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第29話 水沼渚生誕祭2024 その6~『このあとスタッフが美味しくいただきました』の流れかなって(終)

「それではいよいよ箱をオープンする時間となりました! 2人とも、それぞれが選んだ箱の前にどうぞ。でも合図があるまでまだ開けないでくださいね」


「「は~い」」


 ナギチが小の箱、メイメイが大の箱の前に立つ。

 2人ともこれでもかってくらい顔がニヤけてますなあ。


「準備は良いですか~? カメラさんもOK? では行きます! いざ、Open the box!」


 じゃじゃーん!

 出るか、100万円⁉


 2人が勢いよく箱の上蓋を持ち上げて中身を露出させた。


「何これぇ~⁉」


「100万円じゃないです~!」


 箱から現れたのは……。


 ナギチ:万力

 メイメイ:大きなクマのぬいぐるみ


“ま・ん・り・き”

“やったぜ万力!”

“期待を裏切らないwwwww”

“万力!万力!”

“一家に一台万力!”

“ウーミー最高!”

“ナギチ涙目w”

“生誕祭でまさかの万力www”

“運営の底意地の悪さよw”


「おっとこれは~、ウミのヒントが正解だった、ということでしょうか⁉」


「TDL……」


「100万円……」


 箱を開ける前までとは打って変わって、泣きそうな表情のナギチとメイメイ。

 まあ、100万円はないとは思ってたけど、まさかなあ。ホントに万力……見てる側としてはちょっとおもしろいけどさ!


「ちなみに、ウミ。せっかくだからどんなヒントカードだったのか見せてもらえる?」


 半べそをかいて動かなくなった2人を横目に、ハルルがトークを繋いでいく。


「わたくしが引いたヒントカードはこちらですわ~」


------------------------

大の箱には、ふわふわで丈夫な布製品が入っている

中の箱には、目の前が真っ白になる食べ物が入っている

小の箱には、重くて動かない金属が入っている

------------------------


「『ふわふわで丈夫な布製品』からカシミヤのマフラーを想像したのね」


「そうですわ。まさか大きなぬいぐるみだとは思いませんでしたわ……」


 ちょっとだけ惜しかったね。

 大の箱だし、マフラーよりもっと大きなものが入っているかも、って想像はできたかもしれないよ?


「こうなってくると気になるのは中の箱ですね……」


「開けたら爆発するクリームケーキですわ……」


「怖い、わね……」


「怖い、ですわね……」


 いや、なんで2人してこっち見てくるの?

 ちょっとレイ⁉ グイグイ押してくるのやめて?


 この流れデジャヴなんですけど!


「こういうのは『このあとスタッフが美味しくいただきました』の流れかなって思います!」


 ハルル、それは配信終了後の配慮だよ?


“かえで!かえで!”

“クリームまみれの楓が見たいな~”

“やっぱりカエデにはクリームだよな”

“楓がいてくれてよかった!”

“まだ今日はカエデを見ていない”

“はよ頼む。このままだと風邪ひく”

“パンツは履けよ”

“パンツ爆散したw”

“もう夜勤に行かないといけない時間なんだ!”

“お前まだ行ってなかったのかw”


 えー、クリームまみれは嫌だなあ。

 まだ誰も決定的なことは言っていないのに、すでにコメント欄ではボクの登場を期待している……。


(クリームまみれのかえでくんもきっとすてきですよ)


 レイさん、何のフォローにもなっていないコメントありがとう。でもこういうのってわかっていてクリームまみれになるのは罰ゲームってやつじゃないですか? 少なくとも今日は罰を受けるようなことは何もしていないんですけど!


(かえでくんもクリームもおいしいです)


 そういうのいらないから。


「スタッフの方~、こちらの席にお願いしま~す。このままだと食品廃棄で局にクレームが~」


 局って何だよ。

 テレビじゃないから局にクレームはいかないでしょ!


「あー、もう、わかりましたわかりました。行けばいいんでしょ!」


 こうなったら開き直って、きれいに顔の正面で受け切ってやるぞ!

 たまにちょっと避けちゃって、顔にあんまりクリームがつかなくて手で塗ってごまかす、みたいな恥ずかしいマネだけはしないようにするぞ!


