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第21話 事実だけでなく、気持ちも大事

「ウタ、理由を聞いてもいい?」


 無反応。

 ん? 聞こえなかったのかな?


「あのーウタさん? ねぇねぇ、詩お姉ちゃん? ボクにも理由を教えてほしいんだけど……」


 無反応。

 こ、これは……。無視どころか、存在すらもなかったことにされている……。


「ウタちゃん。どうして被害が出ると思ったんや?」


 ボクに代わってシオが尋ねる。

 と、ウタはすぐにシオのほうに体を向ける。


「ええ、それはSNSを分析していて、気になる発言をする人物が何人か引っかかってきているからよ」


 ねぇ……ボク、ちょっと泣いても良いかな?


(よしよし)


 うわーん。レイー! ウタがボクのこと無視してくるよぉ! なんか一緒にがんばろう的なこと言ったばっかりなのに、ボクのこと敵視してくるんだよぉ。


 レイの胸を涙で濡らしてしまう。


(わたしはずっとかえでくんのことを見てますからね。大丈夫ですよ)


 ボクの味方はレイだけだよぉ。


「あなたたち、急に無言でイチャイチャしだすのやめなさいよ……」


 都がジト目でこちらを見てくる。

 ちょっと委員長! ボクたちの前にあいつ! あのいじめっ子のウタを注意しなさいよ! 今ここでNOWイジメが起きてますよ!


「簡易的な分析だけど、犯行声明を出しそうな人物は3人まで絞り込めているわ。過去の言動、そこからの変化、現在の精神状態の推定までは終わっているわ」


 ウタはそんなやり取りも完全無視を決め込み、淡々と話を進める。ひどい……。いや……うん、それって簡易的なんだ? もうそれでほぼすべてじゃないの?


「でもそれはあくまで可能性、の話よね」


 めずらしく花さんが口を挟んできた。

 犯罪絡みだからだろうか? 普段こういう会議の場では聞いているだけで議論に参加したりはしないというのに。


「可能性、とは? そこまで絞り込めてるなら、あとは最終の裏どりだけなのでは?」


「今回の犯行声明がインターネット上で出されたものならそうでしょうね」


「え、違うんですか? まさか……」


「そうよ。新聞の文字を切り抜いて作られた物理的な犯行声明が手紙で届いたのよ」


 花さんが端末に映し出された1枚の写真を見せてくる。


 うわー、古いドラマでしか見たことないやつだー。

 これマジですか。なんかの小道具じゃなくて?

 ……昭和?


「指紋などのチェックのために現物は研究室のほうに回してあるわ」


 それは警察の仕事なのでは?


「SNSで怪しそうな人物を見つけたとしても、犯行声明を送りつけてきた人物と同一であることの証明は極めて難しい、ですね」


 都が悔しそうに言う。

 だからやっぱり警察に協力を仰がないと解決できない問題なのではないでしょうか……?


「問題があるとすれば、私のSNSの分析が合法的な手段によるものではないということね」


 はい。知っていました!

 どうせなんかプロバイダーとかいろいろゴニョゴニョしてるんでしょう?

 たしかに……それは警察には情報提供しづらい……。


「もし警察に通報するのであれば――」


 お? 警察に行く? 正直に言っちゃう?


「1カ月で捜査は終わらんやろうし、少なくとも1月公演は中止になるやろうな……」


 ぐぬぬぬぬ。

 やはりそうなってしまうか……。それはいやだよ……。


「それよりも最大の問題が残っているのよ!」


 ウタさん、まだ何かあるんですか? これ以上の問題が⁉


「こんなことしてきたヤツを、この手で私刑にできないってことよ!」


 うわー。悪い顔ー。めっちゃ笑ってらっしゃるぅ。完全にアウトレイジの人じゃん!

 ウタさん……ウタ姐さん!

 あなたはいつからこんなに悪役が似合う人になってしまったのでしょうか……。


「それは半分くらい冗談やとしても、や」


 シオ……シオ姐さんも半分は本気なんですね。あなたもアウトレイジ側の人だったね。えげつないことしそう……。


「ま~何も問題がないっちゅ~ことを証明するのが一番難しいってこっちゃな……」


 うーん。悪魔の証明、ってやつかあ。


 仮に愉快犯だとした場合、犯行声明を出した時点で、犯人の勝ちはほぼ決まっているのだ。

 愉快犯はボクたちが悩み、どう結論づけるのかを待っている。それを見ている。それだけですでに犯人の目的のほとんどは達成されていることになるわけで……。

 犯人が負けるパターンは1つだけ。自分が犯人であることを特定されること。


 でもそれは本気で爆破しようとしている犯人の場合でも同じか。犯人を特定する。または犯罪を未然に防ぐ。もしくはその両方を満たさない限りボクたちは勝てない。

 

 どっちにしても分が悪すぎる勝負だよ……。


「わたしは、定期公演を開催したいです」


 レイが唐突にお気持ちを宣言する。


 でも確かにそうだ。そういうことなんだよね!


「ボクも予定通り定期公演をやりたい。そのために持ち物検査の強化や会場の事前チェックが必要ならそれもやる!」


「そうね。零と楓の言う通りだわ。私たちがやりたいかどうか、それははっきりと上の人たちにも知っておいてもらいたいわね」


 都の言う通りだ。

 上層部が、事実だけを並べて合理的に決定するというのは正しいことだろう。

 でも、ボクたちがどうしたいと思っているか、そのために何をしようとしているか、それは知っておいてもらいたい。

 その上で判断をしてほしい。


「わかったわ。あなたたちの気持ちもしっかりと報告しておきます。話はこれで終わりにしていいかしらね?」


 花さんの閉会の言葉。

 十分すぎる検討だったと思う。


 ボクたちは静かにうなずく。

 シオがホワイトボードに議論の痕跡を残さないように、ていねいにふき取った後、ボクたちは会議室を後にした。


 絶対定期公演やるぞ!


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