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第19話 オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

 もうオーディションまで2週間を切った。

 ……切ってしまったと言ったほうが正しい表現かもしれない。

 

 はたしてこのままで勝ち残れるのか。

 

 本音を言えば不安しかない。

 でも最初に見た彼女たちと比べれば雲泥の差。本当に同じ人物のパフォーマンスかと疑われるくらい上達している。

 なぜなら、組まれている練習プログラム、講師の質、ともに超一流だ。

 そのおかげなのだろう。日を追うごとにダンスも歌も形になっていくのを目の当たりにしてきた。


 でも不安しかない。


 プロの指導を受けて、それなりにはうまくなった。

 だけどそれは、ほかのオーディション参加者たちも同じ状況なのではないか、そう思ってしまう。

 

 ボクにやれることはないか。

 自主練の時間に隣で一緒に踊る。歌う。それ以外に何か……。



「あら、七瀬さん。難しい顔して、悩みごと?」


 声をかけてきたのは、アカリさんのバディ、マネージャーの後藤詩さんだった。


「セクシー姉さん!」


「誰がセクシー姉さんよ。私、七瀬さんより年下なのだけれど?」


 そう言って髪をかき上げる仕草が決まりすぎてて、もはや15歳は年齢詐称疑惑濃厚説。


「詩ちゃん!」


「そこまで距離を詰められると、さすがに違和感しかないわね……。そうじゃなくて、深刻な顔していたけれど何かあったのかしら?」


「あー、オーディションのことなんだけど――」


 これまで見てきたもの、感じたこと、そして今の不安を伝える。

 何かできることはないか、ボク一人で考えるより、マネージャー全員で考えるほうが良いアイディアが浮かびそうだ。


「技術だけではない何か、ね」


「うん、せっかくだからほかのマネージャーたちも呼ぼうか」


 市川さん、三井さん、レイにもメッセージを送る。

 みんなで攻略法考えませんか、と。



* * *


「つまり楓は、彼女たちにはオーディションを勝ち抜くために何かが足りないと思っているのね。それを見つけて、しかもこの2週間で身につけさせる必要がある、とそういうことを言いたいのかしら?」


 リーダーの市川さんがきれいに言いたいことをまとめてくれる。助かる。


「そんなら、うちがホワイトボードに書いていくね」


 書記の三井さん。絵だけじゃなくて字もきれいで読みやすい。助かる。

 

『第1回 全員集合だよ!マネージャー大作戦』


・オーディションを勝ち抜くためにたりないものを考えよう。


 大作戦。思いつくといいな。

 添えられたイラストは……戦車道のイメージなのね。


「それじゃあ、わたしはダウジングで……」


 レイ、それはなくしものの時では?

 ああ、変なこと言うからホワイトボードに「ダウジング」って書かれちゃった。


「ずばり、私は完璧さがたりていないと思うわ」


 完璧で本物のアイドルを育てる。

 セクシー詩ちゃんが公言しているいつもの目標だ。

 雰囲気だけはあるというか、言葉の奥が深そうだけど、今のところ何も読み取れていない。


「でも詩お姉ちゃん。完璧さって具体的には何?」


「だから誰があなたのお姉ちゃんなのよ。と・し・し・た!」


「でもセクシーでお姉ちゃんっぽいからなあ。泣きぼくろとか」


「わ、わたしのことも、レイお姉ちゃんって呼んでもいいんですよぅ」


 いや、そこ対抗すなっ!

 話がややこしくなる。


 ホワイトボードを見る。


------------

オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

1.ダウジング

2.完璧さ

3.お姉ちゃん

------------


もうわけわからない。書記の人選ミスかな?


