第16話 私たちは、あの日から変わらず元気です
「どうしたの、メイメイ。今日はずっと動きが硬いよ?」
ダンスレッスンの休憩中、メイメイにそっと声をかける。
どこか集中していないようだし、動きがぎこちない。何か心配事があるなら、何でも聞くから相談してほしい。
「カエくん……。ごめんなさい。なんだか練習に身が入らなくて……」
図星を突かれたことでメイメイはますますシュンとしてしまった。
「怒っているんじゃないからね。心配なんだよ」
「はい……」
ああ! 余計に委縮させてしまった……。
「ほ、ほら! 定期公演の日程も決まったし、もう一度準備もし直さないとね?」
無観客になったことで、演出の見直しも必要なんだろうか。その辺りはマキに聞いてみないとダメかなあ。
舞台全体を見渡すというより、おそらくピンポイントで表情を抜かれたりするカメラワークになるはず。きっと何か重要所が変わってきそうだよね。
「SNSあんまり楽しくないです……」
SNSか……。
メイメイのフォロワーもほかのメンバー同様に10万人に届こうかというところまで来ている。これまでとは比べ物にならないほどの急激な伸びだ。
景色の写真でもポストしようものなら、数千件のファボやリポスト、数百件のコメントがすぐにつく状態。どう見ても大人気アイドルのアカウント……なんだけど。
「いつもコメントくれてた人たちのコメント、簡単には見つからないもんね……」
古参のファンたち、といってもいいだろうか。ずっとデビュー前から見守ってくれていた彼らとの距離が開いてしまった。なんだがそう感じる。
きっと彼らの側も同じように感じているのではないだろうか。それってすごく悲しいことなんだと思う。
一気に注目が集まったのはとてもうれしい。
だけど、今集まってくれた人たちの熱は冷めやすいのだろう。きっとそのほとんどはすぐに去っていってしまうだろう。
このまま何もしないでいたらプラスマイナスゼロで終えられるか?
まさか……そんなことはない。
古参のファンたちとの距離感も失い、新規のファンも獲得できない。それが最悪のシナリオとして想定される。何かをしなければすべて失ってしまう。そんな岐路にボクたちは立たされている。
それは嫌だ。
「あのね、メイメイ。事務所の方針で個別のレスは禁止されてしまったけどさ、まだやれることはあるかなって思ってるんだけど」
みんなに聞かれないように内緒話。
メイメイを手招きする。
「なんですか~?」
顔を寄せ合ってコソコソと。メイメイの透き通るようなささやき声がボクの耳をくすぐる。
もしかして、この声を収録して売るだけで一生暮らしていけるのでは?
メイメイの声は日本の宝だよね。
という話は今じゃなくて良いんだよ!
「えっとね。匂わせポストしてみない?」
「匂わせですか?」
メイメイが小首をかしげる。
あまりピンと来ていない様子だ。
「そう、匂わせだよ。サクにゃんとウーミーも使ってた手法だよ。特定の誰かにだけ気づけるようにヒントを入れたポストをするの」
「私とカエくんでですか?」
「なんでよ。ボクたちで私信を送り合っても仕方ないでしょ。メイメイから古参のファンたちに、だよ」
「私からファンの人たちに?」
私は変わっていないよ。
あなたたちのことを忘れてなんていない。
あの時は楽しかったね。
大好きなみんなに私を見てほしい。
私たちはいつまでもずっと一緒だよ。
「世界は変わってしまったけれど、メイメイ自身は変わっていない。みんなと気持ちは1つなんだって、発信し続けよう」
「みんなと気持ちは1つ……」
メイメイがその言葉を噛みしめるようにつぶやく。
「たとえばどんなことをしたら良いのかな……」
「そうだねー。カメラロールを古いものから眺めてみようよ。ボクも自分のを見てみるね」
何かないか。
ファンに伝わるメッセージになりそうなもの……。
「メイメイ、それは違う……」
お気に入りのスイーツ特集の写真ではたぶん伝わらないよ。
「え~、じゃあこれはどうですか~?」
メイメイが見せてきた1枚の写真。
SNSアカウントを開始して初めての投稿で使用した時のメイメイとボクのツーショット写真。その別バージョンだった。
「SNSデビューの日の……ああ、良いんじゃないかな」
今のボクたちみたいに難しい顔をしていない2人。1stシングルの衣装を着て、ちょっと緊張していて、どこか恥ずかしそうで、でもとても楽しそうな2人が写っていた。
「投稿のメッセージは……『私たちは、あの日から変わらず元気です』」
メイメイがメッセージ付きで写真をポストする。
瞬く間に閲覧数が伸び、ファボ、リポスト、コメントが増えていく。
大好きなキミたちに、メッセージよ届け――。




