第57話 謎解きスタンプラリー7~最後のヒント
チェックポイント3(CK3)。
プールの入り口ゲートのところに、看板が掲げられていた。
「はーい、最後のチェックポイントに着きましたー。今度はどんなクイズかな?」
看板の下にいるお兄さんのところへ進む。
長身のお兄さんの胸のところに書かれていたのは――。
「『俺はチィタマ推しです。今日のかっこうもかわいいですね』って、ありがとうございます! まだ映画公開もされてないのにボクを推してくれる人が! って、このノリは大丈夫です? 視聴者的に冷めませんかね?」
内輪ノリが過ぎるとけっこう冷めるんだよ?
はい、スルー!
この謎解きイベント中、あらゆる会話が一方通行過ぎて不安になる……。
「あ、はい。問題ですね。えーと『問題:猫のチィタマが好きな料理を答えよ』ですって。これは簡単だー! チィタマの大好物はチキンカレーです!」
ちょうど6文字だし間違いなさそう!
◆挿絵
「これでチェックポイントは3つとも消化しましたねー。『あさひひまり』、『ばいおれっと』、『ちきんかれー』。たぶんこれで合ってるはずだけど……このピンク色のマスが何か関係あるのかなあ」
チェックポイントの答えはそれぞれ6文字だけど、マスがピンク色に塗られている箇所が違っている。
チェックポイント1は2文字目。チェックポイント2は1文字目。チェックポイント3は4文字目がピンク色になっている。
「ピンクのところだけ抜き出すと、『さばか』? なんのこっちゃ……」
◆挿絵
何かの暗号か、数字に置き換えたり、アルファベットに置き換えたりするとか? まだひねりを加える必要があるのかな。
「うーん、まだわからない。ひとまず招き猫のヒントの続きに行ってみようと思います。それで何かわかるかもしれないし」
招き猫のヒントのほうもまだ何にも見当がついてないし、わりとやばい状況だなあ。どうしよう。これクリアできるのかな……。
チィタマ推しのお兄さんにお礼を言ってからプールを後にする。
東へ東へ!
管理棟のほうへまた元来た道を引き返していく。
「わりと日が傾いてきましたね。どれくらいやってるんだろ。2時間? 3時間? けっこう長丁場だ。カメラマンさん、大丈夫です? 次ハンターと遭遇したら倒れそう。いや、もうハンターとは会いたくないですけど!」
先を急ぎたいけれど少しペースダウン。
ボクの体力よりもカメラマンさんの体力が心配すぎる。手振れで映像すごいことになってたりしないよね? この謎解きイベントを丸々取り直しとかさすがに無理だし……。
「え、オーディションの話をしてくれって? 唐突だなあ。んー、これ言って良い話なのかな。ダメだったら編集でカットしてくださいね」
そう前置きをしてからチィタマ誕生の秘話を語りだす。
「ボクね、ホントは役者じゃないんですよ。夏目早月っていうアイドルのマネージャーなんです。メイメイって愛称で呼ばれてるんですけど。≪The Beginning of Summer≫というグループに所属してます。そう、ハルル、ナズナ役の新垣春も所属しています」
チェックポイント1以来、ハルルともぜんぜん会わないな。元気にやってるかな。しっかりしているから大丈夫だとは思うけど、ピンチになった時にアドリブに弱いし、ちょっと心配……。
「それでメイメイとハルルに朝西のエキストラ出演のオファーがあって、マネージャーとして現場に同行したんですよね」
あとはMINAさんもいたけどね。MINAさんはあれから小さい役だけど何個かドラマに出たりもしてるし、やっぱりすごいなって思う。モデルやりながら役者もやる。メイメイもあんなふうに活躍できたらなあ。
「それで、洋子ちゃん、秋岡監督がボクの上司が昔お世話になった人で、なんかそのつながりで、その日1日、監督のアシスタントをすることになったんですよね。不思議な流れだったなあ」
洋子ちゃんは花さんが新人マネージャー時代にお世話になった人だった。アシスタントになることまでは事前に決まっていたっぽいけど、そのあとの流れは場当たり的に決まったよね、たぶん。
「それで監督のアシスタントの先輩として、ヒマリ役のマキにお世話になって。なんか意気投合して仲良くなって。そのあとなんでか洋子ちゃんの前で、ボクとハルルがエチュードで対決することになって。あ、そのエチュードの映像は公式サイトにアップされているやつです」
あの流れはなー。
洋子ちゃんがおもしろがって進めたのか、それとも何か違う力が働いていたのかはわからないけどね。
「エチュードは結果ハルルが勝って、その演技内容が認められて、ナズナ役に大抜擢されたんですよ。すごくないですか! シンデレラストーリーだ!」
ハルルの役者としての可能性が存分にみられた良いエチュードだったと思う。まさか準主役を勝ち取るとはだれも想像してなかったよね。
「あ、ボクですか? 正直よくわかんないです……。なぜかその直後に『おまえ、猫のチィタマ役な』って肩を叩かれて。原作者もニヤニヤしながら『頼むわ』って。そんなのあります? ボク、付き添いのマネージャーですよ?」
撮影当日に主要キャラ3人のうちの2人のキャストが決まるって、いったいどんな映画だよって思う。今も思っているし。
「なんかこの作品って不思議ですよねー。もちろん原作も脚本もミステリアスな内容なのでそもそも不思議なんですけど、映画の作り方も、制作に関わっている人たちも不思議で」
場当たり的でいてぜんぜん適当ではない。みんな全力で真剣に取り組んでいるし良いものができたと思う。手前みそだけどね。
「不思議な集まりで作った不思議な作品。でもみんなで一生懸命作り上げました。『朝日は西から昇る』はとっても良い作品になったと思うので、ぜひ楽しんでもらえたらなって思います」
これ、公開できる内容になってるかな?
「良い話だった? それはありがとうございます。……なんか照れますね。あ、ちょっと待って! こんなところに虎猫柄の招き猫がいるっ!」
さっきはプールを目指して歩いていたからぜんぜん気づかなかったなあ。
虎猫柄かわいい。妙な親近感。
「どんなヒントが書かれているんだろう」
虎猫柄の招き猫をひっくり返して裏を確認してみる。
「ん、これはなんだ? 国旗?」
『緑』『黄』『青』の3色の正方形が並んでいる。緑色の正方形の左横に右に向かて矢印が書かれているので、『緑』『黄』『青』の順で読め、という意味なんだろうね。
◆挿絵
「これまでとは違うヒント……。なんだろう。3文字」
緑、黄、青。
色。
3文字。
地図と回答用紙を見比べる。
色に関係しているヒントは……。
「そうか、これ記号と対比させるんだ! ☆♡◇♧♤には変わらずずっと同じ色が示されていた! つまり、緑は♤、黄は♧、青は☆のことだ!」
色が記号を表しているとしたら、これのヒントは『場所』の3文字のところに使いそうかな。
「『場所』の3文字。うーん、記号、数字……チェックポイントの? ♤はチェックポイント1で『あさひひまり』。♧はチェックポイント3で『ちきんかれー』。☆はチェックポイント2で『ばいおれっと』。ピンクで塗られた文字を抜き出すと『さかば』。酒場! 『場所』は“酒場”。バーだ!」
地図にも絵がある!
間違いないぞー!
「うぉー! 酒場にダッシュだニャン!」
◆挿絵




