第33話 メイメイ楽屋入り
「というわけで、昨日事務所のほうで派手なトラブルがあって……ごめんね」
12月14日昼公演開場の3時間前。
ボクとメイメイは楽屋入りし、マキに昨日の初日公演を観覧できなかった件について謝罪をしていた。
「なにが、『というわけで~』なのさ! 初日公演にこないなんて、もう親友じゃなくない?」
「ごめんなさいってば……。どうしても抜けられなくて……」
「絶交よ! カエデなんて知らない!」
マキは完全にお冠だった。
まだ楽屋に入ってから、一度も目も合わせてくれない……。ソファーにどっかりと座り込んだまま完全にそっぽを向いている状態だ。
「配信のアーカイブでは見せていただきましたから! 主演のマキ様の演技、とっても良かったです!」
「配信で……ふ~ん」
あれ? ちょっと態度が軟化したかな?
「本読みの時にはわからなかったけど、わりとコメディー要素が強い作品だったんだね。めっちゃ笑ったよー」
「初日はたまたまそういう流れになったから……」
あと少しか?
「え、あれってアドリブなの⁉ すごーい! もしかして、ガラスの靴を両手にはめて四つん這いで走り回るのもアドリブ⁉」
「そ、そうよ! 急きょ思いついて……おもしろかった?」
マキがちらりとこちらを伺ってくる。
「あそこは笑ったなー。全体的に笑ってたけど、あそこは特に大爆笑したよ。会場でも大ウケだったでしょ?」
「ま、まあね! 観客席のレイちゃんが膝を叩いて大笑いしてるのが見えたかな」
「え、レイが大笑い⁉」
そんなことが⁉ フィクションの世界じゃなくて⁉
「それはもうゲラゲラ笑い転げてたな~」
「うわー、めっちゃ見たかったー」
観客のほうを映したカメラとかないわけ?
(わたしはそんなに大笑いしたりしていません)
えー、でもマキが膝を叩いて笑ってたって。ホントのところは?
(とてもおもしろかったです。ですがトータルテンボス師匠の漫才に比べてしまうとやはり少し落ちるかと)
いや、舞台のお芝居だからね? 大人気漫才師の人たちと比べるのはやめよう?
さすがにお芝居を魅せるのと笑わせるための芸ではおもしろさを比べる土台が違うからなあ。
でもレイがゲラゲラねぇ。
そんなレイの姿も見てみたいな。
(かえでくんが笑わせてくれるならいつでも床を転げまわります)
いや、そういうインチキな笑いじゃなくて……。
「今日のテイストはどうだろうなあ。ね、メイメイちゃん?」
「私が参加したゲネプロではいたって真面目でしたよ~」
「だってさ。古典演劇みたいな厳格さでやってやろうじゃないの!」
マキが鼻息荒くソファーから立ち上がった。
なんだか違う方向にスイッチが入った様子?
「毎回アレンジ入るのが舞台の醍醐味だもんね。楽しみにしてるよ」
「おうさ。終わった後の握手会、ちゃんときてね♡」
マキの投げキッス。
いや、舞台終わりにそんなのないでしょ。
「カエくん、サイン会と握手会ありますよ」
「えっ、マジ⁉ 知らなかった!」
「終演後に出演者のブロマイドなんかをサイン付きで売ってるよ~ん♡」
舞台ってそういうものなのか。
「台本のレプリカや前回公演のBlu-rayも売ってたりするから、興味があったら買ってね♡」
「ほぇー、アイドル活動みたい」
「興味がなくても全部買ってね♡」
圧力! いや、その「親友なら買うよな?」って目で見てくるのやめて?
「ね♡」
「わかりましたわかりました。全種類買って一生握手し続けてもらうからね!」
「それって一緒に住みたいってこと? いや~んプロポーズ♡」
「なんでやねん!」
マキってどういう思考回路してるんだろ。たまに……だいたいネジがぶっ飛んでて常人には理解できない。しかしこの想像力が役者というものなのだろうか。
「まじめな話、そろそろ一緒に住もうよ~。そっちのビルに近いところで、よさげな新築のタワマンできるみたいだよ。モデルルーム内覧しに行こ♡」
「そんなお金ないし、わざわざ会社の寮から出て仕事しにくくすることないし」
メリットないんだよね……。
「え~。タワマンの最上階に住んで『見ろ人がゴミのようだ~』ってやろうよ~」
「悪趣味!」
「毎朝会社までリムジンで送ってあげるってば~」
「ギリギリまで寝ていたいから寮に住む!」
学校もあるし!
「毎日添い寝してあげるよ♡」
それも間に合ってます!
「ちぇっ。まだ好感度が足りないかな。いつになったらCG回収できるんだろ~」
「ボクはギャルゲーのヒロインかっ!」
そうやってふざけて、すぐからかって来るんだから。何がまじめな話だよ、まったく!
「じゃあそろそろわたし物販の確認したり、会場チェックに行くね。楽しんでいってね~」
そう言って、マキが楽屋から出ていこうとする。
「楽しみにしてる! メイメイをよろしくお願いします!」
「お姉ちゃんに任せて♡」
マキは振り返ると、メイメイに向かってガッツポーズをみせる。
「お姉ちゃんししょー。今日はよろしくお願いします~」
マキはこぶしで自身の胸を叩くと、楽屋を出ていった。
「メイメイにとっては初日なんだし、気負わずに楽しんできてね」
「は~い。カエくんが見ててくれるから大丈夫だよ~」
よし、緊張はしていないみたい。
がんばれ、メイメイ!




