第25話 メイメイ本題に入る
「ごめん、なんだって? ちょっとよく理解できなかったんだけど……」
「だ~か~ら~昨日の夜、アカリちゃんとウタちゃんがキスしてたんです!!」
いや、もう一度聞いても何言ってるのか理解できないんですけれども………。
ええーそんなことある?
バディの2人がききききキスだと……。
「あーあれだ、目にゴミが入ったからとっていたんだよー的な。メイメイはマンガの読みすぎだよ、まったくもう」
「私、視力良いんですよ~。この目でばっちり見ちゃいました!」
指でメガネの形を作って、私見ましたポーズ。
尊い。心のブロマイドに保存した。
「うーん、ちょっと詳しく教えて?」
「はい~。昨日の夜、大浴場に行った後、ちょ~っと甘い物でも食べたいな~って気分になって、2階の食堂に行こうと思ったんですよ~」
「あ、こら。食事の後の甘い物は控えなさいってあれほど!」
「まあまあまあ! 今はそんな細かいことよりもですよ~!」
細かくないんだけどなあ。
「下に降りるエレベーターの中で、大浴場にヘアゴムを忘れてきちゃったことに気づいたんです。それで慌てて途中の階で降りようと、片っ端からボタン連打をしたんですよ~」
「うわー迷惑な人だなあ」
「緊急事態なのでセーフです~」
「ほんとに緊急事態かな、それ……」
「それで! 何階だったか忘れましたけど、10階か11階かそのあたりで扉が開いたんですよ~」
「おお、まさかそこで2人がキスを⁉」
エレベーターホールでキスとは、なかなか大胆ですなあ。
「いいえ、花ちゃんがちょうど乗ってきました」
ちがうんかーい。
「それでエレベーターのボタン押しまくってるを見て、めっちゃ怒られちゃって……かなしかったです~」
「……何の話?」
「それで、怒られている間に2階についてしまって、仕方がないので降りてからまた上りのエレベーターに乗りなおして大浴場まで行ったんですよ~」
まさか大浴場で⁉
「無事、大浴場の洗面台の前にヘアゴムがあったので良かったです~」
うんうん、それは良かった。それで?
「それで~もうそのまま部屋に帰ろうかな~って思って、私の部屋は大浴場の1個下の階なので、階段で降りようとしたんですよ。そしたら!」
階段に2人が⁉ これはすごく密会っぽい!
「空調が止まっていて暑くて、やっぱりやめてエレベーターで降りちゃいました」
階段じゃないのか―い!
「メイメイ……そろそろ本題に」
「廊下は涼しいな~って思いながら部屋に帰りました」
なにごともなく帰った……だと。
「ごめん、それで……アカリさんと詩お姉ちゃんはいつ出てくるの?」
「だから~リビングで2人がキスしてたんですよ~」
「ええー、不意打ちすぎる……」
いや唐突! ここまでのくだりは何⁉
「私びっくりして! 今週はアイドルとマネージャーの部屋の行き来は禁止ですよ!って言っちゃって~」
あー大事なところそこじゃないよねー。メイメイってまじめー。
「『ごめんね、んふふ、ナイショね♪』って言いながら、アカリちゃんがウタちゃんの腰に手をまわしながら玄関のところまで送って行って~」
うわーアカリさんイケメンだー。絶対勘違いじゃないやつじゃん。
「ドアを開けたところで、ウタちゃんの耳元でアカリちゃんが何かを言って~、ウタちゃんがテレながら小さく手を振って出て行っちゃいました~」
「マジかー。これはクロだね……。メイメイさん、目の中のゴミを取っているんじゃないかなんて言ってすみませんでした!」
マジかーマジかー。
女の子同士ってそういうのあるって知識としてはあるけれど、ホントにあるんだ!
バディだからとか……いやいや、バディだからってそんなことは。
「バディ同士で恋人なんて運命っぽくて憧れちゃいます~」
えっ……えっ⁉ もしかして……!?
「メイメイは……女の子が好きだったりするの……カナ?」
ああ! 勢いで聞いてしまった!
恐る恐るメイメイのほうを見ると、ほっぺたを押さえてクネクネしている。
これはマジかー。マジなのか⁉
「女の子は好きですよ~。でも私はアイドルになりたいので、みんなの恋人になりたいな~って思ってます~」
うわーえらい! アイドルとして100点の答え!
でも演技が嘘くさいのでマイナス20点!
「……本音は?」
と、メイメイの動きが止まる。
チラッとボクのほうを見てから、大きく深呼吸。それから口を開いた。
「いつかは普通に男の子と恋愛して、かわいいお嫁さんになりたいです~」
「ふむ」
「ふむってなんですか~。まじめに言ったのにひどいです~。言わせたのはカエくんですよ~」
ふむ。
将来の夢はノーマルだったのでひとまず安心……か?
「それにしても、アカリさんと詩お姉ちゃんはキスするほどの仲なのかー。これって放っておいて大丈夫な問題なのかな」
「どうでしょう……。でもアカリちゃんは普段すっごく女の子っぽいので、ウタちゃんと一緒にいるときの態度は、まるで男の子みたいで正直意外でした~」
「あー、さっきの話の雰囲気だと、アカリさんが……その……リードしている、みたいな感じなのかな」
甘ロリ攻めのセクシーお姉さん受けとは……。ぜんぜんノーマークの領域だけど……ふむ、推せるな。ありよりのあり……。
「カエくんがなんかいやらしい顔してます……。もしかして、カエくんはアカリちゃんのこと好きなんですか?」
メイメイ、その指メガネで覗くのやめなさい! そのポーズ気に入っちゃったんだね。
「何でそうなるのさ⁉」
「カエくんって、いつも誘われ待ちしてるから、もしかしてそうなのかな~って」
「え、ボクってメイメイからはそういうふうに見えてるの⁉」
思い返してみれば……あれも、これも、流されているのか……ああっ!
ボクってそんなに受け身な人間だったっけ。
でもそうなのかな……意識していなかったけれど、そうなのかもしれないな。
「でもいいと思いますよ~。カエくんがぐいぐいきたらちょっと苦手かもです~。ちっちゃくってかわいいから、こうやって撫でまわしたいですし」
ちょい! やめ……なくてもいいです……。複雑。
「ほら~。なでなですると、すぐにおとなしくなるのが、とってもかわいいです~」
「かわいいって……ありがと……。でも! 今はそうじゃなくて、2人のことを!」
一瞬メイメイの拘束が緩んだ瞬間を見計らって距離をとる。
ふぅ、なんとか致命傷で済んだわ……。
「そうですね~。調査が必要ですね!」
「尾行して情報を集めないとね!」
ノリノリだ! だって2人の関係をもっと詳しく知りたいじゃん!
「メイカエ探偵団結成です~!」
「おー! 調べるぞー!」
と、盛り上がっていたその時、突然レコーディング室の扉が勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらいました。わたしも参加させてもらいます」
ババーン。逆光で仁王立ちのレイさん登場!
「レイちゃん! う~ん、いいでしょう! メイカエレイ探偵団結成です~!」
こぶしを突き上げてノリノリのメイメイ。
ええー。ここ防音のレコーディング室なんですけど……。




