第41話 バースデーイベント2~サクにゃん
さて、次は誰が来るのかな。
すっかりぬるくなったオレンジジュース口をつけていると――
「2番目はサクラでしゅ!」
少し緊張気味のサクにゃんが入ってきた。
「はいはい、いらっしゃいませー」
なるほど、握手会。次に誰が来るかドキドキする。待つ側はこういう気持ちなのね。ちょっと楽しくなってきたかも。
「よろしくお願いしましゅ!」
「何緊張してるのさ。ボクだよー。怖くないよー」
「で、でも、コーチも17歳になられまして……大人の女性というか、もう雲の上の存在というか!」
手を「あばばばば」とせわしなく動かしながら、一生懸命しゃべりだす。
サクにゃんってば、やっぱりおもしろい。
「昨日までとそんな変わるわけないじゃん。うーん、でもさー、誕生日がきたら、胸がバイーンって大きくなったりしないもんかねー?」
ウーミーみたいにさ!
「バイーン、ですか……」
サクにゃんが自分の胸に手を当てて下を向いてしまう。ああ、ごめん! サクにゃんも気にしてるよね……。
「サクにゃんはほら……まだ若いから……」
「コーチだってまだお若いです! どんまいです! これからです!」
でもボクは……自分の20歳の姿を知っているわけで……残念ながら急激な成長は……どうにか遺伝子改造してもらえませんかね?
「あー、最近ロボット開発のほうはどう? 順調?」
サクにゃんとはあんまりゆっくり話ができていない気がする。ずいぶん忙しそうだし、レッスンが終わるとすぐいなくなっちゃうし。
「製品化一歩手前のレビュー中なので少し忙しいかもです!」
よく見るとちょっと目がしょぼしょぼしているというか、クマがすごいというか……デスマーチ的なあれなんですかね。……大変そう。
「くれぐれも体に気をつけてね……。疲れている時は思い切って練習を休まないと……」
寝不足でケガするなんてことになったら、ロボットのほうもアイドルのほうも、どっちもやれなくなっちゃうからね。
「ウーミーも1回それでケガしちゃってるし、休めって言われない?」
「みっちゃんは……言いますね……。最近アロマオイルのマッサージを勉強しているらしくて、サクラに疲れが取れるマッサージをしてくれます」
「へぇー。それはリラックスして休めそうだね」
「そう……なんですけど……」
サクにゃんが微妙に目を反らしてくる。そしてなぜか目が死んでいる……どうした、サクにゃん?
「なんか言いにくいこと?」
あえて顔を覗き込んでみる。
やっぱり目を反らしてくる……。
「言いたくないなら良いけどさー。じゃあ次の人ー」
「ああ、言います言います! 言いますけど! これは絶対に内緒にしてくださいね……」
大慌てに慌ててから、だんだん声が尻すぼみになっていく。
「うん、じゃあ内緒ね。こっそり教えて?」
耳に手を当ててサクにゃんのほうに向ける。内緒話だ。大丈夫。ボクは口が固いほうさ。
「えっと……たぶんなんですけど……本当にたぶんなんですけど……」
サクにゃんの顔が近づいてきて、ボクの耳に向かってウィスパーボイスと吐息をかけてくる。若干くすぐったい。
「みっちゃんのハマってるアロマオイルのマッサージって……」
「マッサージって?」
「ちょっとエッチなやつだと思うんです……」
はい?
聞き間違いかな?
「エッチなんです……」
思わず離れてサクにゃんの顔をマジマジと見つめてしまう。
ふむ……ネコミミをつけたユデダコだね。よし。
「ふむ、詳しく聞こうか」
改めて耳をサクにゃんに向ける。ユデダコが顔を近づけてくる。
「最初の頃は手とか足とかその辺りを温めたオイルをつけた手で揉んでくれてたんです」
「まあまあまあ。オイルマッサージってそんな感じのやつだよね?」
「だんだん範囲が広がってきていてですね……」
ほうほう?
「顔とか、首とか」
「まあそれもあるよね。眼精疲労とか」
「そうなんですけど……」
まだなにかありそう?
「最近は水着を着て全身をマッサージしようとしてきて……」
「まあ、ちゃんとしたところだと全身マッサージなんじゃないの? やったことないからわからないけど」
とくにおかしな感じはしないよねえ。何がエッチなんだろ?
「そうなんですか⁉ じゃあエッチなやつじゃないのかな……」
ユデダコが自分のほっぺたを両手で挟んでムニムニしだす。つまり、マッサージでエッチな妄想しちゃったんだね? サクにゃんもお年頃でかわいいなあ。
「オイルを塗ると服が汚れちゃうし、濡れても良い服となると水着が妥当なんじゃないかな?」
「そうなんですね……。みんなあんなちょっとずれたら見えちゃう紐みたいな水着でマッサージするんですね……サクラ知りませんでした」
うん? なんだって?
「ちょっと待って」
「はい?」
今なんて言った?
「紐みたいな水着?」
「はい。みっちゃんが用意してくれたビキニなんですけど、背中側は全部紐で、前だけちょっと隠れる水着で……」
うん……それは……エッチだね。
「部屋の温度をかなり上げてマッサージしてくれるので、みっちゃんも水着を着て顔を真っ赤にしながら……」
「もしかして、ウーミーもその紐を?」
「そうですね。かわりばんこにマッサージするので、同じものを」
うん……それは……エッチだね!
「オホン。ボクもマッサージには興味があってね。今度ちょっと見学に行っていい?」
後学のためにね。勉強だから仕方ないよね⁉
「えっと、みっちゃんにも聞いてみないと……でもコーチに見られてると恥ずかしいです」
ユデダコが体を隠して恥じらう。
ふむ。ネコミミが大変な回転をしているね。これはどんな感情なのかな?
「恥ずかしいもんか! マッサージは医療行為だよ! 神聖な行いだからこれっぽっちも恥ずかしくないよ!」
「そう、なんですね。勉強になります!」
ボクは勉強熱心だから、撮影をさせてもらって何度も復習しようかな!
と、ここでタイマーの音が聞こえてくる。
「おっと、時間か。そういえば握手してないね。一応しとく?」
「はい、お願いします! コーチ、お誕生日おめでとうございます!」
お互いに両手を出してしっかりと握手を交わす。
「ありがとね、サクにゃん。がんばり屋さんなのはわかるけど、ちゃんと休むんだよ」
「わかりました! それでは失礼します!」
若干顔の赤みが引いたサクにゃんが、ブンブンと大きく手を振りながらブースを後にする。
ウーミーのマッサージ。ボクも受けてみたいなあ。
医学的な見地からね!