「みんな~、レギュラースタッフのカエデちゃんが来てくれましたよ~!」


「わ~い、カエくんだ~!」


「カエちゃんの顔面についたクリームは私がおいしくいただくからね♡」


「コーチ、最高のパフォーマンス期待してます!」


「楓さん、いいえ、楓先輩! 顔面クリームお願いしますわ!」


 芸人の先輩みたいな役割だと勘違いされてない⁉

 違うよ? 顔面でクリーム受け止める仕事の人じゃないよ? ボクはキミたちのマネージャー、裏方の人だからね⁉


「先輩! 意気込みをどうぞ!」


「だから先輩じゃないっての! 意気込みも何も……箱を開けるとクリームがボンッだよね。衝撃で首が持っていかれたりとかしないよね? 初めてだしちょっとこわいなあ……」


「首、押さえてようか?」


 ボクは首を大きく振って辞退する。

 さすがにそれは大丈夫。

 せっかくの申し出だけど、ハルルの握力で首が折れたら困るから……。



「ではさっそく顔面クリームパイ、いってみましょうか! みんな少し距離を取って! でもカメラのフレームからははずれちゃダメよ」


 超難しい要求。

 だってこれ、今ボクをアップにした映像になってるよね。それでカメラのフレームに収まるのは無理じゃない?


「あ、大丈夫? はい。映像はかえでくんのアップでいくのでみんなは外から声で応援しましょう!」


 だよね。みんなはちゃんと離れてて。


「カエくんがんばって~!」


「キャー、カエちゃんステキ~!」


「コーチ! 応援してます」


「楓先輩! ファイトですわ!」


 はい。やれるだけのことは……。


「それではみんなの応援で気合が入ったところで~、3・2・1のカウントダウンで箱をオープンしてくださいね! いきますよ~」


「OK」


 あー、緊張する!


「3・2・1~Open the box!」


 ええい、ままよ! なむさん!


 ボクは目を固くつぶり、勢いよく『中の箱』の蓋を持ち上げた。



 ん。

 あれ?

 クリームは?


 ちらっ。


「これはいったい⁉ 箱の中からは予想通り、真っ白なケーキが出てきました……でも、爆発しませんね⁉」


 ざわざわ。


 すごくきれいでおいしそうなケーキ。

 真っ白なクリームケーキの上に、チョコレートで『Nagisa Happy BirthDay♡』と書かれている。


 まさか時限式か?


“なんだ?失敗か?”

“油断させたところボンッ!”

“カエデの顔www”

“素でキョロキョロしててかわいいwww”

“スクショ捗るwww”

“爆発まだ?”

“早く真っ白にして~!”

“もう後ろからハルルがカエデの顔をケーキに押し付ければいいんじゃね?”

“無茶苦茶だw”


「あ~、これ!」


 と、ナギチが大声を上げる。


「ん? 何?」


「このケーキ、私が作ったバースデーケーキよ! 番組の後半にみんなで食べる予定の!」


「なん、だって? じゃあ、爆発物では……」


【そのケーキは爆発しません】


 カンペー!

 ここまで煽っておいて爆発しないの⁉


「ハプニング……ですね? どうやらこのケーキは爆発物ではなく、ナギサが一生懸命作ってくれたバースデーケーキのようです!」


「ハッピバースデー トゥ ユ~♪ ハッピバースデー トゥ ユ~♪」


 急に照明が暗くなり、歌が始まる。

 都とレイがバースデーソングを歌いながら、ろうそくを片手にカメラの前に。


「さあみんなご一緒に」


「「「「「ハッピバースデー ディア ナギサ~」」」」」


「ハッピバースデー トゥ ユ~♪」


 ケーキの上にはろうそくが。


「なぎささん、吹き消してください」


 レイのやさしい声。

 ナギチが少し照れながらケーキに顔を近づけると、ろうそくの火を吹き消した。


「なぎささん、誕生日おめでとうございます」


「おめでとう!」


「ナギチおめでとう!」


 照明がつき、バースデーパーティームードなBGMに切り替わる。


「ナギサ、お誕生日おめでとう! 改めてここで一言お願いします!」


「みんな、ありがとう! 配信にもこんなにたくさんの人が駆けつけてくれて、私ホントにうれしいです! 今年一年さらに成長して、アイドルとしてみんなにたくさんの夢をお届けできるようにがんばるから、ずっとついてきてね!」


 ナギチの目からは涙が溢れていた。


 今のナギチ、誰よりも輝いてるよ! 誰よりもアイドルしてる!


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