第29話 楓のオシャレ
「きゃ~みんな~! 大変大変よ! んふふっ、カエちゃんがオシャレしてきてる♪」
レッスンスタジオに入るなり、アカリさんがボクを見てうれしそうに悲鳴を上げた。
びっくりした……。
「え、なんですか? オシャレなんてしてない……ですけど……?」
アカリさん無言! その代わり、めっちゃニヤニヤして見てくるし……。
「灯さん、どうしたの? 大きな声を出して何かあったのかしら?」
都が不思議そうな顔をして近寄ってきた。バディのハルルも一緒だ。都&ハルルペアとは別レッスンが多いので、数日ぶりに顔を合わせたかもしれない。
「ハルル、こんにちは。なんか1年ぐらい会ってない気がするよ」
「カエデさ~ん、おひさ~。聞いてよ! ミャコさんってばひどいのよ。さっき食べてたパンの袋についてるシールちょうだいねって言っておいたのに、今聞いたらはがさずに捨てたって! 私のお皿~」
ハルルマジ泣きです……。都ってば極悪人。
「かわいそうに……。都はひどいね。都はいますぐパンを買い占めて、30点貯めてお皿を交換してくるべき!」
「ハーちゃん、よしよし。アカリもポイント集め協力するから泣かないで♪」
「これは……私が悪い流れなの?」
ふむふむ、都が困っているな。しっかり者のマネージャーの都がおろおろしているのを見ると、なんていうか……潤うね。
「はるさん、これ、良かったらどうぞ」
レイが2点のシールをハルルの手に握らせる。
「え、レイさんこれ……いいの?」
「ええ、さっき食べた袋からなんとなくはがして持っていただけですから」
あれ? それってもしかして、さっきボクがあげたやつで、レイもポイント集めてるんじゃ?
と、声に出す前に、視線で制止されてしまった。
レイ……やさしいね。あとで100個パン買ってシール渡すね……。
「ありがとう! これであと4点まできたわ!」
「ごめんね、春さん。そんなに本気で集めているって知らなくて」
「いいよ~。大げさに泣いたりして私こそごめんなさい」
「ハーちゃんもミャコちゃんも仲良しさんね♪」
アカリさんが2人のほっぺたをプニプニしている。仲良しで良き良き。
「というわけで、みんな、本題に入ろ♪」
アカリさんが手を振ってみんなの注目を集める。
「本題って何かしら?」
都が不思議そうな顔をしている。ボクもほかのみんなも同じだ。
「だから~、カエちゃんがオシャレしてきてるの♪」
「え、その話まだ続いてたの⁉」
ボク、いつものジャージだし、オシャレしてないです。
「あ、ホントね! うんうん、カエデさんすっごく良いと思う!」
ハルルがうれしそうに背中をバンバン叩いてくる。いや、意味が分からないし痛いんですけど。
「ああ、そういうことなの。楓がね……とうとう大人になったのね」
都がハンカチで目元をぬぐう。いや、なんで泣くの……。
「ね~♪ カエちゃ~ん、宇宙一かわいいよ~♪ ねえ、ちょっとだから、ちょっとだけでいいから、アカリお姉ちゃんにどんなのか見せてごらん……ハァハァ」
アカリさん、目が怖い。いやホント何⁉
「は~い、では失礼しま~~~す♪」
あっ。
アカリさんの手によって、ボクのジャージのファスナーが一気に下ろされてしまった。
「きゃ~オシャレ~♪」
「ちょっ、何するんですか!」
ボクは慌ててファスナーを引き上げる。
びっくりしたわ。オシャレって下着のこと……。えっ、なんで服の上からわかったの⁉
「楓が下着に気を遣うようになるんて。ここまで育てた甲斐があったわね……」
都がよよよ、と時代劇みたいな泣き真似をしている。育てられてないし。なぜにおかんムーブ……。
「カエデさん、そのブラ、とってもかわいいけど、急にどうしたのかな~?」
ハルルが後ろから肩を揉んでくる。見ればめっちゃニヤニヤ顔。いや、ちょっとゲスい顔だ。
「別に……何にもないですけど……」
ちらりとレイのほうを見やる。
助けて……あー、出たー。出てしまってるー。後方カレシ面のレイさん!
「え、やだ~。2人ってそういう関係なの⁉ いつから? ねえ、いつからなの⁉ 教えなさいよ!」
ハルル、首が……首が締まってる、から……。興奮しすぎて首絞めないで……。
「そんな~わたしたちはみなさんが思っているような関係じゃないですよぅ。困っちゃいますね? ね?」
レイの顔がニヤけすぎて作画崩壊を始めている。……それ困ってる人の顔じゃないですよぅ?
「何が困っちゃうんですか~。私も混ぜてくださいよ~」
うわー。ここでメイメイ登場か! タイミング良すぎか! って、アカリさんの手には端末が握られている……。あなた、さてはメイメイを呼びましたね?
「んふふっ、聞いて聞いて♪ カエちゃんがね~。下着をね~」
「あーもう、その話は大丈夫だから! メイメイ! もうレッスン始まるから柔軟しなきゃ!」
「なんですか~。私だけ仲間外れにしないでください~。アカリちゃん、ハルちゃん助けて~」
抵抗するメイメイの背中を押して、急いでこの場から離れる! これが正解だ!
「楓、せっかくオシャレしてきたんだから、早月さんにも見せてあげたらいいじゃない。それ~!」
都の手によって、ジャージのファスナーが下がり、再びボクのブラが御開帳!
ちょ、おまっ。まじめリーダーの都に裏切られるとは……。
「カエくん! そのブランド私も好きですよ~。う~新色かわいいです~。ところで急にどうしたんですか~?」
「え、あの、それはえっと……」
見られてしまったよ。
そうか、メイメイもこのブラを着けているのか……ふむ……ダメダメダメ想像しちゃダメ色即是空……心を石に……。ボクは貝になりたい。
「わたしが! わたし、仙川零がプレゼントしたんですよぅ」
ここぞとばかりにレイが声を張って前に出てくる。
名乗りを上げるんじゃない! ややこしくなるから……。
「レイちゃん! ずるいです~!」
「あ、いや、これは汗をかいて着替えを、たまたまこれがあって、その……」
「私も新色ほしいです~」
ああ、そっち⁉ そっちね⁉
って、おそ、おそ、おそろいっ! おおーん、ちょっと熱出てきた……。
「ふぅ……張り合いのない人ですね、さつきさん……」
「んふふっ、レイちゃんドンマイドンマイ♪」
「余計なお世話です」
ニヤニヤ顔でなぐさめるアカリさんを押しやり、レイはぷいっとそっぽを向いて歩いて行ってしまった。
「あ~も~、レイちゃんレイちゃん!」
メイメイが追いかけていく。
なんだかんだで2人は仲良くなってきているね。うれしいけれど、うーん、なぜかちょっと複雑。
「大丈夫なの、あの2人?」
心配そうに見つめる都。ややこしくしたのはあなたですよ……。
「それ、かなり盛れてるのに自然でいいね。私にもブランド名を教えて……」
ハルル、小声で耳打ちしてこないで……。いや、そんなのボクも知らないから。




