第57話 定期公演#2 その6~ドキドキ♡いたずらする?される?映像を見ても平常心を保て!~負けたら1日はずかしメイド対決~!(4)
『第2回戦終了しました~。それにしても衝撃的な映像でしたね。こんな映像を流して、YooTubeで何らかのペナルティーがあったりしませんか、大丈夫ですか?』
映像が終わり、都が進行をする。
レイティングの心配をする前に、ボクの心が大丈夫じゃないんですけど……。
しかしまあ、なんていうか、会場は大爆笑の渦ですね……。
この薄情者! お前たちを弟や妹だと思ったボクがバカだったわ!
『それにしてもこの映像はなんですか? 私も初めて見たので……AVですか?』
そんなわけあるかあ!
「ふっふっふ。映像を提出した私からお答えしましょう!」
ハルルがイスから立ち上がり、ドローンカメラに向かって手を広げる。
『おや、春さん? とても元気そうですね。それでは説明をお願いします』
「は~い。さっきの映像はですね、なんと、映画『朝日は西から昇る』の撮影現場で流行していたエチュードの映像なのです! 朝西の現場では、本番の収録以外でもカメラを回しながら即興劇をしていたんですよ。出演者同士で演技の練習をですね~」
『さっきの映像はエチュードの様子でしたか。カメラワークがすばらしいのは、プロのカメラマンさんが撮っているからだったんですね』
「そうで~す。ちなみにさっきのは、私とカエデちゃんが『姉妹で動物園に行き、いろいろな動物を観察する』というエチュードでした」
『それで最初にアフリカゾウらしきものを観察していたんですね。そのわりには最後下ネタに走るというか、セクハラを通り越して、若干犯罪のようにも見えましたが?』
はい。あれは犯罪に片足を突っ込んでいたと思います。
「ミャコさんやだな~。演技ですよ、演技♡ カエデちゃんの泣き叫ぶ演技も真に迫っていてすごかったでしょう?」
ハルルがにこやかに笑い飛ばす。
くっ……会場の笑いも相まって、さすがにボクがここで「あれは演技じゃなかった」なんて言える雰囲気に……これも見越してこの映像を……計算してきてるな……。
「最後姉妹で手に手を取り合って、一生の愛を誓う。すばらしいエンディングでした♡」
会場のみんな! 「おー」じゃないよ! 何感心してるのさ!
ぜんぜんそういう映像じゃないのに、完全に信じ込まされているっ!
『そうみると、楓の演技もすばらしいですね。本気で嫌がっているように見えました。さすが映画のメインの役に大抜擢されただけのことはありますね』
「ぜんぜんそういうのじゃなくて……」
「カエデちゃん♡ エチュード楽しかったね♡ ね♡ ね♡」
ハルルの笑顔の圧力が怖い……。
「は、はい……」
ここは流して、あとで正式に抗議するしかないか……。
『はい。解説ありがとうございました。それでは1回戦、2回戦と戦いを終えまして、心拍数の結果を見てみましょう』
平常時の心拍数。
カエデ:89
ハルル:92
第1回戦の最大心拍数。
カエデ:139(+50)
ハルル:141(+49)
第2回戦の最大心拍数。
カエデ:165(+76)
ハルル:103(+11)
『というわけで~、1回戦、2回戦ともに新垣春選手の勝利です!』
都の口から、高らかに結果が発表された。
「やったわ! 完全勝利よ!」
ステージ上でガッツポーズを掲げながら飛び上がるハルル。
イスに座ったままうなだれるボク。
負けたぜ。
完全に準備不足だった……。
『放送席、放送席~。ヒーローインタビューです。今夜の戦いに勝った新垣春選手にお話をお聞きしたいと思います。いや~、見事な勝利でしたね~』
「最高です!」
カメラ目線で満面の笑みを浮かべている。
『ズバリ、勝利の要因は何でしたか?』
「最高です! そうですね~。入念な人物研究の成果ですね」
『と言いますと?』
「カエデちゃんのことを調べ尽くして、どんな時に動揺するのか、何をすると心が乱れるのか、心拍数を計測しながらずっと観察してきた結果だといえます!」
え、いつ心拍数を取られていたんだろ……。
ねえ、これって堂々としたストーカー宣言では?
『すばらしいですね。日々のたゆまぬ努力が勝利の鍵だったわけですね』
「今回だけは絶対に! 負けたくなかったんですよ!」
『おや? 対決モノではいつも春さんが勝っている印象がありますが?』
「そうなんですけど~、カエデちゃんは負けず嫌いなところがあって、いっつも『勝負に勝って試合に負けただけー』って、負けを認めないんですよね。それが悔しくって」
『それは楓の往生際が悪いですね。裏で叱っておきますね』
くそぉ。
だっていつも勝負には勝ってるんだよ! なんだかんだ最後ルール的に負けてるだけで!
「でも今日はルールの中でも心拍数の数値で完全に勝ち切りました!」
『そうですね。今回はぐうの音も出ないくらいの圧倒的大差で春さんの勝ちだと思います!』
「私やりました!」
勝利のブイサインが飛び出る。
まあ、さすがに今回は負けを認めるしか……。
『それでは敗者インタビューもしてみましょうか』
なんじゃそりゃ。
死体蹴りか! 性格悪いぞ、都!
『見事完敗した楓さんですが、どの辺りが勝負の分かれ目だったと思いますか?』
「えっと……そうですね……。今朝、対決があることを聞かされたところですかね……」
『なるほど? 急きょの対戦カードだったわけですね? それで負けたから自分は悪くない、と?』
「いや、そんなことは言ってないですけど……。なんかもうちょっと事前に知ってたら対策とかもあったかなって……」
『それは残念でしたね。でも負けは負けですのでちゃんと認めましょう』
「はいはい、わかってます。負けました、負けましたー」
会場からは指笛の音が聞こえてくる。
納得いかないなー。
『というわけで、冒頭でもご説明いたしました通り、「勝ったほうが負けたほうを1日だけ“はずかしメイド”として自由にすることができる」ということで……楓が“はずかしメイド”決定です!』
会場から割れんばかりの拍手と歓声。そして赤いペンライト一色。
気づかなかった。ここはアウェイの地だったか……。
「やったー! ばんざ~い! みんな応援ありがと~♡」
ハルルはイスの上に立つと、会場、そしてドローンカメラに向かって投げキッスの嵐だ。
『はい、というわけで、「楓の“はずかしメイド”な1日」は後日、公式チャンネルにてダイジェスト版の動画をアップロード予定です。みなさんご期待ください!』
1日かあ。
何させられるんだろう……。
『くれぐれも、エッチな命令は禁止ですからね?』
「わ、わかってるわ!」
てんどん。
いやー、もうエッチな映像で勝利している時点でどうなってしまうんでしょうかね……。激しく不安です。
(わたしが撮影担当なので安心してください)
レイさん……安心できますかね、それ。
ボク、レイさんにさっき大きな裏切りを受けたばっかりなんですよね。
(わたしはかえでくんの味方です)
見事に裏切られて負けましたけど。
(負けるが勝ちです。今回は負けたほうがおいしいので)
芸人じゃないので負けておいしいとかないんですよ……。
(“はずかしメイド”楽しみですね)
それはレイさんが、楽しみなだけですよね……。
はぁぁ……。




