第4話 定期公演#1・マネージャー陣の立ち回りを確認しよう
「おお、なんかずいぶん警備員の数が多いね……」
東京公会堂につくと、そこかしこで警備員たちの研修が行われていた。
どうやら会場の周りも、施設の中も、通常の2倍以上の警備員が配置されるらしい。やっぱりかなりの厳戒態勢で臨むみたいだ。
「こればっかりは念には念を入れよ、かしらね……」
都が少し居心地が悪そうに辺りを見回している。
普段なら会場を下見したりしてから控室に足を運ぶボクたちだけど、さすがに今日は警備員たちの研修が終わるまではおとなしく控室に直行することにした。1時間後にはリハが始まるし、そこからはボクたちの時間だ。
控室から会場につながる廊下を進むと、角を曲がる度に人がいる状態だった。控室にまでは入ってこないだろうけれど、さすがにちょっと息が詰まりそうではある……。
「『ボンバーマン見つけるワンDX』を起動して会場の中と周辺をチェックさせますね!」
控室に入るなり、サクにゃんが大きなトランクケースを開き始めた。
「ボンバーマン? あのゲームの?」
「いいえ、爆発物検知器と警察犬を合体させたようなロボットです!」
「えーと、つまり、爆弾を探して走り回る系の犬ロボット?」
「そうです! 爆弾を見つけたら『ボンバーワン!』って鳴きます」
うーむ。かわいいけど、どこかで聞いたことがあるような……。
「まあ『ボンバーワン!』って鳴いた時点で、大事件だし、公演は中止になっちゃうから鳴かずに何事もなく戻ってきてほしいものだね」
「いけ!『ボンバーマン見つけるワンDX』たち!」
サクにゃんの号令で、ミニチュアダックスフンドみたいなロボットが10体ほど、控室から勢いよく飛び出していった。
何の説明もせずに解き放ったけど、いきなり犬のロボットが走り回ったら、警備員の人たちが驚くんじゃないかな……。
* * *
「今日はいつもとシフトが違うから、念のため最終確認しましょ」
都の呼びかけで、マネージャー5人が集まる。
「栞と詩はいつも通り音響室よね」
「イエスマム。このあと設営の指示出しとリハを終えてからは音響室に籠るで」
「私は公演前半は出番ないから、そこまではいつも通りよ」
公演前半は。
そう、今回の出演はボクだけではないのだ。
「1曲目『We’ll be the No.1 IDOL』は5人の曲だからOKね。2曲目も『The Beginning of Summer』だから問題なし。ここで一発目のMCが挟まって、早月さんが進行に回る」
いつもならハルルのポジションにメイメイが入るわけだ。なかなか緊張するね。
「自己紹介をして、少しトークをした後に、春さんが捌けて次の曲の準備ね。ここで私も合流する」
「都は先に着替えを済ませておいても良いんじゃないの? ボクも開演前には着替えて待ってるつもりだし」
時間のあるボクたちは、あえてメンバーと一緒に着替えなくてもいいと思う。
「わたしがお2人のお着替えを手伝います」
レイが胸の前でこぶしを握る。それに応えて都がうなずく。
「なるほど。それもそうね。私も楓と一緒に先に着替えを済ませます。零、お手伝いお願いね」
「そうしよう。それで3曲目がハルルと都のソロユニット曲『危険水域アルマンディンガーネット』。かっこいいアニソンだし盛り上がりそう!」
「何のアニメともタイアップしてないけれどね」
都が苦笑する。
まあたしかにそうか。アニソンではなくてアニソン風楽曲、かな?
「それでー、3曲目の最中にボクとメイメイがMCコーナーの準備、と」
「小道具のチェックはわたしにお任せください」
「今回はレイに完全裏方をお願いしてしまうことになるけれど、よろしくね」
だいぶ負担が大きい気はする。
でも次回以上の定期公演でもソロユニット曲がセットリストに含まれていくとなると、定期公演は出番がないマネージャーが裏方を引き受ける流れになりそうだ。あれ、そういえば4月公演って、MCコーナーにボクもレイも出る予定になってるけど、その時どうするんだろ……。都1人? その時にソロユニット曲が都じゃなければ、まあ平気なのかな?
「MCコーナーが終わったら次はうたさんの番ですね」
「4曲目は私の『Honey, Feel The Rhythm』よ」
みんな一斉にウタのほうを見る。ウタはちょっと気取って両手を広げたポーズを取っていた。それ何のポーズ? ソロユニット曲のポーズか何か?
「ウタとウーミーの、ね。でも5曲目までの間隔が短いから、ウーミーが大変だ。ここでもMCのメイメイにがんばってつないでもらって、ウーミーの着替えが終わったら5曲目は『僕たちのワルツは永遠の光』を初披露、と」
「今回は初披露の曲が多いわね」
セットリストを眺めながら都がしみじみとつぶやく。
「まあそもそもこれまで3曲しかお客さんの前で披露したことないし、そりゃそうなるよね」
ミニじゃないライブは初めてなんだから。
「せやな~。ちゃんとしたライブができるっちゅ~のは、感慨深いもんやな~」
それまで静かに聞いていたシオが、急に会話に入ってくる。
「シオとウタはいつも音響室で、ライブ中は一緒にいる感覚がないよねえ。舞台袖で一緒に見られるように、そろそろ音響やビジュアルエフェクトは専門の人に頼んでも良いんじゃないの?」
「それは嫌やわ。うちの手で、≪初夏≫をスーパーアイドルにしたいんや」
シオが首を横に振って拒否をする。これは冗談ではなく、わりと強めの否定のようだ。まあ、その気持ちはわからないでもないけどね。
「じゃあ、まあ、頼みますよ。舞台・音響監督さん」
「私は音響に強い思い入れはないし、舞台袖に回っても良いのだけれど」
「ちょっとウタちゃ~ん。そりゃ淋しいやんか~」
シオがウタの肩を揉んでご機嫌取りをしている。でもウタは黙ったまま取り合おうとしない。だけど最後は観念したように小さくため息をついた。
「しかたないわね……。付き合ってあげるわよ」
なんかこう、2人の間の信頼関係みたいなのが垣間見えてちょっとうらやましくなるね。
そんな時だった。
「たたたたた大変です! みなさん大変で~す!」
トランシーバーを片手に、サクにゃんが大騒ぎを始める。
「ちょっと、打ち合わせ中よ。何事?」
声を上げたのは都だけだったが、全員がサクにゃんのほうに視線を向けていた。
「ここここここれを!」
サクにゃんがトランシーバーのつまみをいじってボリュームを上げる。
『ボンバーワン! ボンバーワン! ボンバーワン! ボンバーワン!』
無機質な合成音が控室に響き渡った――。




