第39話 今日はボクの誕生日!
「かえでくん。かえでくん」
んにゃんにゃ……あと5分だけ……。
「かえでくん、起きてください」
んむにゃ……レイ?
「かえでくん。お誕生日おめでとうございます」
んみゅ……誕生日?
「今日はかえでくんの誕生日ですよ」
んん……誕生日かあ。誕生日……ん、今何時……?
薄暗い中、オレンジ色の豆電球をつけて、枕元の目覚まし時計を手繰り寄せる……。
「0時……」
レイさん……真夜中じゃないですか。なんならさっき寝たばかりで……。
「日付が変わりましたから、すぐにお祝いをしたくて」
「ありがとう。でも、もうちょっと寝かせて……。それとお腹の上に乗られるとちょっと苦しい……」
お祝いしてくれるのはうれしいんだけど、深夜に馬乗りになって起こすのはどうかと思うの。さ、明日もがんばらなきゃだし、早く寝よう。
「明日は盛大に誕生パーティーしましょうね」
「そういうのははずかしいし普通で良いよ……」
レイがボクのお腹の上から降りる。横に添い寝をすると布団をかけ直してくれた。
ボクの抱き枕……むにゃむにゃ。
* * *
朝起きると隣にレイの姿はなく、枕元には一通の封筒が置かれていた。
「レイ? これはいったい……?」
中を確認すると、手作りのバースデーカードが入っていた。
『Happy Birthday! 会場はこちら』
どうやら誕生日会の招待状にもなっている模様。
そういうのはやらなくて良いって言ったのになあ。はずかしいニャン。
1/7はボクの誕生日だ。
例年、冬休み期間の最後の辺りになるので、友だちを集めて誕生日会をやった記憶なんてない。きっとボクも含めてだけど、みんな宿題の追い込みで忙しかったんだろうなと思う。書初めとか、正月にやる人なんていないし、だいたい最終日にやるよね?
誕生日パーティーかあ。
自分がお祝いされるパーティーなんて初めてかも。
この間のメイメイの生誕祭配信は危うく大変なトラブルになりかけたもんね……。
あの後ホントに大変だったんだから。
なんとかレイが身を挺して守ってくれて、控室に駆け込んで……。まあそれはいいか。もう過ぎたことだし。
立派な招待状までもらって、まさか無視するわけにもいかないし、とりあえず会場に向かおう。さすがに今日は主役ってことなら、あの薬を飲まされることもなさそうだし?
* * *
「あ、きたきた! カエデちゃんお誕生日おめでとう!」
会場となる会議室の前。廊下に差し掛かったところで、ハルルがボクのことを発見して大声で呼びかけてくる。
「あ、ありがとう。でもちょっと声を抑えようか……。周りはみんな仕事しているんだし」
このフロアは会議スペースだからね。中は防音でも廊下で大声はさすがにちょっと……。
「1年で一番おめでたい日なんだから細かいこと気にしないの~。さ、みんな待ってるわよ!」
腕をがっちりと組まれて、会議室の中に引きずられていく。
ハルル、テンション高いなあ。
「えっと、これは……?」
中に入ると、100歩譲ってもパーティー会場って雰囲気ではなかった。いや、とても狭いエリア、ある一角だけ異常に飾りつけられていた。
「さ、早く早く。主役はこちらへ♪」
腕をひきずられて、目指すはその異常なエリア……ていうかもはやブース?
1人掛けのイスが置かれ、三方を仕切り板で区切られた小さなブースがボクを待っていた。仕切り板が異常にデコレーションされている。ハート形の風船やら金銀の目に刺激的なモールやら……。チカチカして目が痛い。
「はい、主役はここに座って~♪」
イスは1つしかないし、まあそういうことですよね。
「はい、これ~」
拒否権なく、パーティー用の三角帽子を被らされる。
ハルルがクラッカーを1つ鳴らす。そういうのは人がいないほうに向けてやろうね。紙テープ頭にかかったからさ……。
「お誕生日おめでとう!」
お菓子やジュース、すでにカットされているケーキが小さなテーブルの上に所狭しと置かれていく。
「あ、うん。ありがとう……」
「主役なんだからもっと堂々として良いのよ? これ、全部カエデちゃんのだから好きに食べてね♡」
朝っぱらからこんなに食べられないんですけど……。牛乳とか飲みたい。あとチーズ。乳製品トラナキャ……。
「じゃあ、10時スタートだから。しばらくご歓談ください♪」
そう言い残し、ハルルが去っていく。
ご歓談って……誰とだよ……。
こうしてボクの淋しい1人誕生日会が始まった……。




