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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第五章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #1~#2編

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第31話 定期公演#1 その5~ミュージカル:メイプルの冒険

『メイプルの冒険~出会い編~』


 舞台の幕が上がる。

 夜の噴水前、メイメイちゃんのアカペラから始まるオリジナルのミュージカルだ。


 名曲『ありのままで』のBメロからサビへ。

 会場はメイメイちゃんの歌以外まったくの無音。誰も言葉を発さず、ただその姿を見つめ、美声に酔いしれている。


 それは陰に潜んでいるボク、メープルちゃんも同じだ。息を潜め、その歌声に聞き入っている。

 歌声。その表情。すべてが美しい。


「そこに誰かいるの⁉」


 歌を中断してメイメイちゃんが振り返る。


「すみません! 怪しい者ではございません!」


 ボクは物陰から転がり出る。


「私は~怪しい者ではありません~♪ ただあなたの歌声が美しく~少しでも近くで聞きたかった~♪」


 ボクの歌。若干声が上擦る。


 会場からクスクスと笑い声が漏れてくる。

 そ、想定通り! あえて下手にね? あえてだよ!


「あら、まあ……」


「いけないとは知りつつも、この柵を超えて……」


「かわいい侵入者さんですこと。今宵は~満月~♪ もう少しだけ~歌いたい~の~♪ 良かったら聞いていってくださいませんか?」


 メイメイちゃんが歌いながら立ち上がる。


「ぜひ! あなたの歌声をもっと聞きたい!」


 ボクの懇願に、メイメイちゃんが小さく頷いて応える。


 メイメイちゃんは目を閉じ、胸の前で手を組むと、静かに歌いだした。

 1stシングルのカップリング曲『ある初夏の日の出来事』だ。


------------------------------

 ずっと1人 歩いてきた

 孤独を感じたことはない

 気づけば こよみでは初夏の日

 でもまだ少し 肌寒いね


 隣には誰もいない。ずっと1人でいることが当たり前だった。

 自分自身が孤独であることさえ気づかない。

 でもそこに憂いはない。ただ無感情。悲しみなど感じたことはない。

------------------------------


 初夏の楽しい出来事を歌っているはずなのに、序盤はどこか物悲しいストーリーだ。それに今日は周りにほかの4人がいない。それがより淋しさを加速させているように感じる。

 だけどメイメイの歌声はいつもよりも力強く、孤独な状況に対しての悲しみは感じられない。



* * *


 メイメイちゃんの歌が終わる。

 拍手。観客からも惜しみない拍手が送られる。

 その拍手が鳴りやむのを待ってから、ボクはお礼を言った。


「ありがとうございます。こんな怪しいボクを通報せずに、美しい歌まで聞かせてくださって」


「こちらこそ歌を聞いてくださってありがとうございます。私はいつも1人。誰に聞かせるわけでもなく、夜な夜な寝室を抜け出しては小鳥たちと歌っていただけ。今夜はとても刺激的な夜でした」


「それではボクはこれで」


 立ち上がり一礼。ボクはすぐに柵のほうへと歩き出す。


「待ってください! 歌の感想を。人に聞かせたのは初めてですの。良かったところと悪かったところをぜひ、感想をお聞かせ願いたいです」


 その言葉に足を止めて振り返る。大きく息を吸ってからボクは歌いだす。


「あなたの声質は~うつく~しい~。これまでに~出会った~誰~よりも~。天性の才能だ~」


 ボクは歌を止め、立ち止まる。


「あなたの声帯は歌うためにあると言っても良い。脳に響いてくる心地よさ、1/fの揺らぎを感じます。ずっと聞いていたい。録音して毎日寝る前に聞きたい……ボクは今どうして録音機材を持っていないんだ! ああクソッ!」


 膝を叩いて悔しがる。大げさに。舞台上を転がって悔しがる。

 客席からはクスクスと小さな笑いが起こった。


「あ、えっと……ありがとうございます。そんなに評価してくださってうれしいです」


「ですが、あなたは才能に頼りすぎだ! ボイストレーニングがまるで足りていない。音域が狭い。低音はほとんど出ていないし、高音もブレブレです。才能はあるのにもったいない!」


