第11話 2人の気持ち、ボクの気持ち
喫茶店に到着すると、テラス席に都が座っていた。
「あれ? 都だ。ヤッホー!」
ボクが声をかけると、都が顔を上げて目を見開く。
「あら、本当に来たわ……。楓に渚さん。めずらしい組み合わせね」
「ん、ボクたち2人だけってのは、めずらしいかもしれないけど、そこまで驚くようなことでもないような」
ナギチと顔を見合わせてしまう。
都は何をそんなに驚いているんだろうね。
と、ナギチがボクの腕に絡みついてくる。
「私たち~、今日はデートで~♡」
「ところで都はここで何をしてるの?」
ナギチは放置。
ボクの腕を取ったり離したり、せわしなく動いている。
でも放置。
「特にこれといって……。オフだから日向ぼっこかしらね」
見れば手元にはブックカバーをつけた文庫本。
お茶でも飲みながら読書って感じですかね。
「優雅で良いですなー。じゃあボクたちも相席を――」
「私! 花粉症だから! 室内じゃないとダメだから!」
ナギチ、マスクを指さして必死のアピール。
はいはい。わかりましたよ。
「先行ってるから!」
ナギチはそう言い残し、1人店内へと入っていく。
「というわけで、都は休日を楽しんで。ボクたちは中の席に座るね」
「あ、中には――」
「あ~~~~~~ハルにゃん⁉ なんでここにいるの⁉」
いち早く店内に入ったナギチの声が聞こえてくる。
うるせー! 腹式呼吸で大声出すんじゃない! 周りの人の迷惑でしょ!
「春さんもきてるわよ……って、まずかったかしらね?」
都が小声で尋ねてくる。
「さあね? ボクは別に……」
でもまあ、トラブルの予感しかしない……別の店にすれば良かったかなあ。
* * *
「ハルにゃんは別の席に座ってよ!」
「え~、なんで~? 私たち仲間じゃない♡」
「今日はプライベートだから仲間関係ないです~!」
「プライベートでも私とカエデちゃんは親友だもん♡」
「親友なら遠慮してください~!」
「健やかなる時も病める時も、片時も離れないのが親友よ♡」
「そんな親友いません~!」
おふっ、いきなり修羅場だ……。
自己主張の激しいトップ2のナギチとハルル。なんて相性の悪い2人なんだ!
あー、キャラメルマキアートがおいしいなー。
なくなっちゃった。
もう1杯買ってこよう。……テイクアウトで。
「カエちゃんどこ行くの⁉」
ナギチがボクの裾を引っ張る。
「飲み物なくなっちゃったから、追加で買ってこようかなーって」
「……私もいく」
「ナギチはまだ入ってるじゃん。ハルルと楽しくお話しておいて」
できればずっと2人だけで頼む。
「私もいく」
「ハルルもまだ飲み物あるじゃん」
「フードも見ておこうかなって……」
ハルルが若干にらみつけるようにこちらを見てくる。
警戒されてる……。
困った。こっそりドロン作戦が実行できそうにない。めんどうだなあ。
* * *
「ホワイトモカにエスプレッソショットを追加したの?」
ハルルがボクの注文したドリンクのレシートをしげしげと観察してくる。
「うん。あとライトシロップにもしているよ。ちょっとだけホワイトモカの甘さがほしくて、あとはエスプレッソでキリッとした後味が好きかな」
「そのわりにはエキストラホイップなのね……」
「混ぜながら飲むとまた違った甘みがね。気になるなら飲んでみる?」
「えっ⁉ そんな、えっ⁉ だって間接キスに……」
まるで瞬間沸騰したように、ハルルの顔がパッと赤くなる。
「関節キスって……少女マンガじゃないんだから」
ハルルってそういうところあるよね。そういう反応されると、こっちが変に意識しちゃうじゃんか。
「はい! 私が間接キスします!」
注文を終えたナギチが高速で駆け寄ってくる。
もう目的変わっちゃってるじゃん……。
「もういいや。誰にもあげませんー」
「ああっ! せめて飲み終わった後のカップとストローだけでも!」
「絶対やだ」
* * *
「ハルにゃんは別の席に座りなさいよ!」
「仲間じゃない♡」
「今日はプライベートです~!」
エンドレス!
「あー、もういいから。2人が仲良くしないならボク帰るけど」
ナギチも元気になったし、もう目的は果たしたよね?
「私たち仲良し♡」
「マブダチ~♡」
いつの間にか肩を組んで笑い合っている2人。
とてもぎこちない笑顔ですけどね……。
「はあ。仲が良いんだか悪いんだか……。2人とも性格が似てるから心配だよ」
「ナギサと⁉」
「ハルにゃんと⁉」
お互いに顔を見合わせて驚きの声を上げた。
「いや、2人ともドッペルゲンガーくらいそっくりでしょ」
「「どこが⁉」」
きれいにユニゾンする2人。
「自分大好き」
「「うっ」」
「承認欲求モンスター」
「「ううっ」」
「独占欲が異常に強い」
「「うううっ」」
「それなのに自己肯定感低すぎ」
「「ギブアップ」」
ギブアップタイミングまで一緒かい。
あと100個は2人共通の特徴を並べられるけど?
「まあ、別に、今挙げたのは短所ではないよ。それだけ似てるんだから、お互いにお互いのことをフォローできるくらい仲良くしても良いんじゃないってこと」
グループ内での競争はある程度必要だと思うけど、いがみ合ってたら絶対良い結果は生まないと思うんだよね。向き合うべきなのはファンであって、仲間内ではないのだから。
「わかってるのよ……」
「わかってるわ……」
下を向いてしまう2人。
「カエデちゃんがもう少しやさしくしてくれたら……」
「もう少しだけ私のことを見てくれたら……」
2人の心の声が漏れ出て聞こえてきた気がした。
どうしてボクなんだろう。
何も持たないボクに、こんなにも2人が依存するのはなぜなんだろう。
それぞれバディとなるマネージャーはいるわけで、その関係性が悪いわけではない。それなのに、なぜだか異常といってもいいほどに、2人はボクのことを気にしてくる。ボクの反応を見て、嫌われてないか、好かれているか。時には独占欲を出し、ほかのメンバーよりも自分を、と……。わからない。
「いつも見てるよ。ボクはみんなのことが大好きなんだから」
「わかってるのよ……」
「わかってるわ……」
それでも2人の表情は晴れない。
ボクだってそこまで鈍くはないから2人がどんな言葉を欲しがっているかはわかる。
でも、ボクに応えられるのはこれが精いっぱいなんだ。
誰か1人だけを特別にどうにかしてあげることなんてできないのだから。
「今のこの関係が、みんなで高みを目指す仲間たちが好きなんだ……」
変わりたくない。
ずっとみんなで一緒に――。
ごめん。