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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第一章 オーディション 編

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第22話 ある精神科医の実験

「かえでくん、こんばんは」


 うわあああああ⁉ レイ人形がしゃべってるー⁉


「こここここんばんははははは!」


「そんなに怖がらないでくださいよぅ。悲しいです……」


 ああ、レイ(本物)が泣いてしまう。


「怖がったわけじゃなくて、いや、驚くでしょ普通! 魔女服を着せておくためのマネキンじゃなくて、ロボットだったの? 動きなめらかすぎるけど⁉」


 ボクの部屋から出てくるのを目撃しなければ、レイ人形のほうだってわからなかったかもしれない。どこからどう見ても、魔女ルックで占いをするレイそのものだ。


「それはわたしです。わたしのロボットではなく、わたし自身なんです。どう説明したらいいかわからないのですが、もう1人のわたしなんです」


 レイとレイがボクの前に並んだ。

 そして2人はそれぞれ、ボクに向かって手を差し伸べてくる。


「「わたしたちの手を取ってください」」


 ボクはすぐにレイたちの手を取った。

 迷わなかった。

 レイたちの笑顔が、いつものレイのものだったから大丈夫だ。


「かえでくんにもわかってもらえましたか?」


 ああ、わかるよ。


「わたしたちは同じものなんですよ。口で説明はむずかしいですけれど、直接触れてもらえばわかってもらえたかと思います」


 なんと表現していいのかわからないけれど、レイの言いたいことはわかった気がした。

 たしかに2人は同じもの。つながっている存在なのだとわかる。

 魂なのか、心なのか、見えない光なのか、正確にどう表現したら良いかはわからない。

 見た目は2人の人間に分かれて見えるけれど、たしかに同一の存在なのだ理解できた。


「わかったよ。触れればレイが広がっているだけなのはわかる。でもなぜボクにはレイが2人に分かれて見えるの?」


 レイは小さく首を振った。


「それはわたしにもわかりません。生まれたときから、もしかしたら生まれる前から、わたしはこうだったんだと思います。物心ついた頃にはこういう存在だったんです」


「双子とは違うよね。2人は……いや2人じゃなくて、1人が分かれて見えるだけだから、なんて言ったらいいんだろう? ややこしいから2人って表現するけど気にしないでね」


 2人だけど実際は1人で、でも2人に見えるから便宜上2人ということで表現するものとする。以上! 言っていて自分でもわからない。


「2人は家でどういうふうに生活していたの? ご両親はどう受け入れていたのかすごく興味がある」


「そうですね、そのあたり少し詳しく説明しますね」


 そう言ってレイは身振り手振りを交えながら詳細に教えてくれた。


 説明を聞いたボクの理解はこうだ。


 幼少期は自他境界線があいまいでレイという存在がふわふわしていた。だからレイという広がりは、実体として、ほかの人に複数の存在として見えるほどにはっきりしていなかったようだ。

 ただ、それはほかの人に見えていないだけで、レイは実体を伴わないが、間違いなく広域的に存在していた。

 たとえば風邪で幼稚園を休んで家で寝ているのに、その日幼稚園で起きた出来事をすべて見ていた記憶がある、ということがあったらしい。

 その存在は希薄だったので、お友だちとしゃべったり干渉したりすることはなく、ただそこに在るという感じらしい。

 あえてわかりやすく表現するなら、同時に複数のレイが存在していて、同じ時刻にそれぞれのレイが好きなように行動している。そしてその情報は常に同期されている、といったところかな。


 ただ、年齢を重ねるとともにレイという存在がはっきりしてきたらしい。

「第2次性徴を迎えて、他者との境界線、人格がはっきりと形成されだしたことが顕在化の要因だとみています」と小難しいことを言っていた。


「両親も、幼い頃のわたしは、『ちょっと不思議なことを言う子』くらいで流していたのですが、中学生になるあたりから、深刻な問題としてとらえはじめたんです。きっかけは平日に遠方に住む祖母の家に遊びに行きたいと言ったことだったと思います」


 ご両親は、平日は学校があるため、祖母の家に行くなら週末や長期休みにするべきだという考えだった。それは誰が聞いても普通のことを言っていると思う。


 ただ、レイの回答が異常すぎた。「学校にも行きますし、祖母の家にも遊びに行きたいです。何かおかしいですか? 2階の廊下の電球が切れかけているのですが替えはありますか? あ、納戸にありました。シロの散歩に行ってきましたが、ちょっと体調が悪そうです。寒いのかもしれないので、今日は家に入れてあげますね」