 ボクは立ち上がり、メイメイちゃんに激しく詰め寄っていく。


「私……そんなにダメですか……」


 メイメイちゃんが泣きそうな顔で尋ねる。


「いいえ~、むしろポテンシャルの塊~だ~。こんなに~大きなお屋敷のご令嬢~。高くて立派な~ボイストレーナーを雇い~なさい~」


「えっと、えっと?」


「まずはボイストレーニングが何よりも必要です。それとどんな歌を歌っていくかをプロデュースする者、今後の売り出し方について戦略を立てるマネージメントをする者がいると良いでしょう。そうすれば、あなたが世界の歌姫となるのも夢ではない!」


 メイメイちゃんの手を握り、いかに未来が明るいか熱弁する。


「私が世界の歌姫に⁉」


「今夜はステキな歌をありがとうございました。それでは失礼します」


 ボクは早口でアドバイスを言い残すと足早に立ち去る。


「お待ちになって!」


「なんでしょう? お望みの通り、感想は述べましたが」


「私はただここで夜な夜な歌っていればそれで満足でした。ですが、あなたの話を聞いて、少し欲が出てきてしまいました」


「欲、ですか?」


「私は~もっと~歌がうたいた~いのです~。たくさんの~人に聞いて~ほしいと~思ってしまったのです~。なんて欲深い~のかしら~」


「それは~とても~良いこ~とだ~。あなたの~才能をもってすれば~、多く~の人に~感動を~与え~られる~のだから~」


 そうだ。

 その欲は持って当然の欲。夢ではなく、少しの努力で届くものだ。


「でもそれは……私1人ではできそうにもないです……」


「ですからボイストレーナーとプロデューサーとマネージャーを――」


 才能は十分だ。あとは適切な努力をするだけだから。


「あなた! 私はあなたが良いです!」


「はい?」


「私のマネージャーさんになってください!」


 メイメイちゃんがボクに向かって手を差し出す。


「それはできません。あなたとボクでは身分が違いすぎます」


「いいえ、私はあなたが良いのです」


 メイメイちゃんが目を輝かせて頼み込んでくる。

 ボクはあごに手を当てて思案する。


 観客たちの目が、ボクの次の言葉に注目しているのを感じる。

 

 少しの間を置く。


 それから遠慮がちにメイメイちゃんの手を取った。


「わかりました。お引き受けしましょう」


「ありがとうございます。私のマネージャーさん」


「ボクがマネージャーになったからには、ビシバシいきます。24時間スケジュールを管理します。一緒に世界を目指しましょう」


「え、ちょっと? 世界⁉ えっと……」


 戸惑うメイメイちゃん。

 笑顔全開のメープルちゃん。


「さあ~、なによりも~睡眠で~す。こんな~時間に~起きていてはいけない! 毎日~20時には~就寝してもらいま~す」


「え⁉ それだと晩餐会に出られな、キャッ」


 ボクはメイメイちゃんをお姫様抱っこし、城に向かって歩き出す。

 若干の悲鳴と、拍手。そして、「いけいけ」という指笛。


「早く寝室へ。子守歌を歌ってあげましょう」


「子守歌! 私初めてです~」


------------------------------

ねんねん ころりよ おころりよ

キミはボクの 腕の中

今日も姫は 眠りつく

夢の中でも Sing a Song!

------------------------------


 レイが一生懸命考えてくれた歌詞。

 とってもステキなんだけど、何度歌っても子守歌には思えない……。

 Sing a Song!


 ボクの1サビのソロの時点でもうこの時点で笑われちゃってるからね。


------------------------------

ねんねん ころりよ おころりよ

私はベッドで あなた待つ

添い寝を期待し あなた待つ

あなたは視線に 気づかない

------------------------------


 メイメイちゃんのソロパート。

 切ない片想いを綴った歌詞だ。


 思わず観客たちからため息が漏れる。


 最後はボク、メープルちゃんのソロパート。

 メイメイの美しい歌声に負けないように……邪魔しないように……。


 だんだんと舞台の照明が絞られていく。


------------------------------

ねんねん ころりよ おころりよ

できることなら この腕に

抱きしめてしまいたいと妄想す

けれどもそれは 叶わぬ夢 


キミが眠るの じっと待つ

ボクの愛しい お姫様


ねんねん ころりよ おころりよ

ボクの愛しい お姫様

------------------------------


 ボクの愛しいお姫様。


 ああ、この楽しいひと時も、もう終わってしまうね。

 キミの美しさ、そして気高さが1人でも多くの人に伝わりますように。 


 ボクの愛しいお姫様。


 Fin.


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