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第13話 マキししょーの虎の巻はもうない?

「ねえ、ハルちゃんは舞台挨拶の話をSNSに投稿したりしないの?」


 福岡空港への移動するためのタクシーの中、マキがスマホをポチポチいじりながら、ハルルに話しかける。


「え?」


「だってさ~。この2日間、ハルちゃんが携帯開いているの見てないわけよ。もしかしておうちに忘れてきた?」


 さすがマキ。鋭い……。


「あ、えっと……その……」


 ハルルが言い淀む。コメカミから冷や汗が一筋流れていく。


「今SNS見るの禁止なんだ。事務所から言われてて」


 代わりにボクが答えておく。

 

「この2日間は映画の仕事に集中しなさいってさ」


「オハナはよくわかっているな。それが正しいと思うぞ!」


 タクシーの助手席から、洋子ちゃんが強めの口調で口を挟んできた。


 集中しろ。

 確かに花さんの指示はその通りだとは思う。

 世間はボクたちに対して同情的ではある。けれど、たくさんの人の目に触れることになった以上、そのすべてが温かい目線というわけではない。厳しい口調の人、ボクたちの責任を問う人、そもそもアイドルの是非を問う人。世の中は多様な考え方で満ち溢れているのだから。


「これまではファンの人数も少なかったから、1対1のコミュニケーションが保てていたんだよ。それが、突然不可能になったんだ」


『おはよう』


 たった4文字のアイサツを投稿しただけで、何万ものファボ、リポスト、そして何千ものコメントが押し寄せるようになった。

 人気が出る、売れるというのはすばらしいことだと思う。


 だけどね――。


「双方向に十分なコミュニケーションは許してもらえなくなってしまった。一方的にこちらが発信することだけ……」


 悪意のあるコメント、事実を捻じ曲げられたコメントにも反応すら許されない。それをしてしまったら間違いなく炎上してしまうから。そうなった場合、悪いのはすべてこっちになってしまうのだ。


「わたしが100日連続配信で教えたかったのは、まさにそこだったりするんだよ。や~100日経たずにこんなことになるとはね~」


 スマホから目を話すことなく、マキが渋い顔で頭を掻く。

 SNSの動向をチェック……しているのかな。


「決して善人なだけではやっていけない世界。理不尽なこともいっぱい起きる。それでも笑顔で立っていないといけない。それを知ってほしかったのよね」


 それはメイメイやハルルたちが順調にファンの人数を増やしながら学んでいくことだった。図らずも、その学習機会を逸して、ボクたちはジャンプアップしてしまったわけだ。


「世論の流れは悪くない。だけど、SNSはまた違うのよ。個人の過激な発言が許されている。そしてそれに悪意を持って同調し、悪意の流れを作ることも簡単にできてしまう……」


 マキの言いたいことはわかる。

 アイドルやタレントはSNSによって光を見ることもあるが、闇に落ちていく人も非常に多いのが事実だ。

 そして多くの場合、アイドルやタレント側の自爆……。

 そこかしこに罠が仕掛けられている。それを踏み抜かないスキルが求められる時代なのだ。


「ハルちゃんにはここで沈んでほしくない。もちろんカエデにもね。どうやって世間と戦うかはそれぞれのメンタルコントロールにも依存しているから、正解はないのが難しいところなのさ……」


「マキししょーでも、今回は虎の巻を出してはくれないの?」


「わたしもイジワルしてるわけじゃないのさ……。わたしだっていつもメンタルボロボロになりながらSNSと格闘してる。それくらい乗りこなすのが難しいじゃじゃ馬なのだよ」


 マキが小さくため息をついた。

 複数のSNSを使いながらうまく自分をプロデュースしているように見えるマキでさえも、ボロボロになるのか……。どうしたものかな。


「SNSをやめてしまう、というのはどうなんでしょうか?」


 ハルルが恐る恐ると言った口調で尋ねてくる。


「良いと思うよ~。できるならそれが正解に一番近い! できるならね」


「できるなら、か。無理な話だよね。ボクたちの活動の主戦場はSNSだもん。動画しかり、ポストしかり。それらをまったくやらずにファンと対話する方法なんて……。何も意見を示さずにいたらやられたい放題になってしまう……」


 この時代にそれを許されるのは、すでに頂点まで上り詰めた大御所か、あるいは既存コンテンツの枠にとらわれない、誰も見たことのないまったく新しい形の何かか……。


 マスマーケティングはとっくの昔に死んだ。ステルスマーケティングも死んだ。つまりマスメディアによる印象操作を許さない時代がきているわけで。何に興味を持ち、何を購買するかを選ぶのは個人の消費者が決める。


 事務所のごり押しで売れるようなアイドル、なんて存在はもう昔の話なのかもしれない。


 だけど一方で、日本人は同調圧力に極端に弱いことには変わりない。白か黒か自分では決められない。みんな周りがどう思っているか、それを知りたくて仕方がないのだ。



「私、自分の意見を述べるのも、エゴサするのも怖くて……」


 ハルルが震える声でつぶやく。


 SNSで自己主張する人の意見はとんでもなく極端なことが多い。

 もはやディベートに近いと言ってもいいかもしれない。白か黒か、はっきりと自分の立場を示した後、その答えがいかにすばらしいか、反対側の意見がどれだけ劣っているのかを繰り返し語り続ける。

 いつでもどこでも白派と黒派が戦っている。要はどちらの意見をより多く眺めるか。それによって白なのか黒なのか決められないグレーに属する人たちは、簡単に白寄りにも黒寄りにも意見を変えてしまうのだ。


 結局ところマスメディアに代わる何かが、印象を操作しているに過ぎないのかもしれないね。


「ハルちゃんはさ、エゴサをして、あることないこと書かれているのを見るのが怖い?」


「はい……」


「そりゃそうだよね~。じゃあそれについてはマキししょーが良いことを1つ教えてあげよう」


 マキが自信ありげに笑みを浮かべた。


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