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第9話 小宮桜生誕祭2024 その6~怪人Xはあなただったんですね(終)

「みっちゃん――」


 名前を呼ばれ、ウーミーがゆっくりと目を開ける。


「よく、わかりましたわね……」


「このヒントを見て、すぐにわかりましたよ……。こんなにも『7』があふれているだもん……」


 サクにゃんが横になったままのウーミーの頭を抱きしめる。


「7/7。みっちゃんの誕生日」


「さっちゃん……見つけてくれてありがとう……。これが解毒剤……ですわ」


 ウーミーが震える手で、ポケットから茶色い小さな小瓶を取り出す。


「さあ早く……。毒が回りきらないうちに飲んで……くださいまし」


「でも……サクラ1人だけ助かるわけにはいかないです!」


 サクにゃんが首を振り続けて、解毒剤の小瓶を受け取ろうとしない。

 ウーミーはゆっくりとした動作で何度も休みながら小瓶の蓋を開け、サクにゃんの口に押し付ける。


「さあ、早く……飲んでくださいまし」


「いやよ。みっちゃんがいない世界なんて!」


「わたくしは怪人X。そこにさっちゃんの笑顔がある限り、何度でも蘇ります……わ……」


 ウーミーは震える唇で弱々しく笑う。

 そしてサクにゃんの口に、小瓶の中の液体を一気に押し込んだ。


「みっちゃ……苦っ! 苦い! 何ですか、これ⁉ 苦い苦い苦い!」


 サクにゃんは小瓶から口を離して首を激しく振り続ける。


「何って、解毒剤――お薬のセンブリ茶ですわ~。お薬は苦いものですわよ。10分のタイムリミットを守れなかったさっちゃんに罰ゲームですわ!」


 それまで死にそうになっていたウーミーがしっかりとした足取りで立ち上がる。なんなら腰に手を当てて仁王立ちだ。


「みっちゃん⁉ 毒は⁉」


 ウーミーは背中の制服の下に隠していたプレートを取り出し、そこに書いてある文字をカメラとサクにゃんに見せつける。


「テッテレ~。さっちゃん。『ドッキリ大成功!』ですわ~」


「ドッキリ……?」


「大成功~!」


「サクちゃん騙されましたね~」


 ハルル、そしてメイメイが順番に立ち上がって、隠し持っていたクラッカーを鳴らしだす。

 しゃがみこんだまま呆然しているサクにゃんのネコミミに、容赦なく紙テープが絡みついていく。


「春さん……早月さん……これはいったい……」


 まだ状況が呑み込めていないサクにゃんに向けて、ボクは事前に用意していたカンペを見せる。

 と、同時に、同じ内容を配信のテロップにも流していく。



『サクラの愛を試せ! チキチキ☆桜餅連続殺人事件~小宮桜の事件簿~バースデーサプライズスペシャル』


「うぅ……コーチ、ひどいです! サクラをだましたんですか⁉」


 サクにゃんが顔を両手で覆って泣き出す。


 いや、だましたのはボクではなくて……。


「そうだよ~。全部カエくんの指示で、私たちは無理やり演技させられました~」


 あ、汚いっ!

 脚本家のメイメイ!


「そ、そうね。すべてカエデちゃんが仕組みました!」


「楓さんがこうするとさっちゃんが喜ぶぞって……無理やりですわ……」


 うわー、ハルルにウーミーまで! 思ったようにサクにゃんが喜ばなかったからってひどいぞ!


“やっぱりな”

“知ってたw”

“演出がくさいと思ったわ”

“なななななななーなー”

“せっかくだから崖の上でやってくれw”

“次は湯けむり殺人事件頼むなw”

“え、毒は? みんな解毒剤飲まなくて平気なのか⁉”

“おいwwwお前マジかwww”

“ピュア民おるやんw”

“こいつぜってぇカエデだろw”


 それは濡れ衣だ!


(かえでくん、カメラの前にいってさくらさんと仲直りをしてください)


 え、そういう流れ?

 つまりボクが、シン・怪人Xってことですかね……。


(それで丸く収まるかと思います)


 なるほど……ですよね……。まあ、それでいいならそうしますけれども。


(よろしくお願いします。わたしはふがいない怪人Xでした……)


 大丈夫だよ。レイは良い演技だったよ……。

 じゃあ、逝ってきます……。


 カメラの前、顔を覆ったままのサクにゃんの前にゆっくりと歩み寄る。


「サクにゃん……」


「コーチ……?」


 ボクの声に反応したものの、サクにゃんは顔を覆ったまま。


「だましてごめんね」


「コーチ……」


「機嫌直して? みんなで桜餅食べよう?」


「コーチ……ドッキリ大成功……です」


 サクにゃんがそうつぶやくと、両手を外して顔を上げた。

 

「ま、まさか……」


「ドッキリ大成功! サクラ、泣いてませんでした! みんなが死んじゃうって思ったらすごく怖かったですけど、でも無事で本当に良かったです!」


 サクにゃんはとびきりの笑顔だった。


「ボクがだまされた……のか……」


「コーチが意地悪するから、サクラも意地悪してみました! 倍返しです!」


「楓さん、今回はさっちゃんの1人勝ちですわ」


 ウーミーが小さく微笑む。

 まさかこの土壇場で逆ドッキリを仕掛けられるとは……。


「って、これ、どこまでが台本⁉」


「台本? なんのことですか?」


 サクにゃんが首をかしげる。


 アドリブ……だと……。恐ろしい子!



「はい、というわけで、ここからはサクラのバースデーパーティー再開です! 桜餅には毒なんて入っていないので安心して食べましょう!」


 と、ハルルがレイの出したカンペを読み上げる。


 のこのこ出て行って、逆ドッキリを仕掛けられてすごすごと帰るだけ……。

 配信的には成功なのか?

 コメント欄はまあまあ楽しんでくれていたからいいのかな?

 

 もう正解がわからない!


「あ、コーチ! せっかくだから桜餅を一緒に食べましょう!」


「そ、そう? 良いのかな?」


 ちらりとレイを見る。

 レイは何度も小さく頷いていた。


「じゃあ、せっかくだから……」


 なぜか空いているイスに座り、桜餅をいただく。


「おいしい!」


「そうでしょう! そうそう、それだけ、さっき毒を入れておきました!」


 サクにゃんが真剣な表情で言う。


「ええ?」


「サクラのことをべたべたに甘やかしたくなる毒です!」


 そう言って、にやりと笑った。


 まったく、しょうがないな。

 今日くらいはいつもがんばっているサクにゃんをべたべたに甘やかしますか!


 って、何か重要なことを忘れているような……。


 はて?


 こうして『小宮桜生誕祭2024』の生配信は無事成功を収めたのだった。

 めでたしめでたし。



 配信の最後までカメラのフレーム外で眠らされていたナギチの存在に気づいたのは、撤収作業を始めた後のことだった……。


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