第12話 大分に到着! 別府温泉!
「うわー、部屋広ーい! 窓の外も絶景じゃんかー! 別府温泉サイコー!」
ボクたちは新幹線、特急と乗り継いで、なんとか大分に到着。日は完全に落ちてしまったけれど、ギリギリ、夕飯前に旅館にチェックインできたのだった。
「星空がきれいね~。お部屋に露天風呂がついてるなんてステキ~」
ハルルもボクの横に並び、窓から顔を出して外を見ている。とってもうれしそうだ。
「だしょだしょ☆ マキちゃんセレクトでいっちゃん高い部屋を予約しちゃいました~♡」
でも4人一緒の部屋なんだよね……。プライベート空間広めなボクとしては1人1部屋が良かったな。
「おまえら~、早く荷物を片付けろ~。飯だ飯! そして酒!」
そういう洋子ちゃんは、すでに荷物整理を終えて、1人浴衣に着替え終わっていた。
「え~、私先に温泉入りたいんだけど~。ね、カエデ♡」
マキがこっちを見てくる。……見てくるなあ。……見てるだけじゃなくて服を脱がせようとするのやめて!
「ボク、お風呂には1人で入る派だから……」
「なになに? 恥ずかしいの? マキちゃんのナイスバディー見たら鼻血ブ~しちゃう?」
「鼻血ブーって……自分が昭和じゃん」
たとえがいちいち古い。
「鼻血ブ~~~ってしないなら一緒に入ろうよ~。体洗ってあげる♡」
「わわわわ私も一緒に入るわっ!」
ハルルが音速を超えたスピードでボクの肩をがっちりとつかんでくる。
「いや、ボクは1人で……」
やっぱり人に見られるのは恥ずかしいので……。
「私、知ってるのよ。カエデちゃん、レイちゃんと毎日一緒にお風呂に入ってるでしょ」
「あのおっぱいマネージャー! わたしのカエデになんてことを~!」
おっぱいマネージャーって。
レイはなんかもう……レイだからさ……。
「今日はレイちゃんがいないんだから、私と入ろ!」
ハルルさん……肩が……千切れます……。
「温泉は静かに入りたい……」
「じゃあじゃあ、3人で静かに入ろ♡」
マキ……鼻息荒い。
絶対静かに入る気ないでしょ……。
「30分で帰って来いよ~。飯に間に合わなくなるからな」
「は~い♡ 浴衣とタオルをもってレッツらご~!」
マキとハルルに両方から脇をがっちり決められて、大きな露天の温泉のほうへ連行されていく。せめて部屋のお風呂で……。
* * *
「たっだいま~! いや~、温泉堪能したわ~!」
元気いっぱいのマキが勢いよく部屋の扉を開ける。
「おう、おかえり。私もさっと部屋の露天風呂に入ったが、なかなかいいもんだな。あとで外の風呂にも行ってみるとしよう」
「外も最高よ~。カエデのお肌もつるつるだし♡」
ああ、えらい目にあったわ……。
なんで真っ裸でリアル大岡裂きに合わなきゃいけないんだ……。ほかにお客さんがいなくてホントに良かった……。見られてたらお嫁に……お婿にいけない……。
「カエデちゃんの肌もつるつるだけど、マキさんのスタイルが……どうしたらそんなに美しくなれるんですかっ⁉」
ハルルがマキに迫る。
まあ、ハルルが尋ねる気持ちもわかる。正直、マキは女優にしておくにはもったいない……いや、女優だからこそなのかもしれないけれど、一糸まとわぬマキの体はあまりにも美しく、バランスが良すぎた。胸がわりと大きいのに、体全体は細く、くびれがしっかりあって……引き締まったお尻がちょうどいい。グラビアアイドルほどの激しい主張はないけれど、確かな美がそこにはあった……。
「それは遺伝よ」
「遺伝……ですか」
マキの端的な回答に、泣きそうな顔で下を向くハルル。遺伝っすか……。そうね、ボクも20歳の体になってもマキみたいにはなれないし……くぅ、遺伝子が憎い!
「うそうそ~。バストアップの体操と、腹筋のトレーニングが大事よ♡」
ハルルのほっぺたを人差し指でくりくりと触りながら、マキがいたずらっぽく言う。
「トレーニングで行けるの⁉ 食事は⁉ 乳製品は⁉ 効果ある⁉」
レイ先生の言いつけ通り、毎日牛乳とチーズは摂取しているのですが!
「あ~うん。効果はあるんじゃないかな。食べないよりはね」
うーん。そんなもんかあ。
「でもチーズには乳腺の発達を促す効果があるらしいからね。ちなみにわたしはパルメザンチーズを毎日食べてるよ~」
「おお! ボクもだよ。なんにでも粉チーズかけて食べちゃうかも! じゃじゃーん、マイ粉チーズ!」
お気に入りの緑のボトルをカバンから取り出す。
レイの教えは正しかったのだ!
これからも毎日粉チーズ食べるぞー!
「え、ずるい! 私も粉チーズかけて食べたい!」
ハルルがうらやましそうに緑のボトルを見つめてくる。
しかたないなあ。今日は貸してあげましょう。
と、言おうとしたその時――。
「カエデ、甘いわね。わたしはこれよ!」
マキがカバンから取り出したのは小さな保冷バッグだった。そしてそこから出てきたのは――。
「そ、それは……まさか、パルミジャーノ・レッジャーノ⁉」
ボクがスーパーで買った安い粉チーズなんて目じゃない。本物のパルメザンチーズ! パルミジャーノ・レッジャーノを持ち歩いているだとー⁉
「こういう日々の積み重ねが、この美しいバストとくびれを作っているのだよ。わかったかね、若人たちよ」
ははー。お見逸れいたしました。
ボクとハルルは完敗の土下座をするのだった。




