表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第五章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #1~#2編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

296/440

第59話 定期公演#2 その8~世界はすでに滅んでいて、ボクたちだけが取り残されているとしたら(終)

「春さん、もう出番よ。急いで着替えて!」


 臨時控室に戻るやいなや、都の指示が飛んでくる。

 急げと言われただけで、ステージ下でナギチとレイのパフォーマンスを見ていたことは咎められたりはしなかった。


「はい!」


 ハルルは、ボクが隣にいるのを忘れているのか、躊躇なく赤いメイド服の隠しファスナーを下ろし始める。

 はいはい。こっちの端で目を閉じてますから存分に急いでください。


「水沼渚、ただいま帰還~! カエちゃん隅っこで何してんの~?」

 

 背中越しにナギチの声が聞こえてくる。


「……ちょっと瞑想中」


「ふ~ん? へんなの~」


「渚さんも遊んでないで! 急いで着替える! 3人がつないでくれている間に! 残り30秒!」


「は~いは~い。銀河よりも速く~!」


 都がハルルを、レイがナギチの着替えを手伝っているのだろう。無言の中、布擦れの音だけが臨時控室に響く。ボクは役に立たない置物ですから……。


「衣装OK! メイクも……OK! そっちは⁉」


「はい。宇宙で2番目にかわいいなぎささん完成です」


 ふう、もう目を開けて良いかな。

 うんうん、2人とも2ndシングルのエメラルドグリーンの制服がかわいいね。


「スタンバイできたわ。これから2人がステージに行くわよ! GO!」


「「はい!」」


 都がインカムにも連絡を入れる。と、同時にハルルとナギチが臨時控室を飛び出して舞台へと走っていった。

 

「それでね~、カラオケで歌の練習をしてる時にレイちゃんが――あ、ハルちゃん、ナギサちゃん!」


 メイメイがつなぎのトークをしているところで、2人が舞台に上がる。


「おまたせ~!」


「おまたせ! サツキは何の話してたの~?」


「えっとね~。レイちゃんとカラオケボックスに行った時の話~。演歌のこぶしの練習をしているレイちゃんがかわいくって~。こう、目を閉じて右手を握りしめて歌うの~」


 メイメイが、レイのモノマネをしながら『涙の雷雲』の1フレーズを歌いだす。


 うわっ、うま!

 メイメイってば、普通に演歌いけるんじゃない?


「さつきさんはどんな曲でも歌いこなしてしまう言わば天才です」


 と、レイ。

 まだ着物を羽織ったままだ。まあ、ボクもメイド服のままだけどさ。ボクたちの着替えは公演がすべて終わったあとでゆっくりとね。


「メイメイもさ、最初の頃は個性がないなんて言われてたけど、最近はステージ上でも明るくなったし変わったよね」


「そうですね。学校でも『雪月の姫』と呼ばれていた時代が懐かしく思えるくらい明るいです」


「確かに今はそんな感じもなくなってきたかもね。きっと以前はお母さんのことを意識しすぎて硬くなってたんだろうなって思うんだよね。でも最近は自分は自分、やりたいことを好きに表現して良いんだってことがわかってきた感じかも?」


「歌や演技、ゲリラ配信を通じて、自身を表現するということが見えてきたのかもしれませんね」


「きっとそうだと思う。ちょっと暴走するキャラとしてファンの間でも認知されだしたし、みんながメイメイの魅力に気づき始めてる」


「よかったですね」


「うん、ホントにうれしいよ」


 ボクがメイメイのことで喜ぶと、レイも自分のことのように喜んでくれる。それがまたうれしい。


「初披露曲、始まりますよ」


「ハルルのソロパートが多いスローバラード『明日への希望』だね」


------------------------------

 たとえこの世界が滅びたとしても

 僕たちはこの足 大地を踏みしめる

 叫び声あげて 生き続ける

 それこそが魂 明日への希望

------------------------------


 ポストアポカリプス。

 人類史が築いた文明が崩壊した後の世界を描いたバラード曲だ。


 命があるのは当たり前じゃない。

 必死にもがき、苦しみ、そして生き続ける。

 自分自身で明日への希望をつないでいく。


 ハルルのかすれるような叫び声が耳に残る。

 まるで魂そのものが叫んでいるようで、心臓がギュッと握りしめられる感覚に陥る。



「はるさんは何を思ってこの曲を歌っていらっしゃるのでしょうね」


 レイがぼそりとつぶやく。


「真に迫るというか、すごいよね。もしかしたらさ、この代々森体育館を一歩出たら、世界はすでに滅んでいて、ボクたちだけが取り残されている、なんて想像しちゃってりして」


「この世界にわたしたちだけ。それもすてきです」


「そう? それだと≪初夏≫のみんなのパフォーマンスを見てくれるお客さんたちがいなくなっちゃう」


 誰もお客さんがいなくなったとしたら、≪初夏≫はトップアイドルになれなくなってしまう……。


「人はそんなに簡単に滅びたりしませんよ」


「ええ……。レイが言い出したのにー」


「ふと、かえでくんと2人きりの世界も悪くないと思っただけですよぅ」


 そう言ってボクのほっぺたをつついてくるレイの顔がたまらなく愛おしくなった。

 

 ボクも――。

 

 と言いかけた言葉をぐっと飲みこむ。


 そんな未来も悪くはないね。だけど、その前にボクにはやらなければいけないことがある。このライブを、その先のライブも、そしてその先も盛り上げて、≪初夏≫のみんなを高みへ。


「大丈夫ですよ。この曲のラストでも希望が語られていますから」


------------------------------

 悲しい記憶なんて いつかは薄れる

 明日だけを見つめて 生きていけばいいさ

 手に手を取り合って ぬくもりを感じれば

 僕たちの世界は広がり続ける

 後ろは振り向かない 明日への希望

------------------------------


 そうだね。

 明日の希望だけを見つめて、がむしゃらにがんばるだけだ。



 ラストは『The Beginning of Summer』で締める。

 デビューイベントから、ライブでは必ず歌ってきた1曲。1stシングルの表題曲にしてグループ名がそのままタイトルになった曲。まさに≪初夏≫を代表する1曲だ。


 こうして何度も聞いていると、やっぱり涙が出てきてしまうのはなぜだろう。

 懐かしい。

 ボクの記憶、脳のデータベースに刻まれた≪初夏≫の思い出。

 過去の記憶はだんだんと薄れていき、ここでの生活に上書きされていく。


 でもこの曲を聞いていると、それでもいいんだって思えてしまうんだ。


 今が楽しい。

 きっとこの先も楽しい。

 

 ずっとずっとこのメンバーで。

 いつか終わりを告げるその時まで、ボクは走り続けたい。



第五章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #1~#2編 ~完~



第六章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #3編 へ続く


-----------------------------------

ここまでお読みいただきありがとうございました。


波乱に満ちた第五章が終わりました。

作中の爆弾テロ事件の影響で、当初予告されていた定期公演が1カ月ズレで開催されています。ですが無事#2まで終わりましたね。

#3のお当番はサクにゃんとウーミーの『#海桜』コンビです。


さて、どんな出来事が待っているのでしょうか。

次回はオンライン配信になるのか、それとも現場でのライブが開催できるのか。

テロの犯人は捕まるのでしょうか?


などなど、楽しんでいただけるように執筆を続けてまいります。

引き続きお付き合いいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