第42話 バースデーイベント3~ナギチ
「カ~エ~ちゃん! 私がきた!」
ドン!
仁王立ちのナギチ現る。
なんでそんなにスリットが深く入ったパーティードレス着てるの? エメラルドグリーンってちょっといつもと雰囲気違うしステキかも。スタイル良いからめっちゃ似合うんですけどー。
「なんだ、ナギチか。エッチなお姉さんの番だと思ったのに外したか~」
でも今はちょっとウーミーにマッサージの話を聞きたかったな。でもまあ、これがくじで順番決めるおもしろいところかな。
「な~に~? 私とエッチなことしたいの?」
「いや、そういうわけじゃないです」
「しょうがないにゃあ」
ナギチがニコニコしながらにじり寄ってくる。それとスリットチラチラ捲るんじゃない!
あいかわらず話聞かない人だな。めちゃくちゃ美人なのになんで残念なんだろう。ちょっといつもと違う雰囲気でときめいたのに一瞬で……。
「まあ、とりあえずそこ座って? 握手会だから、この線からこっち入ってきたらガードマンに頼んで摘まみだしてもらうからね?」
テーブルの半分よりこっちは握手する側の領域なのだよ。入っちゃいけませんからねー。
「え~。カエちゃんの膝の上に座ってお話ししたいな~♡」
わしゃキャバ嬢か。
ナギチのほうが大きいんだから膝の上に乗るのは無理でしょ……。
「おとなしくそこ座って手を出して」
うーん。どうしてもナギチ相手だと塩対応してしまうな。そんなつもりはないんだけど……なんか喜んでるように見えるからか?
「は~い♡ 握手お願いしま~す♡」
ほら、めっちゃうれしそう。なーんか、いたずらしたくなっちゃう。むずむず。
それならば――。
「カエちゃん……なんでテーブルに肘を? もしかして腕相撲?」
「よくわかったね。ナギチ、腕相撲で勝負だ!」
テーブルに肘を直角に突き、手を広げてナギチを誘う。
これも一種の握手……みたいなものだよね?
「あれ~、腕相撲なんかしちゃって良いのかな~? いっとくけど、私、力は強いからね! 私が勝ったらカエちゃんに何でも言うこと聞いてもらおうっと♡」
「お、良いね。賭けよう! 勝ったほうが相手の言うことを聞く!」
ボクだって男だ! 力では負けないぞ!
「ナギチが掛け声かけて始めて良いよ」
「へぇ~そんなにハンデもらっちゃって、あとで泣いても知らないよ~だ♡」
ボクたちは右手を握り合い、左手でテーブルの端をつかんでスタンバイする。
どっちも余裕の表情でにこやかに笑い合う。
泣くのはそっちだ!
「さあ、1本勝負!」
「レディー……ゴー!」
ナギチに遅れることコンマ1秒。一瞬差し込まれたが、五分の位置まで戻す。力の差はない。ほぼ互角。
「おおー、ナギチ……やるね! 細いのに!」
「カエちゃん……こそ、ちっちゃいのに……力……強いわね!」
お互い余裕がない。本気で力を込める。左手でつかんだテーブルがガタガタと揺れる。
「そういえば、ナギチ。ボク……いつもと……違って見えない?」
互角ならばここからは心理戦。
「違って? もしかして……胸が大きくなった? パット……増やしてる?」
「増やしてないわ! そこじゃ……ないっ」
くっそ。こっちが動揺させられたわ。危ない。だいぶ差し込まれた。
「ほら、もっと……?」
「もっと……? わかった、わ! 脱毛……した……でしょ!」
「してない……よ。なぜか……ムダ毛が……生えないから」
「ずるい!」
うぉ、やばい! 余計なヘイトでパワーが増してきた、だと⁉
これはまずい……負けそう……。
「ナギチ……そんなに……足……開くと……ドレス開けてる。パンツ、見えてる……ぞ」
「勝負……中……よ! それくらいで……動揺しないわ……よっ!」
ダメか。……しかたない。ナギチ、ごめん。裏技を使わせてもらう!
「言い忘れてた……けど……生配信中だよ」
「えっ、うそ⁉」
ナギチの力が一瞬緩む。
いまだ! ボクの体もってくれよー! 界王拳3倍だー!
ぐぉぉぉぉぉぉ!
* * *
「ふっ、ボクの勝ちのようだね」
華麗なる逆転劇だった。またつまらないものを斬ってしまったな。
「いや~ん♡ 腕痛~い。カエちゃん力強いよ~♡」
ぶりっこナギチ。
カメラを意識してキョロキョロしている。
「ごめん、ウソ」
「何が~? 私も~一生懸命戦ったけど~カエちゃん強くて負けちゃった~♡」
「あれ、ウソだから。配信してない」
テヘペロ。
「だました~! ズル! ズル! 今のはノーカンよ!」
「ダメですー! 勝負は1回きりですー。それに勝負中にウソついちゃいけないってルールはありませんー」
勝負は非情なものなのだ。気を抜いたほうが負けなのさ。ここが戦場だったら、ナギチは死んでたんやで。
「はーい。というわけでボクのお願いを聞いてもらおうかなー♪」
「ずるいずるい! あと少しで私の勝ちだったのに!」
机バンバンしないの! ケーキ崩れるでしょ!
「ボクのお願いはー」
「あ~あ~、きこえな~い!」
ナギチが自慢の耳をふさぎながら大声を出し始める。
まったく、子どもだなー。勝負に負けたんだから、諦めなさいよー。
「今度ナギチと2人でお出かけしたいな」
「えっ⁉」
ピタリと静かになる。
なーんだ、聞こえてたじゃん。
「だからー、デートしないってことー」
「はい♡」
うぉ。一瞬でボクの膝の上に⁉ テレポート⁉
「最近できた駅前の中華のお店に行きたいなーって思っててね。ナギチ飲茶好きでしょ?」
「はい♡」
「誰誘うか迷ったんだけど、やっぱりナギチかなーって」
「はい♡」
……聞いてるか、これ?
ピピピ。と、タイマーの音が鳴る。
「あ、時間みたい。詳細はまたあとでメッセするから」
「はい♡」
ダメだこりゃ。
おーい、帰ってこーい!




