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第12話 カエデちゃん、はずかしメイドの1日(1)~お風呂にする? ご飯にする? それとも……

「おかえりなさいませ、お嬢様」


 ボクは恭しく頭を下げる。


 ここは駅前にある豪華なホテル、そのスイートルームだ。

 わざわざスイートルームにいるのには理由がある。「ちょっと泊まりたかったから泊まってみた」なんて金額じゃないからね。1泊でボクの給料500年分くらい必要だし。それはさすがに言い過ぎか。300年分くらいかも?


 理由のヒント……ボクは山吹色のメイド服を着せられている。


 もう答えが出てましたね。そうです。定期公演#2『ドキドキ♡いたずらする?される?映像を見ても平常心を保て!~負けたら1日はずかしメイド対決』に負けたので、今日は罰ゲームの1日として、はずかしメイドになっているわけで……。


「う~~~~~~ん」


 ハルルが唸り声を上げる。

 おやおや、お嬢様がご機嫌斜めだ。これは困りましたね。


「何か不手際などございましたでしょうか……」


 恐る恐る(の演技で)尋ねてみる。

 めんどうだなあという気持ちは表に出さないのもメイドの務めだ。「優秀なメイドなら、ご主人様の飲み物にそっと睡眠薬を入れて早めに寝かしつけてしまうものさ」って、昨日読んだミステリー小説に書いてあった。勉強になるね。


「う~~~~~~ん」


「こちら、お飲み物などいかがでしょうか。心が休まりますよ」


 アヤシイモノハナニモハイッテナイヨ。


「う~~~~~~ん」


 いや、だから何さ?

 ずっと唸っててもわからないでしょ。


「もう1回、入り口のところからやり直したいわ」


「なんで?」


「私ね。やっぱりメイドの挨拶は『おかえりなさいませ、ご主人様』が良いと思うの!『お嬢様』だとご主人様の娘さんって感じしない? するよね? 今日は私がカエデちゃんのご主人様なんだから、やっぱり『おかえりなさいませ、ご主人様』のほうがテンション上がる!」


 うわー、死ぬほどどうでも良い話だったー。

 そんな理由で撮影をやり直しするんですか?

 えー、ご主人様の命令は絶対?


 カメラマン兼演出のレイが厳しい……。


「テイク2いきます」


 アクション。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 ボクはご主人様ハルルに向かってゆっくりと頭を下げる。


「今帰ったわ!」


 ハルルがボクの前に仁王立ちになる。

 

 沈黙の時がしばらく流れる。


 え、何この時間……? もう頭上げて良いの? なんか命令を待つ? 正解がわからない!


「ちょっとちょっと、レイちゃんカットして~! カエデちゃん何してるの? ご主人様が帰ってきたんだから、すぐにあのセリフを言ってくれないと!」


 ハルルがプンスカ怒っている。

 あのってどの? メイドに定番のセリフなんてあったっけ? いや、そもそもこの小芝居の台本くださいよ。


「かえでくん。定番のあのセリフです」


 レイまで当たり前のように……マジで何? ボクだけ知らないメイド界の常識があるの? いや、メイド界とか知らないし。


「もう、ご主人様が帰ってきたら『お風呂にいたしましょうか。ご飯にいたしましょうか。それとも~わ・た・し♡』でしょ!」


「わ・た・し」


 ノリノリの振り付きですけど、キミたちマジですか……。


「それ……メイドの仕事じゃないよね」


「メイドの仕事です~!」


「です」


「絶対違うよ! それ、新妻のやつじゃん!」


 ご主人様が帰ってきた時にすることといったら、カバン持ったり、外套を脱がせたりとかそういうのじゃないの⁉


「ご主人様の命令は絶対なの~!」


「絶対です」


「王様ゲームじゃないんだから……」


「テイク3いきます」


 容赦なくリテイク……。

 え、マジでやるの、それ……。


 アクション。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 三度目のアイサツ。


「今帰ったわ!」


 ボクの前で仁王立ちのハルル。鼻息が荒い。

 ボクがもう帰りたい。

 

 ゆっくりと頭を上げて……。


「お風呂にいたしましょうか。ご飯にいたしましょうか。それともわ・――」


「もちろんわたしっ!」


 ボクのセリフが終わる前から食い気味に飛びついてくるハルル。


「ちょっ」


 身をよじって反射的に避け……切った! ハルルが壁に顔面から激突する。


「ピピピピーッ! はるさん、イエローカードです」


「ええ~! なんでよ~⁉」


 レイにイエローカードを提示され、鼻を押さえながら地団太を踏むハルル。


「メイドさんに故意におさわりをしたら反則です。次にイエローカードが出たら退場になります」


 今のは一発レッドカードものでしたよ?

 そもそもおさわりの前に、若干エッチなセリフの強要もありましたからね?


「う~~~。おさわり禁止……偶然なら?」


「偶然はしかたありません」


「やった~♡」


 こっち見んな。鼻赤いよ。

 それにさ、偶然を装うのは故意って言うんだよ?


「ではテイク4いきます」


 えー、またやり直し⁉

 なんか適当に編集でつなげればいいじゃん?


「ではシーン1-2から」


 いや、それどこよ⁉

 台本もらってないからわからないってば。


「『お風呂にいたしましょうか』からお願いします」


 最初からそう言って……。


 アクション。


「お風呂にいたしましょうか。ご飯にいたしましょうか。それともわ・た・し」


「そうね……。少し疲れたし、お風呂にするわ!」


「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 ハルルを伴ってお風呂場へと案内する。

 ようやく話が進んだな……うわっ、スイートルームの内風呂ってやばい! なにこれ、プール並みの広さじゃん⁉


「ありがとう。じゃあお願い」


 脱衣所に入ると、ハルルが目を閉じて両手を広げる。


 えっと……脱がせろってこと?

 レイ、これはダメでしょ。放送できそうもないし。


(記録映像として保管しますので大丈夫です)


 いや、何かの間違いで流出したら大変なことになるから録画はやめて?


 カット。


「はるさん。着替えシーンと入浴シーンは撮影NGということですので、次はお風呂から上がった後のシーンに移ります」


「え~! まだお風呂入ってないわよ~! こんな豪華なお風呂なのに入らないなんてもったいない~」


 ご主人様はわがままだなあ。


「ではせっかくですから3人で入りましょう」


「やった~!」


 ちょっとレイさん、何を言い出してるんですか?

 ハルルも……。

 今日は仕事できているんですからね? 遊びじゃないんですよ?


「ボクはメイドなのでご主人様とお風呂なんて滅相もない。遠慮します」


 身分の差とかあるからね?

 うるさいなあ。ご主人様のくせに、ブーイングするんじゃない!


 まったく。

 良い感じに撮影を終わらせて、さっさと帰りたい……。


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