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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第31話 ボクの夢、わたしの夢

「ってなことがあったんですが⁉」


 げっそりして部屋に戻ると、レイがリビングでコーヒーの良い香りを漂わせてくつろいでいたので、ちょっとイラっとして問い詰めてしまった。


「とうとうバレてしまいましたか……。ええ、かえでくんの尊さを後世に伝えなければという使命感からですね……」


 レイの目がめっちゃ泳いでいる。

 そういうきれいごとは良いからさ……。


「……それで、本音は?」


「みんなにかえでくんとのイチャイチャを自慢したくなったんですぅ! 何か問題ありますか⁉」


「うわー、きれいな逆ギレですぅ」


「わたしがお世話していくと、毎日毎日どんどんどんどんかわいくなっていくかえでくんをみんなに見てほしくて!」


 100%本気のまっすぐな瞳で言われると、なんだか心の奥が熱くなってくる。


「うん……なんかありがとうね」


「最初はただの興味だったんです。男の子みたいな女の子。とても純粋な感情の動き。時々わたしのことをエッチな目で見てくるのも、正直ちょっと心地良かったんですよぅ」


 レイさん……あなたちょっと何言ってるんですか⁉ ……はい、たしかにたまにそういう目で見てました! だけど見るでしょ……しょうがないでしょ⁉


「でも最近はちょっとさみしいかもです。わたしへ向ける感情がとても穏やかで深い愛を感じるんです。それがうれしくてちょっぴりさみしいです……」


 レイが小さく首を振ってソファーから立ち上がる。そしてボクのほうへ近づいてきた。


「さみしい? ボクはレイとこうして一緒にいるときがとても楽しいよ」


「わたしも楽しいですよぅ。拾ってきた子ネコを世話しているみたいで。毎日耳かきしてあげると膝の上で伸びして丸まって寝ちゃうところとか、お風呂で髪の毛を丁寧にお手入れしてあげていると、だんだんつやつやな毛並みになってきているところとか……ほかには服を着せ替えしたり、ちょっとだけメイクしてあげたり、夜中うなされているときにポンポンしてあげたり……」


「う、うん……。いろいろお世話になって……」


「かえでくんは外見も内面もどんどんかわいくなっていっています。わたしが育てたんだって、みんなに自慢したいんです」


 レイがボクの頬に触れ、それからそっと頭を撫でてきた。ボクは目を閉じ、それを受け入れる。


「かえでくんの中でわたしに対する愛情が膨らんでいっているのを感じます。それがとてもうれしい……でも、かえでくんはわたしに恋してくれていないんだなって思うと、すこしさみしいんです」


 ボクは恐る恐る目を開く。

 レイは笑っているような泣いているような、複雑な表情をしていた。


「レイ……」


 レイはそれでもボクの頭を撫で続けた。


「わたしは男の子が苦手です。でも、かえでくんなら好きになれるかもって……だけど、かえでくんはこれからもどんどんかわいい女の子になっていきます。わたしのアイドルはわたしが磨くんですよぅ」


 わたしのアイドル。

 ボクはレイのアイドルになれているのだろうか。


「かえでくん……ううん、かえでちゃん。わたしにはわかります。かえでちゃんがアイドル候補のみなさんがうらやむような輝きを放つ存在になることを。わたしが一番近くにいて、あなたの輝きを見ていたいです」


 レイは頭を撫でるのをやめ、ボクの両手をそっと取った。レイの手は冷たく、小さく震えていた。


「レイ……ありがとう……」


 ボクはレイの手を少しだけ握り返す。


「レイ、ボクはね、自分のことがよくわからない。自分が男なのか女なのかも最近よくわからなくなってきてるんだ……」


 日を追うごとに体に魂がなじんでいく。朝起きるたびに、何かを目にし、何かを考えるたびに自分の変化に気づいていく。

 

 アイドル候補のみんなが好きだ。

 彼女たちがデビューして、アイドルとして輝いていく姿を応援していきたい。

 

 その気持ちと同時に、今は違う感情が芽生え始めているのを感じる。


「最近、普通の女の子がアイドルに憧れる気持ちがわかってきたような気がしているんだ。あんなふうになりたいな、真似してみたいなって」


 ハルルの枝毛の一切ないロングヘアに憧れて新しいドライヤーとブラシを探してみたり。

 アカリさんの甘ロリコーデを自分が着たらどうなるだろうかとショッピングサイトでシミュレーションしてみたり。

 ナギチみたいに大人っぽい流し目ができるようになりたいなって鏡の前で練習してみたり。

 サクにゃんのようなセンターで踊れたらめっちゃ気持ちいいだろうなって想像して練習したり。

 メイメイになりたいなって思ったり……。


 そして、それらとはまた別の感情もあるんだ。


「ボクはレイのことが好きだ。この気持ちが恋愛感情……男として好きなのかも正直わからない。でも、レイとずっと一緒にいたいって気持ちは本物だから」


「かえでちゃん……言葉にしてくれてありがとうです……」


「それ、やめよう? いつもみたいにかえでくんって呼んでほしい」


 レイがそう呼んでくれなければ、ボクはきっとこのままかえでちゃんになっていくだろう。


「かえでくん……」


「ボクはどうしてここにいるのか、なぜこの姿なのか今は何もわからないんだ。でも、いつか元の姿に戻る時が来るのだとしたら、その時は――」


 レイへの気持ちをはっきりさせたいって思ってる。


「かえでくん、抱きしめてもいいですか?」


 レイが泣き笑いの表情のまま、両手を広げた。

 ボクはそれに応えてレイを強く抱きしめる。


「温かいです。わたしのアイドル……。本当に好きなんです」


「ありがとう。ボクも好きだよ」


「かえでくんがさつきさんにたいして特別な感情を抱いていても、わたしはあなたのことが好きです……」


 メイメイはボクのすべてだ。

 これまではそれしかなかったボクの世界が広がっていき、別の大切なものができてきているんだと思う。

 レイのことが好きだし、マネージャーのペンタグラムのみんなも好きだ。サクにゃんも、ハルルも、ナギチも、アカリさんも大切だし、花さんのことだって結婚相手が見つかるように祈ってる。


「今ボクにできることは、彼女たちのデビューを支えること。そして、国民的アイドルになるために全力を尽くすことだ」


「それがかえでくんのかなえたい夢なら、それがわたしの夢です」


 この先何が待ち受けていようとも、ボクは全力でメイメイたちの進む道に立ちふさがる障害を取り除いていく。

 2年後、彼女たちが武道館に立つとき、きっと何かが見えると信じているんだ。

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