「私は、熱血がたりないと思うのだけど!」


 “赤”のリーダー、まさかの熱血派。


「うん、熱血ね。市川さん、続けて?」


「楓、進行ありがとう。ハルを見てると思うのだけれど、何かキレイにまとめようとしているように感じるのよね。もちろんそれは大事。でも、アイドルのライブって、一期一会……パッションがもっと大事なんじゃないかと思って」


「たしかにぃ! ミヤちゃん良いこと言うやん。アイドルはパッション! リアルで見たい、リアルで会いたいと思わせてこそ完璧な(?)アイドルやと思うわ~」


 三井さんは興奮気味にそう言いながら、ホワイトボードに書いていく。


------------

オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

1.ダウジング

2.完璧さ

3.お姉ちゃん

4.熱血・パッション

5.リアルで会いたい

------------


「わたしは、“隙”が必要だと思います」


 レイが遠慮がちに小声で意見を述べる。


「隙? ガードが緩い的なこと? 週刊誌に撮られちゃうのは困る」


「かえでくん、茶化さないでください。完璧であることはおおいに賛成です。でも、それだけでは惹かれないと思います。そこに見え隠れする隙が必要です。人間味と言い換えてもいいのかもしれないです」


------------

オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

1.ダウジング

2.完璧さ

3.お姉ちゃん

4.熱血・パッション

5.リアルで会いたい

6.隙・人間味

------------


「守ってあげたい。そう思わせる弱さみたいなものなのかな。たしかにそれはわかるかも」


「……かえでくんがそうなんですよぅ」


「え? ボクがなんだって?」


「……耳掃除がたりていないようですね。今夜は覚悟しておいてくださいよぅ」

 

 レイの声、今度ははっきりと聞こえた。

 わーい、耳かきだ耳かきだー。


------------

オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

1.ダウジング

2.完璧さ

3.お姉ちゃん

4.熱血・パッション

5.リアルで会いたい

6.隙・人間味

7.レイカエ vs メイカエ

------------


 こらー。かわいいイラストで、エグイ大岡裁きのモデルに人を使うなー。


「わ、私はメイカエに一票で!」


「おすわり! 詩お姉ちゃんはちょっと黙って!」


「何よ? 意見くらい言わせなさいよ!」


「はいはい、みんな静かに。話を整理するわね」


 市川さんがホワイトボードを指さしながら、話を切り出す。


------------

オーディションを勝ち抜くためにたりないもの

1.ダウジング

2.完璧さ

3.お姉ちゃん

4.熱血・パッション

5.リアルで会いたい

6.隙・人間味

7.レイカエ vs メイカエ

------------


「アイドルとは完璧であるべきだ。でもそれだけではものたりなくて、リアルで会いたいと思わせるようなライブ感や情熱が見える必要がある。そして守ってあげたくなるような隙が見え隠れするとなおよい」


 まとめ助かる。


「なるほど。なんか見えてきたかも」


 譜面通りに歌えたり、振り付け通りに踊れたりするのは当たり前で、それは当然ほかのアイドル候補みんな準備してくる。


「となると、ライブならではの演出かな?」


------------

・間奏などフリーの振り付けの時に何を魅せていくか。

・曲中のファンサは準備してきたものではなく、本当にファンサービスになっているのか。

・曲間のMCはライブ全体を盛り上げる演出の一部になっているのか。

・とくにメンバーの仲の良さや程よい笑いを提供できているか。

・現場に足を運んでよかったと思わせるような、音源では得られない体験を与えられているか。

------------

 

 次々にアイディアが出て、ホワイトボードが埋まっていく。

 でも、これ全部満たすのって、めっちゃ難しくない?

 

「占いの結果によると、5人のコミュニケーションがカギを握っていると出ています」


「確かにわかるわ……。零の占いは当たっているわね……。5人がもっと仲良く、自然にお互いの良いところを引き出しあえる演出プランを――」


 市川さんが熱弁する。

 でも――。


「時間かけて話し合っただけで、良い演出プランって思いつくもんなん?」


 三井さんがホワイトボードに書きながらつぶやいた素朴な疑問。

 それなんだよね……。時間をかければ良いものができるわけじゃない。


「わたしの占いによると、もう1つ。ライバルの存在がカギを握っていると出ています」


「「それだ!」」


 ライブ感。対バン。MCバトル。


「ライバルこそが実際に見えて戦える、わかりやすい目の前の目標なんだよ。彼女たちに見えない敵と戦えるほどまだ経験値はないから、そこはリアルなほうがいいね」


 どこかにライバルのあてはあるかな。仲の良いほかのグループとかいればいいんだけど。ナギチあたりが知ってそう。


「つ・ま・り、こういうことやんな?」


 三井さんが、キュッキュッとペンを走らせて、ホワイトボードにイラストを描いていく。



『マネージャー vs アイドル』対バン大作戦!


 対バンは乙女の嗜み。

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