表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/331

第13話 ウタとアカリとウタの研究

「私、灯のことが好きだったのよ」


 それは知ってたよ。

 アカリさんと2人きりでいる時のウタは、とても楽しそうだった。今みたいにしかめっ面ばかりじゃなくて、自然な笑顔だったもんね。


「灯は私の理想のすべてを詰め込んだ存在だったのよ」


「うん……」


「外見も内面もスタイルも、話し方や笑い方、食事の仕方やスキンシップの取り方、全部全部、私の理想を詰め込んだの」


「うん……」


「麻里さんがね、目的さえ見失わなければ私の好きにして良いって、そう言ってくれたから、思う存分、本当に好き勝手したわ」


「うん……?」


 おや? 雲行きが怪しいぞ?


「私って見た目が老けてるでしょ。そのせいでずっと同級生たちからは年上扱いされてきたのよね。でも本音は甘えたかったのよ。私、本当はしっかりなんてしてないのよ? ずぼらだし、がさつだし。だから、ただひたすら甘やかしてくれるような、そんな恋人がほしかったの」


「恋人……」


 やはりアカリさんは恋人だったのか……。


「でも吸血鬼は処女じゃないといけないから」


「また吸血鬼の話……」


 最近のブームってわけじゃなくて、昔から吸血鬼にハマってたのかな……。


「そうではなくても男は汚らわしい存在よ。視界に入るだけで吐きそうになるわ」


 またー、極端だなあ。

 たまにそういう女子っているけどさあ。


「麻里さんが私のことを評価してくれて、プロジェクトチームに入れてくれたのがとってもうれしかったの。一生ついていこうって思ったわ」


 うっとりした目で虚空を眺める。

 もしかして、麻里さんのことも好きなのかな? 惚れやすい性格?


「プロジェクトチームっちゅ~のは、麻里さん率いる脳研究のチームのことやで。チーム内のスタッフは女性しかおらんねん」


 脳のデジタル化と意識のアップロードの研究。

 永遠の命の研究、か。


「私が大学1年生の時に発表した、モデリングアプローチの研究結果が麻里さんの目に留まって、クラスタリング分析のエンジニアとしてチームに参加することになったのよ」


 何を言っているかはわからないけど、とってもすごそう!

 ウタってやっぱり頭良いのね。ボクより年下なのに大学……飛び級? まあ、普通に年齢詐称かな。老けてるし。


「研究チームに入って最初は驚いたけれど、普通に日本では……ううん、おそらく先進国どこにいっても認められるはずの研究をするチームだったのよ。チームメンバーの情報も非公開だし、もちろん研究結果がどこかに発表されるということもない、極秘の研究プロジェクトだったわ」


 なんとなくは察していたけれど、はっきり言われると鳥肌が立ってくる。

 完全に法外の研究。


「私が参画した時には、すでに動物実験のフェーズは終えていて、人間での実験に入るところだったわ」


 人体実験、か。

 人の尊厳、なんて言い方をしたら偉そうに聞こえるだろうけれど、人間が人間を使って研究をしている。それは本当に許される行為なのだろうか。


「脳死した人間の脳を生かしたままにしての研究よ。20年近く進んでいなかった研究だけど、私が入ったことで一気に進んだから、今は最終フェーズまで来ているけれどね」


 20年の時を一気に。それだけウタは優秀なんだね。

 

 つい気になって、ちらりとシオの顔を見てみる。

 シオはそのチームでいったい何をする人なんだろうか。


 シオはボクが視線を送ったことに気づいたようで、自分のことを指さした。


「うち? うちはお茶くんだり、へらへらしたり、マンガ描いたりする仕事やで」


 そんなポジションは研究チーム内に存在しないでしょ……。


「まあ、今はうちの話はええ。実験段階に入った時、ウタちゃんがAIの教育を任されたわけや」


「AI?」


「……ん、まあ、灯さんのこっちゃな」


 そうだった。アカリさんはデジタル化した脳データの一部とAIプログラムで構成されているって麻里さんが言ってたっけ。正直今でも信じ切れていないけど。だって、アカリさんはプログラムには見えなかったよ。あまりに自然過ぎたし。


「人としての行動の仕方、ものの考え方、目的の刷り込み、それらは私の担当だったわ。毎日、私と灯は会話をしたわ」


 教育していく中で、別の感情が生まれてきた。そんな感じだろうか。


「教育の仕方は任されていたから、徹底的に私の好みになるように育て上げたのよ」


 あ、最初からでしたか。

 光源氏計画も真っ青ですね。


「無理を言ってVクローン体のほうにも口を出させてもらって、あの美しい体を作り上げたのよ。見た目もすべてにおいて完璧よね……。私って天才だわ」


 完全に自分に酔ってらっしゃる。

 ウタってナルシストなのかな。まあ、ナルシストだよね……。


「そうして生まれた私の理想のすべて。灯が肉体を得てからの毎日は、それはもう楽しくて楽しくて仕方なかったわ」


 自分の理想の存在と寝食を共にする。

 それは夢の世界だろうね。


「目的からも外れていなかったし、この蜜月はずっと永遠に続くものだと思っていたわ」


 しかし突然、アカリさんは消えてしまった。


「終わったのよ。……すべて楓のせいでね」


 ああ、すべてボクのせいで……。

 ボクがメイメイの補佐役にふさわしいと。アカリさんはボクにその役目を引き継いで消えていったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