第21話 ハッピーバレンタインだよ生配信 その5~バッチコーイ犬
「じゃあ、次はそこのニヤニヤエルフ、ナギチ行ってみよう!」
さてさて、他人のことを笑っている余裕はあるのかな?
一発すごいのをかましてくださいよね!
「え~私~? どうしよっかな~♡」
「それではナギチ選手棄権、と」
「わ~わ~! やりますやります~! カエちゃんひどい~♡」
怒る振りしながら、さりげなく鎖骨から服の中に手を入れようとしてくるんじゃない。バレンタイン用のふわふわのドレスなんだから破れたら困るでしょ!
そういうのはいいから早く自分の席に着きなさい!
「はい。ナギチ選手、準備は良いですか? 単語カードを配りますよー」
「ワンナウワンナウ! バッチコーイ!」
野球の内野手か。
“渚やる気に満ち溢れてるw”
“これは期待できますね(悪い方向に)”
“放送事故だけはやめてくださいよw”
“ピッチャービビってるー”
“楓のスルースキルwww”
“ナギチにだけやたらと塩対応なのなw”
“普段からあの調子らしいw”
“キャラ変してからのキャラがなw”
“前どんなだったか忘れたわ”
意外と、って言ったら失礼なんだけど、ナギチは愛されキャラで人気があるよね。ファンからのいじられキャラという意味では、前のエセ大阪弁キャラの時と実はあまり変わっていない。本人が楽しそうで、ファンからも受け入れられてるならキャラ変も良かったってことだよね。
「はーい。じゃあ20秒始めますよ! よーいスタート!」
合図とともにナギチが単語カードを捲っていく。最後のカードを捲り終えた直後、手の動きが止まった。
あー、これはきついですね。難易度高いカードが入ってるわー。これどう処理するんだろ……。お手並み拝見ですわ。
悩んでる悩んでる。
どうするナギチー。そのワードをどこにくっつけるかですべてが決まる⁉
「はい、そこまで! ナギチ選手、張り切って告白をどうぞ!」
「よろしくお願いします!」
サクにゃんは準備万端。
ナギチは……表情が暗い。やはり難しかったか。
「よ~し、いっちゃうわよ! サクにゃん、覚悟は良い⁉」
「は、はい! バッチコーイです!」
何、研究チームで野球流行ってるの?
「よろしい。それではオホン。……『君は』『僕だけの』『女神』」
おお、出だしいいよいいよー。
「『僕は』『君にとって』『命よりも大切な』『犬』『なんちゃって』」
はい。犬。
出ました。
「『胸』『が』『はち切れそうさ』『サクラ、愛してる。ハッピーバレンタイン』」
----------------------
君は僕だけの女神
僕は君にとって命よりも大切な犬 なんちゃって
胸がはち切れそうさ
サクラ、愛してる。ハッピーバレンタイン
----------------------
うん、まあがんばったけど……どうしてそれで最後ドヤ顔できるのか。
メンタル弱いくせにメンタル強いな!
“いぬwww”
“命よりも大切な犬w”
“女神のところまでで終わってたw”
“なんちゃって”
“これはもうカードが悪いだろw”
“犬は無理w”
“笑いの神降臨www”
「ありがとうございます!」
サクにゃんは今度も迷うことなく指輪を受け取った。受け取った⁉
「なんとサクにゃんが犬から指輪を受け取りましたよ⁉」
「犬って言うな!」
「でも犬じゃん……」
「命よりも大切な犬ですぅ!」
ええ、こだわるところ、そこなの⁉ やっぱりナギチのことはわっかんないなー。
「えー、サクにゃんにお伺いしましょう。どの辺りが告白をOKしたポイントでしたか⁉」
とりあえず全員受け取る作戦とかダメだからね!
「えっと、熱意が伝わってきたというか……サクラ、ワンちゃんも飼ってみたいなって思いました!」
「なるほど! サクにゃんは犬を飼ってみたかったんだ! それならしかたない! ナギチ犬は世話も大変だと思いますが、ぜひ飼ってやってください!」
「カエちゃんのおうちで飼われたい♡」
「あ、うちは寮なのでペット禁止です」
「サクラのところも同じ系列の寮なので……」
「サクにゃん……うちでは飼えないから元のところに捨ててらっしゃい」
「くぅん♡」
ナギチ、捨てられてうれしそうにするんじゃない。
“ではうちで引き取ろう”
“おまわりさんこいつです”
“ナギチは新たなキャラ「犬」を手に入れたw”
“言われてみればもともと犬みたいなものだなwww”
“納得w”
なんだ、怪我の功名か。
みんなナギチのことを犬っぽいと思っていたようだ。良かったね。次回からは犬耳をつけて登場かな?
「それじゃあ次はハルル、行ってみようか!」
「ナギサのあとってやりにくいわ……」
ハルルが小さくため息をつく。
ホントにね。ナギチっていつも場を荒らしていくよね……。
「ハルルは犬を引かないように気をつけてくださいねー」
いや、でもハルルも犬タイプか。ナギチとは違って忠犬だね。でもウレションしちゃうタイプの。
「さあ、張り切って始めましょう! スタート!」
ハルルが配られた6枚の単語カードを捲っていく。
速攻で頭を抱えるハルル。
あー、っとこれは! さすがの引きの強さだー! このカードを引いた時点で優勝か⁉




