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第12話 吸血鬼は実在するか

「急にごめんなさい。でももう落ち着いたわ……」


 ウタが唇で軽くボクの耳を擦るようにして囁いてくる。口では謝っているが、抱きしめたまま体を離してはくれない。なぜかウタはそのまま立ち上がった。


「えっと?」


 普通はそのセリフって、抱きしめるのをやめる時に言うやつじゃないの?

 ボクはなんでそのまま抱き上げられてるんですかね?


「困ったわ。私たち体がくっついちゃったのかしら。離れないわ。困ったわ」


 そう言いながら、首筋に鼻をこすりつけ、さらに強く抱きしめてくる。香水ではないウタの匂いが鼻腔をくすぐる。ぴったりとくっついた胸からじんわりと体温も伝わってくる。


 いや、ちょっと。……まあ、別に良いけどね。抱っこされるのは良いんだけど、急に距離近くない?

 それと心臓の鼓動が伝わってくるけどやばいよ? 破裂しそうなくらいの速さで鳴ってるけど……爆発する前に一旦座ったほうがよくない?


「このまま……ちょっとだけ良いかしら……」


「まあ……良いけど。って痛っ! マジ何⁉ 急に何⁉ 痛いよ!」


 ウタが突然ボクの肩口に歯を立てたのだ。

 甘噛みなんてやさしいものじゃない! それはもう大胆にガブリと。歯形がつくくらいの強さで噛まれていた。現在進行形で噛まれています!


「少し血を採取しようかと」


「吸血鬼かっ⁉」


 暴れて無理やり振りほどく。

 痛った……。ギリギリ血は出てないけど、完全に内出血した……。まったくなにしてくれてんのさ!


「吸血鬼は処女の生き血しか吸わないのよ」


 処女……。間違っちゃいないけど、生き血云々は絶対間違ってるから!


「ウタちゃん。それはうちの創作やから……」


 マンガの話をホントに信じる人っているんだ……。

 そういえばウタって黒い服ばっかり着てるし、八重歯も牙に見えなくもないし? 色白で細身で顔は大人っぽくてセクシーだし、黙ってたら吸血鬼って雰囲気はあるか。


「ほんまの吸血鬼は、真祖に噛まれないとなれないんやで」


 あ、ここにも物語の世界から抜け出てこれてない人がいたわ。吸血鬼なんているわけないじゃない。


「あれ? その顔、カエちん知らんのか? 吸血鬼はほんまに実在するんやで?」


「え、マジぃ?」


 吸血鬼って架空の生物じゃないの?


「ほんまにおるで。有名になったドラキュラ伯爵は脚色されまくっとるけどな」


「黙っていたけれど、実は私、吸血鬼の末裔なのよ」


 ウタがこれ見よがしに八重歯を見せつつにやりと笑う。


「え、マジ⁉」


 って、ちょっと信じかけたけど、絶対ウソだわー。

 冷静に考えればそんなことあるわけないし、ウタのその感じ、ただの中二病発言じゃん……。


「わかったわかった。ウタは吸血鬼なのね。でもボクは吸血鬼になりたくないから、勝手に血を吸わないでね?」


 吸血鬼にならなくても、噛まれたら痛いし。さっき噛まれたところが痛い……。


「いやよ。楓は私のものだから、血を吸おうが何しようが私の好きにしても良いのよ」


 もう無茶苦茶な理論だな……。嫌ったり私のものって言ったり、振れ幅が広すぎる!


 ねぇ、そろそろギブアップなんですけど……レイさん助けに来てくれないの?


 あれ? 無視?

 このままだとボク、血を吸われてウタのものにされちゃうけど……。


 うーん。何も応えてくれない。

 こんな時には絶対助けてくれるはずのレイが来てくれない……ボクかなしいよぉ。


「ウタちゃん。カエちんの血を吸う前にやることがあるやろ?」


 いや、前も後も、絶対血は吸われたくはないけど。

 まあいいや。話を聞こう。


「血を吸う前にやることって何?」


「そろそろ本題に入ろうやないのってこっちゃ。ウタちゃんが何でマネージャーをやめるなんて言い出したのか、や」


 本丸。

 聞きたくて仕方なかったけれど、ウタが言いだすまで待っていた話題だ。

 シオはその切り込みづらいところに、いとも簡単に踏み込んでいった。


 ボクのことが気に入らなくて話もしたくないのかと思っていたけれど、今はそうでもない雰囲気になっている。


「その話ね……」


 ボクをソファーに座らせると、ウタ自身もその隣に腰掛けた。

 やっと解放された……。


 一時の間をおいて、遠慮がちに手を重ねてくる。ボクはそれに応え、指を絡めて握り返す。手のひらにじんわりと汗をかいていた。

 震える手から緊張が伝わってくる……。


「何から話そうかしら。……そうね。私、灯さん……灯のことが好きだったのよ」


 ウタは天井を見上げながらそう切り出した。 

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