第8話 小宮桜生誕祭2024 その5~小宮桜の名推理
これで動けるのはサクにゃん、ハルルの2人だけか。
2人には3分以内にやらなければならないことがあった。
「ヒント……ヒント……バッファロー……」
サクにゃんがつぶやきながらテーブルの前を歩き回る。
がんばれサクにゃん!
心の中で応援することしかできないけれど、今日の主役はキミだ!……バッファロー?
「道明寺が3個。長命寺が7個。何個かずつ紙皿に乗せてあって、あとはウェットティッシュのボトルが1つとペットボトルが7本……」
ハルルによる何度目かのアイテム確認。テーブルの上に乗っているものを1つずつカウントしてサクにゃんに聞こえるようにつぶやく。
「これらのどこにヒントがあるのでしょうか。やっぱり桜餅ですか? もしかして、桜餅を全部割れば中に何か書いてある紙が入っているとか?」
「それならすでに誰かが口にしているかもしれないし……」
2人の問答を見て、やきもきしたコメント欄が若干荒れ気味だ。
“考えてる間に割って中身を見ろw”
“なんか手を動かすんだ!ハリーハリーハリー!”
“しかし2人か。あっさり人数減ったな”
“もう残り2分くらいか?”
“2分10秒”
“細かいよw”
“これはタイムアップかなー”
“俺答えわかったわw”
“怪人Xさん、ここです”
“勘の良いガキは嫌いだよ!”
まあそうだよね……。
ずっと「うんうん」唸っているだけだし、ちょっと動きがほしいところ! 考えているだけでは何もせずに時間切れになってしまいますよ! なんかテコ入れの指示出すか……。
「春さん……これ、ちょっとおかしくないですか?」
サクにゃんがペットボトルを手に取って、しげしげと眺めている。
「ペットボトルがどうかした?」
「このペットボトルに入っているのは……水ですよね?」
「そうね。ラベルは外してあるけれど、普通にミネラルウォーターのはずよ」
スポンサー配慮的なあれで、商品名の書いたラベルは剥がすのが通例だ。≪初夏≫はそういうスポンサーがいないから関係ない気もするけれど、まあ一応って感じなのかな。そういう政治的なあれはあんまりよく知らない……。
「なんで側面にマジックで大きく『み』って書いてあるのでしょうか? 水の『み』かな? 普段こんな感じでしたっけ?」
サクにゃんの手にしたペットボトルだけではなく、すべての透明なペットボトルの側面には『み』と1文字だけが大きく書かれている。
「どうだろう……いつもは……書いてなかった、ような気もするわね……」
ハルルが額に手をやり、過去の記憶を掘り起こすように指でぐりぐりと脳を刺激する。
「あれ⁉ よく見たらペットボトルの底にも小さく何か書いてあります!『7』? 数字の7ですね。こっちにも! こっちのペットボトルにも! 全部のペットボトルに『み』と『7』が書いてあります!」
「サクラ、それ重要なヒントなんじゃない⁉」
“お、やっとヒント見つけた⁉”
“やるやんサクラ!”
“残り1分くらい?”
“1分13秒”
“だから細かいってw”
“もう時間やばいな”
“み7?水7?”
“なんのことだろう”
“水曜どうでしょう?”
“水ダウ?”
「み……水? 渚さん?……でも7は?」
「7が何なのかわからないわね。ナギサの『な』? 何か違うような……」
刻一刻と時間が迫る。
ハルル、そろそろ!
ボクは後頭部に手をやり、ゆっくりと頭を掻く。あらかじめ決めておいた合図だ。
「ぅ……サ……クラ……」
ハルルがさりげなくカメラの正面に回り込むと、片手をテーブルにかけたまま、胸を押さえて倒れこむ。
「春さん⁉ 春さん!」
サクにゃんがハルルに駆け寄る。
「もう私は……ここまで……みたい……時間が……私の分、まで……」
そう言い残し、ハルルがテーブルの上にある空の紙皿を掴んでひっくり返すと、そのまま床に倒れこんで意識を失った。
「春さん……どうしてこんな……とうとうサクラ1人に……あれ⁉」
その時サクにゃんが気づく。
ハルルの手によってひっくり返された紙皿の裏に書かれた文字の存在に。
「紙皿に『7』って書いてあります! こっちにも、この紙皿にも! 全部に『7』って! これは……⁉」
サクにゃんが黙り、考え込む。
残り30秒を切っていた。
「紙皿が7枚。数字の『7』。ペットボトルが7本。底に『7』。そして『み』……サクラ、わかりました!」
サクにゃんがそう宣言して立ち上がると、ある人物のそばへと歩み寄る。
「怪人Xはあなただったんですね……」
サクにゃんは、倒れているその人物をゆっくりと抱き起こした。