第3話 サプライズは、私が道明寺を食べて死ぬ?
ほかに誕生日配信の時のサプライズネタはないかな……。
「もうちょっとアイディアを出し合ってみたい……」
前回のバレンタインの時は、みんながサクにゃんに対して何かをするネタだったから、今回はその逆というのは目の付け所としては悪くないはず。でもそれが人気バラエティー番組の完全パクリでいいのかどうかは別問題である……。
「なんかこう、サクにゃんに何かをやらせる雰囲気を作って……」
「はい、は~い!」
メイメイがレモンパイを食べる手を止めて立ち上がった。
ホールケーキを貪る生き物が何かを思いついたらしい。
「メイメイ、どうぞ」
「えっとですね~。私が道明寺を食べて死ぬ」
「死ぬ⁉」
「そう、犯人はこの中にいる!」
メイメイはカメラ目線でズバッとキメポーズ。……いや、カメラどこよ?
「道明寺殺人事件、ですの?」
「ウーミー、それだと道明寺さんが死んだみたいになってるから」
「それでは『夏目早月殺人事件』ですのね」
ウーミーが神妙な面持ちで頷く。
「なんかそれだとメイメイが主役のテーマみたいに聞こえてくる……タイトル難しいな」
「タイトルよりも内容をもう少し詰めましょうか」
レイの提案。
たしかに、まずは内容だよね。メイメイが道明寺を食べて死ぬところまでしかわかっていない。
「名探偵小宮桜の事件簿ですよ~」
なんだ、良さげなタイトルあるじゃないの。
「ふむ、それで?」
「ハルちゃん、うみ先輩、ナギサちゃん、カエくんの中に真犯人がいます!」
「え、ボクもその中に入るの?」
「当然ですよ~。道明寺を運んでくるのはカエくんですから、1番怪しい人物です~」
うーむ。それは1番怪しいね。
「サクちゃんが見事真犯人を当てられたら優勝です~」
「優勝? それは誰かと競うのかしら?」
ハルルが尋ねる。
「怪人Xと競います~」
「怪人X。急に現れたそいつは何者?」
「私が道明寺を食べて倒れた後、どこからともなく放送が流れてくるんです~」
うん、放送ね。
「『私は怪人X。メイメイを仮死状態にしてやったわ。小宮桜、お前に10分だけ猶予をやろう。私の正体を見事当てて見せよ。そうすればメイメイに血清を飲ませて命をつなぎとめてやろう』」
怪人Xになりきってんなー。
「『フハハハハハハハ』」
「フハハハハハハハ」
「フハハハハハハハ」
「なんで今、レイとハルルは怪人Xのマネをして笑ったの?」
「ちょっとマネしてみたくなっただけですよぅ」
「ちょっと役作りの練習、みたいな?」
「そうですか……」
急になんか紛らわしいことしないで。
ホントに怪人X役なのかと思ったわ。
「でもさ、ボクたちは配信中だからその場にいるんだよね? そこに怪人Xの放送が流れてきたら犯人なわけなくない?」
「ミスリーーーーード!」
メイメイが突然大声を出した。
「びっくりした……今の何?」
「そう、ミスリードなんですよ~。それこそが怪人Xの狡猾なところなんですよ~。自分はこの場にはいません。だから犯人じゃないですよ~ってアリバイがあるかのように見せるわけです~」
「アリバイね。ミステリーにつきもののやつかあ」
「犯人はわたくしですわ!」
ウーミーが手を上げる。
「え、ウーミーが怪人Xなの⁉」
謎解きもせずに事件解決しちゃったよ。
「いいえ、わたくし、犯人役をやりたいですわ」
「ああ、そういうこと。それは良いんじゃないかな」
まあ、サプライズをしたいのはウーミーだし、1番重要な役どころを押さえるのは当然かな。
「ですが……役者の春さん楓さんを差し置いてわたくしが主役を……」
ちらちらと顔色をうかがってくる。
ボクたちの機嫌を損ねないか気にしているらしい。ボクは別に役者ではないのだけれど?
「先輩……ぜひ怪人Xをやってください!」
ハルルが握りこぶしを作って応援のポーズをとる。
「そうだよ。今回の事件はウーミーが主役さ!」
「春さん、楓さん……」
ウーミーの目に涙が溜まる。
いやいや、大げさな。まだ何も始まっていないですよ?
「わたしは何をすればよいでしょうか」
「もちろん、レイちゃんは怪人X役ですよ~」
「「「えっ⁉」」」
全員が驚かずにはいられなかった。
「だって今ウーミーが怪人X役に決まったじゃん」
「そうじゃないですよ~。ホントの怪人Xがうみ先輩だとしても、放送を流したり、道明寺に毒を仕込んだりする裏方の怪人X役が必要ですよ~」
「お、おう……それはたしかに……?」
「つまりわたしが裏で怪人Xとして動いて、最後は先輩が真犯人として名乗り出る、そういうことですね」
「そうです~。脚本が出来上がったらみんなに渡しますね~」
うーん。
それってウーミーが真犯人なのかな。
なんかレイが真犯人に思えるんだけど……。
まあ、脚本の出来上がりを待つか。
こうして小宮桜生誕祭2024のサプライズは、メイメイ脚本による『名探偵小宮桜の事件簿』に決定したのだった。