第44話 『残念! 彼氏がいます作戦』とか?
「私、3つ目の『ファンの人たちを安心させる』方法、ちょっと思いついたかも!」
ハルルが自信ありげな笑顔でそう宣言した。
これは期待できる、のかな?
「よし、じゃあハルルの作戦を聞いてみましょう」
「春ちゃん大明神様! とっておきの作戦をお授けください!」
MINAさんがハルルに向かって拝むように手をこすり合わせている。なんかどこかちょっと楽しげなのは何でなの?
「私の考えた作戦は『清廉潔白! だってその時間、私にはアリバイがあるもの』作戦です!」
ハルルはまるでゴールを決めたサッカー選手のように、天に向かって高々と人差し指を掲げた。
なんかそれっぽい作戦タイトルつけてきたぞ……作戦……ホワイトボード……うっ、頭が。
「そのアリバイ作戦、具体的に聞かせてくれる?」
「MINAさんはプライベートの写真をSNSにアップされて、困っているのよね?」
「そうね。そのプライベート写真を使って、『#一緒にデート』『#2人のお気に入りの場所』みたいな投稿をされてしまって……」
隠し撮り写真を投稿されるだけならまだ……。寮に住んでいれば実質無傷だから……。
「ないはずの『におわせ投稿』は厄介だねえ」
「そうなのよ……。写っているのは紛れもなく私だし、その時間に出かけたり、そこで買い物したりしているのも事実だし……。でもその子とは一緒に行っていないし」
うーん。
事実が多分に含まれている場合、反証を出しづらい。
「たとえばその時の別角度の写真や、一緒に出かけた人がいたりしないの?」
「あー、たしかにそれが出せれば、『その子さんと一緒にいた』という部分だけは否定できるよね」
ハルル、なかなか冴えてるじゃないの!
「私、プライベートであまり写真撮らないのよね」
MINAさんがため息をつく。
それだと真相を伝えるのが難しそう……。あれ? さっきボクのリス写真(?)を連写していたのはなんだったんだ⁉
「一緒に行った人が撮っていたりはしないのかしら?」
「それだ!」
「残念ながら……私とデートしてくれる人は楓ちゃんくらいしかいないのよね」
「言い方ー! 今日もデートじゃないし」
MINAさんのほうが、誤解を招くような発言で勘違いさせたのかもしれないって疑いだしてきましたよ⁉
「わ、私も! カエデちゃんとしかデートしたことありませんしっ!」
いや、ハルルさんや、それは何の対抗なのよ。
あなたダーリングさんとデートしてたでしょうに。まあ、あれも広い意味ではボクだったけどさ。
「ちょっと話を戻すよ! 隠し撮りされた時の別写真は撮ってない。ほかに一緒に行った人もいないから援護射撃してくれそうな人もいない、で合っている?」
「合っているわ」
「はい、アリバイ作戦終了!」
白旗です!
アリバイを提出するのは無理無理の無理!
「う~、良い作戦だと思ったのにな~」
ハルルが悔しそうな表情を見せる。
「いや、普通に冴えた作戦だったと思うよ。MINAさんがボッチじゃなきゃね……」
人気モデル、意外と淋しいプライベートを送っていることが発覚する。
このネタ週刊誌に売るか。スキャンダルじゃないから売れないか……。
「ボッチって失礼ね。友だちを選んでいるだけです!」
「友だちを選ぶ! 良い表現ね!」
ハルル、その言葉はメモらなくて良いから。たぶんあんまり使いどころないからね?
「ちょっと! たくさんご馳走してるんだから、楓ちゃんもなんか作戦考えてよね?」
おっと、痛いところをつかれてしまったな。
たしかに、奢られまくってる手前、ボクも爪痕を残さなければ……。何が考えられるかなあ。
「うーん。たとえば……『実はMINAの双子NINAです作戦』とか……『残念! 彼氏がいます作戦』とか……『クラスメイトがふざけて投稿しましたごめんなさい作戦』とか……うーん」
あんまり思いつかないなあ。
「どれも微妙そうだけど一応聞いておこうかな……」
MINAさんが興味なさそうにコーヒーを飲んでいる。
ファーストインプレッションがあまりよろしくない様子! 見てろよー! 適当に考えた作戦内容を発表してやるわ!
「えっとね、『双子作戦』は、コスプレしたレイと並んでショッピングしている写真を撮ったりして、『あの時の写真は、私ではなくて妹のNINAですよー』というアリバイを作っていく作戦だよ」
ちなみに妹のNINAさんがその子さんと仲が良い設定にするということで。
「ふーん? それで次の『彼氏がいます作戦は』?」
「え、質問なし? えっと『彼氏がいます作戦は』その作戦名の通りで、『実は生まれた時からの幼馴染みの許嫁がいるからその子さんとは付き合っていません』という宣言を……」
「却下ね」
「ですよねー。許嫁はダメですよねー」
あっさりダメだったか……。
その子さんとの問題を解消するために余計な火種を生んでしまうリスクはあるもんね。
「じゃあ最後の『クラスメイトがふざけて投稿しました作戦』は、思い切って『その子さんとクラスメイトだ』という事実を公表してしまう。なんならボクもクラスメイトとして登場しても良いよ」
「なるほど、それで?」
お、ちょっと興味持った?
「クラスメイトがちょっとふざけて写真を投稿してるうちに、『調子に乗って気が大きくなった発言をしてしまいました。ごめんなさい』と、わりと事実に近い形で謝罪してもらうって感じかな」
「なんだかそれだと、事務所やMINAさん本人が弁明するのとそんなに違いがないように聞こえるけど……」
と、否定的なツッコミを入れてくるハルル。
「それは認識が違うよ? 公式の発表と、あくまでプライベートな学校の関係者が行き過ぎた行動をしてしまったことの報告では天と地ほどの違いがある」
「たしかにそうね。今回の問題が私のプライベートのトラブルとして片づけられれば大事にはならないと思う」
「なるほど! そういうことなのね!」
MINAさんの補足説明を聞いて、ハルルもようやく理解できたらしい。
「まあ、この作戦は『身バレの危険性が増す』というところと、その子さんが完璧に納得して、『今後は二度とこういった行動を起こさないようにする』という2つのポイントを押さえなければいけないので難易度は高めなんだよね」
果たして計画通りに全部うまくいくかなあ。
「でも私、普通に学校の制服のまま写真撮ってSNSにアップもするし、学校名はWikipediaに載ってるわよ」
「マジで? それって大丈夫なの?」
「私立だから平気かなって。それに女子高だし」
「それもそうかあ。ボクたちのほうがそこに過剰なケアをしているのかもしれないね……」
「そうなると、その子さんとの話し合いだけが問題ということかしらね?」
ハルルが確認する。
「おそらくそう、かな。だけど、その前に前提としての確認が必要そう。MINAさんはこの作戦をこのまま進めたとして、うまくいくと思う?」
こういうのは本人のやる気が成否を左右する。本気かやらされかでぜんぜん違う結果になってしまうものなのだ。
「私は良いと思うわ。その子とはちゃんと話をしたいと思っていたし」
やる気ヨシ。
「OK。それならボク……とハルルも同席する、よね?」
念のためハルルの意思を確認。
ハルルが小さく頷いて了承の意思を見せた。
「じゃあ4人で話し合いをする場を設けましょうかね」
このままストーカー事件を解決にまで持っていっちゃおう!




