以上よ。1日でも早く平時に戻れるようにみんなでがんばりましょう。アイドルたちの安全確保が第一。もちろんあなたたちの安全確保も第一よ。忘れないで」

 

 わっかりました!

 粉骨砕身……って、あれ? ボクは何を? 1人だけ何の指示も受けてないんですけど……。


「あのー、花さん?」


 おそるおそる……ボクは存在を忘れられている、のか。


「どうしたの、楓?」


 ああ、見えてる、よね。

 一応存在は認識されているみたいだ。


「えっと、ボクは何をすれば……」


「何言ってるの!」


「えっ」


 花さんの目がつり上がる。もしかして、怒ってらっしゃる……? ボク、なんかやっちゃった⁉


「オンライン個別トーク会で犯人と思しき人物が現れたのはどこだったか忘れたのかしら⁉」


「あ……はい。メイメイの枠で……」


「つまりどういうことかわかっている⁉」


「狙われているのはメイメイ……かもしれなくて……」


「かも、ではないのよ。犯人と思しき人物は秋月美月の名前を出している。つまり早月がターゲットにされていることだけは間違いないのよ。ほかのメンバーがどうかはまだわかっていない。そういう段階なのよ!」


 あー、たしかにそうだ。花さんの言う通りだ。

 犯人……『ボンバー仮面V3』はメイメイのトーク枠に現れてたしかに言ったんだ。


『18年の時を経て、私は戻ってきた。迎えに来たよ、ユエユエ』と。


 迎えに来た。


 ユエユエこと秋月美月さんはここにはいない。

 それなのにメイメイの前に現れた。


 つまり、おそらくはメイメイと秋月美月さんの関係性を知っている……。


「楓、あなたが守るのよ」


「はい。ボクが守る。メイメイをボクが守る!」


 そうだ。

 ボクにしかできないことだ。

 メイメイはボクが守る。


「この身に代えてもボクが守ります!」


「それはダメ!」


 ウタが突然大声を出した。


「楓が、いいえ、ほかの誰でも、誰かの犠牲になるなんて絶対にダメよ!」


「そうね。さっきも言った通り、絶対に、『安全第一』で頼むわよ。これはあなたたちマネージャーも含めて全員に対して言っています。敷地内のセキュリティは強化済みだけど、普段の生活から十分に注意して。当面、敷地外へ出ることは自粛してちょうだい」


 当面、か。

 とくに普段の生活で困ることはないけれど、外に出るとすればライブの時くらい……ライブは⁉


「花さん、明日の定期公演#3は⁉」


 まさかまた延期に⁉


「目下、上層部が協議中よ。オンラインであれば、という見方が強い一方で、延期もやむなしとの意見も出ているらしくて……」


 オンライン配信でさえもやらせてもらえない可能性があるのか……。

 どこまでボクたちの邪魔をすれば気が済むんだ!


 絶対に許さない。


「ボクたちはテロに屈しない! 絶対に屈しない!」


 絶対にだ。


「どんなことがあっても定期公演を続けたい!」


 ボクたちの、≪初夏≫のみんなが生きている証を奪わないでください。


「わたしも、定期公演を続けたいです」


「私もよ」


「もちろんうちもや」


「そのために私が『特別対策チーム』に入ってがんばるわ」


 ボクたちの気持ちは1つだ。


 今しかない。

 ライブができるならいつだって良いわけではないんだ。

 彼女たちが輝ける時は今なんだから。


「あなたたちの気持ちはわかってるつもりよ。私だって同じ。ここが踏ん張り時。みんなで支え合って乗り越えましょう」


 花さんがボクの背中をそっと押す。その手はとてもやさしく、とても温かかった。


 ボクたちは絶対に負けない。


 今できることを全力で。

 定期公演の準備を完璧にして明日を迎えてやる!


 テロになんて屈するもんか!


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