第23話 楓、ボッチ仲間を食事に誘う
結論から言うと、オンライン個別トーク会のその後の枠でトラブルは何も起こらず、1日目は無事終了した。
一応ウタに確認してみたところ、ほかのメンバーの枠では不審人物は現れていないとのこと。2日目以降の日程を中止にすることはせず、一旦様子見を続けることになったそうだ。まあ、とりあえず良かった、のかな?
「メイメイは体調不良ということで欠席してもいいって言われたけど……まあそれは明日考えようか」
「出ます~。私は何ともありませんよ~」
にこりと笑うメイメイの姿がひどくぎこちない。無理をしているのがすぐにわかってしまっていたたまれない……。
「今夜はどこか、外にでも食べに行こうか?」
今からならちょうどディナータイムの食べ放題にも間に合うし!
食べてストレス解消がメイメイにとっては一番良さそう。
「ちょっと今日は……」
「え? もしかして食欲ない? 食べ放題……焼肉でもいいよ! ボクのおごりだー!」
「ちょっと今日は……」
メイメイの表情が暗い。
焼肉食べ放題を断るとは……やはり昼間の一件が相当堪えているのだろうか。
「あんまり思い詰めちゃダメだよ……」
「そうじゃないです~。今日はハルちゃんとレイちゃんと3人で食事の約束をしていて~」
と、気まずそうに……。
「あ、はい。ボクは……食堂で素うどんでも食べてさっさと寝ますね」
くぅん、さみしいよぅ。
その2人がいてボクが呼ばれないなんて……。
すごくかなしい……。予想以上に心にダメージが……。
「今度焼肉食べに行こうね~」
遠くでメイメイの声が聞こえた気がする。
その気遣いがボクに追加ダメージを与えてくる……。
チクショー! どうせボクはボッチだよ!
こうなったらほかにボッチのヤツを召喚してやる!
【いますぐ食堂へ来い! 2秒以内に来れたら、メイメイの手作りチョコをやろう】
これでヨシ、と。
「楓さん! はぁはぁはぁ」
「いや、速いよ。ガチすぎて怖いわ……」
ボクが呼び出しをかけて2分後。
現れたのは呼吸荒く髪を振り乱したボッチの友。クラスメイト・宮川その子さん。またの名を『サイキック@メイメイ単推し』さん。
そう、メイメイの熱狂的な最古参のファン。そして、MINAさんの元ストーカーのその子だ!
「1分58秒もオーバーしたけど、そのガチさに免じて、食後のデザートにこのメイメイ作のチョコ全部あげるね」
「え……食後、ですか?」
いや、そんな顔で見るな。
ちゃんとあげるから、ボッチ2人飯に付き合いなさい!
「なんかさー、メイメイとハルルとレイで食事に行くってさー。ボクだけ除け者なんだよー。ボッチ喪女仲間として、一緒に食事に付き合ってください! 最初から決めてました!」
腰を90度に曲げて、右手をめいっぱい差し出す。
「え、ええ……。別にいいですけど……」
その子は、いつもつけている手荒れ防止用の手袋をわざわざ外し、ボクの手を取ってくれた。
「わーいわーい! 1人でご飯食べなくて済むぞー!」
「わたし、ご飯はいつも1人ですけど……」
さすが期待通りのお答え!
いやね、ボクだって別に1人飯がダメなわけじゃなくてさ……なんだか今日はさみしいんだ……。
「いざ! 食堂へ! シェフの裏メニューでも注文しようじゃないかー!」
「裏メニューってなんですか⁉」
のっしのっしと風を切って歩くボクの後ろを、その子が小走りにおいかけてくる。
持つべきものはボッチ仲間だなー。
* * *
「っていうわけでさー、4種類中3種類が激マズチョコレートだったわけよー」
昨日、レイに逆ロシアンルーレットを仕掛けられた時の話を、その子に聞かせているところだ。
ちなみに、今夜のメニューは『牛ハラミ丼・頭の大盛り』。
ボクはシェフの何とか会員ではないので、表メニューしか頼めないことに気づいたのは、食堂に着いてからのことでした、と。ま、そんなわけで普通に券売機に並んでいる表のメニューの中からおとなしく選びましたよ。
ちなみにその子は『ホワイトシチューうどん・カニクリームコロッケ乗せ』という小麦粉だらけのメニュー。小麦粉on小麦粉っておいしいのかね?
「ということは、その中の1つがメイメイの作ったチョコレート!」
いや、その子……興奮しすぎだから。
目が血走ってて怖いよ。
「これだこれ。トリュフキノコチョコレート。マジ悪ふざけだよねー。形のほうのトリュフじゃなくて、丸々キノコのほうが入ってるんだよ」
袋を開けて匂いを嗅がしてみる。
「ああ~。トリュフの良い香り。これがメイメイの手作り~!」
ダメだ。別の意味で昇天してやがる……。
信者は何やってもありがたがるからなあ。いや、そりゃそうか。よく考えたらメイメイの手作りなんだから、鉛筆の芯でもおいしいに決まってるわ。
ボクも気づかない間に贅沢野郎になってしまっていたな……。
メイメイごめんよ……でもまずいものはまずいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
さて食後。
約束通りその子の口に、袋の中のトリュフキノコチョコレートを全部流し込んでやったら、何でかのけぞるようにそのまま寝ちゃった♪
きっとあまりのおいしさに感動したんだと思う。
あー、良いことをしたなあ。
その子ー。食事終わってこんなところですぐ寝てさー。食べ終わったらどんぶりくらい片づけないとダメだぞー。
仕方ないなあ。
食器を2人分下げてやるかあ。
さて、ボクは1人さみしく寮の部屋に帰ろうと思います。
おやすみ、その子。