 両親の目の前にレイがいて、3人はリビングで会話しているにも関わらず、階段上の廊下に明かりが点り、外の犬小屋に繋げているはずのシロがリビングに入ってきたのだ。


「それって、めちゃんこまずくないの?」


「今から思えば、めちゃんこまずいですね。普段からやっていることだったので、当時のわたし自身は、その行動がおかしいとは思っていなかったんです。わざわざ口に出して手伝いをすることなんてなかったですからね」


「普通は1人の人間は同時に1つのことしかできないからね……」


 ボクがそうつぶやくと、レイは少し悲しな表情を浮かべた。


「普通……そうですね……。そのことをきっかけに両親が本格的にわたしの異常を疑いだして、いろいろな病院に連れていかれました。相談してはまた別の病院へ、というのを繰り返しましたね。その中の1つの病院で師匠と出会ったんです」


『師匠』か。

 何度かレイの口から聞いたことのある人物だ。

 師匠とは、占いの先生という理解だったけれど、どうやらそうではないらしい。


「師匠は精神科医をされています。何度目かの紹介で訪れた大学病院で、その時ちょうど勤務されていました」


 レイのご両親は精神的な問題、おそらく虚言癖などを疑ったのではないだろうか。

 ただ、それだけでは説明できない現象も起きてしまっている。常識で測るのは難しそうだ。きっとパニックに陥っただろう。


「師匠は初診でわたしの状況をほぼ正確に理解されました。両親の話を聞き、続いてわたしの話を聞き、それから簡単な実験をされました」


「へぇ、どんな実験?」


「師匠はわたしに向かって、こうおっしゃられました。『悪いんだけど、隣の準備室にいる看護師の小林さんから、実験に使うトランプを借りてきてくれないか』と」


 トランプで何の実験をするのかな、すごく気になる。


「わたしはすぐに、『隣の準備室にいらっしゃるのは長谷川さんという看護師さんです。小林さんはどこにいますか?』と答えました」


 おや? 師匠さんは看護師の勤務シフトを勘違いしていたのかな。


「すると師匠は『ああ、ごめんね。今日の担当は長谷川さんだったね。長谷川さんからトランプを借りてきて、私に手渡してくれないか』と笑いながら、わたしの前に手を開いて差し出してきました」


 ああ、そういうことか。なるほど。


「わたしは言いました。『わかりました。長谷川さんからトランプを借りてきました。どうぞ』と師匠の手のひらにトランプを乗せました」


 師匠さんの目の前にレイが座っていて、準備室はちょうど師匠さんの真後ろにある扉からつながっていた。

 レイは師匠さんの前を一歩も動かず、準備室からトランプを借り、ドアを開けて師匠さんの背後からトランプを手渡した、ということだ。


「その時、師匠さんの目の前に座るレイと、背後から現れたトランプを持ったレイが同時に観測された、と」


「ええ、そういうことですね。トランプという物体を持ち、師匠に手渡すという目的で、わたしは実体化して存在する必要があったわけです」


 師匠さんはさぞ驚いたことだろう。

 2人のレイに挟まれて……あ、今のボクと同じか。


「師匠はニコニコしながらいくつかの質問をされました。『どれくらいの数、同時に存在できるか、実体化しているのは意識的か無意識か、あなたという存在の中に主従の関係という概念はあるか』などを聞かれましたね」


 精神科医ってすごいんだなあ。

 驚いたり騒いだりしないでニコニコしていられるんだ。

 あ、もしかしてレイみたいな存在はボクが知らないだけでわりと一般的なのかな?


「すべての質問に答え終わると、師匠は言われました。『私があなたの味方になろうじゃないか。両親には納得のいく説明をしてあげるから、あなたはここに通い、一般常識と、一般社会への適応力を身に着ける訓練をしなさい』」


「おお、師匠! かっこよすぎてちょっと鳥肌立ったわ」


「かえでくん……師匠は女の人ですよ」


「え、ちょっとそれは最初に言ってよ。脳内再生がバグるよ……」


 細身でメガネの若い男性医師で脳内再生されてたよ! やり直しを要求する!


「師匠はわたしよりも背が低くて童顔で、白衣ブカブカでした」


 なにそれ⁉ 師匠はまさかのちびっこ先生だった⁉ 萌えキャラか何かなの⁉


「約1年ほど前にそんな師匠と出会い、社会適応の訓練を始めました。実体化の意識や――」


 血のにじむような訓練が行われたかはわからないけれど、概ねこんなルールだったようだ。

・多方面のことを知覚しても、実体化して干渉しないこと。

・実体化している自分を常に本体と意識すること。

・実体化していない自分が知覚した情報を他人に伝えないこと。

・本体は毎日学校に行くこと。


「そして今、師匠の勧めで両親のもとを離れ、わたしはここでアイドルのマネージャーをすることになりました」

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