第4話 『メイメイのゲリラ雷雨』第15回目1
「さあ今夜も始まりました~。DJ Moonの『メイメイのゲリラ雷雨』第15回目ですよ~」
ムーン誰? 知らんDJ出てきたぞ。
相変わらず毎回違う出だしだなあ。
もういっそのこと100回全部違うアイサツにするとか?
“おっすー”
“ムーンおっす!”
“メイメイちゃーん”
“今日はなんだか楽しそうだね”
“いつも楽しそうだが?”
“15回目おめでとう!”
「今日も集まってくれてありがとう~。みんな大好き~!」
メイメイのテンションが高いね。
まあ、そりゃそうか。
なんたって今日はゲストがいるもんね!
「今日はみんなに紹介したい人がいるの~」
“まさか婚約者⁉”
“お父さん許しませんよ!”
“弟という名の恋人をねw”
“それはもっとダメだろw”
“シェフ?”
“そろそろシェフゲストだろ”
“シェフに会いたい”
“シェフの料理食べたい”
お父さんポジの人多い。メイメイのターゲット層ってそっちなの⁉ いや、オンライン個別トーク会ではそんな高い年齢層の人いなかったよね。
まあ、あとはシェフ人気高いな。
謎多きシェフ。食堂にいるおばちゃんのはずなのに凄腕料理人。若い頃は世界の大陸を渡り歩いて料理の修業したとかなんとか。
普通のおばちゃんなんだけどなあ。
でも、残念!
ゲストはシェフではないのだよ。
「スペシャルゲストは~、みんな大好きマキししょーで~す♡」
やったー! マキだー! マイベストフレンド!
「ど~も~。さすらいの料理人マキちゃんだよ~! みんな初めまして~」
マキが頭を掻きながらフレームインしてくる。
テンションが若干低め。オフモードか?
“お、マキちゃんだ”
“ハロウィン以来だ!”
“やっぱりめちゃんこ美人”
“2人並ぶと華がある”
“服もオシャレ”
“さすが女優さん”
“なんでししょーなんだっけ?”
「ししょー! ゲスト出演ありがとうございます~」
「かわいい弟子が毎日配信続けてると聞けば、ししょーのマキちゃんが出ないわけにはいかないっしょ!」
腕まくりしてガッツポーズ。
やっぱりテンション高かったわ。最初の入りは……照れかな?
「ししょーは、私の演技のししょーでもあり、このゲリラ雷雨配信のアドバイスをくれた人生のししょーでもあるのですよ~」
「人生のししょーときたか! ちょっと照れ臭いにゃ」
マキがメイメイの頭をわしゃわしゃと撫でた。
あいかわらずメイメイはマキに心酔してますなあ。
マキもまんざらでもない感じがとても良い関係に見えるね。
「ししょーは何でも教えてくれます~。演技の指導も、脚本の手直しも、おいしいお肉も!」
「あ~、この間のお肉はおいしかったね。みんなで食べると高いお肉はさらにおいしく感じられる♡」
“肉だと!”
“高いお肉!業界人っぽい!”
“お肉食べたい”
“NIKU”
“お肉ください(ししょーって呼んでいいっすか)”
みんな肉に食いつきすぎ。
いや、マジでおいしかったけど。あんな蕩ける肉、これまでの人生で食べたことないもん。やばいよ、肉! 芸能人ってあんなところに毎日通ってるのかと思うと怖い。
「そうそう、なんでししょーにお肉を食べさせてもらったかというと~」
「この間、カエデとレイちゃんと3人でうちに遊びに来たんだよね」
「紅茶もおいしかったです~」
本格的に淹れた紅茶ってあんなにも香りが良くて。まだまだ知らないことがいっぱいだなあ。
「何かにこだわりを持つ。これも演技のためには必要なことだからね。なんとなく生きていたら良い役者にはなれないぞ」
「勉強になります~」
“おっす!勉強になります!”
“良い話”
“マジのちゃんとしたししょーじゃんw”
“女優スゲー”
“紅茶一杯で差がつく!”
“役者ってすごいのな”
“俺役者になりたいんだけど”
「役者はね~、なりたくてなるものじゃないんだよ。演技が楽しくて仕方なくて、気づいたら、あ、わたし役者だったわ。って感じだよ。わかるかにゃ?」
“なるほどわからん”
“おっす!勉強になります!”
“深すぎてわからねー”
“女優スゲー”
“ちょっとかわいさに見とれてて聞いてませんでした”
“生まれた時から役者”
“お肉ください”
まじめなやつとふざけようとしてるやつが半々くらい。
まあ、ここは演技指導の場ではないからね。マキが気を悪くしなければ良いけど。
「演技は別に高尚なものじゃないんだよね~。普段みんながしている行動も基本的には演技なんだよ。人に見せる顔。親兄弟に見せる顔。学校の友達に見せる顔。先生に見せる顔。部活の先輩に見せる顔。全部違うはずだよ」
多かれ少なかれ、人は演技をしながら生きている。
少しでもよく見せよう。相手に合わせようという気持ちが働く。それがコミュニケーションを円滑にしている側面もあるから、別に全部が全部ウソをついているわけでも、悪いことをしているわけでもない。
「むずかしいですね~」
「メイメイちゃんはみんなに同じ顔を見せすぎなのさ。ちょっと特殊な例だから……。ちょっとは日常でも演技していこうね」
“メイメイw”
“やっぱりいつも素かw”
“わかってたwww”
“そこが君の魅力さ”
“天真爛漫”
“まさにそれだw”
“ずばり言い当てられてて草”
「逆にいつもフラットだから、役を前にした時に仮面をかぶりやすいとも言える、かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どっちですか~」
「まだわからないよ。メイメイちゃんの役者人生はこれから始まるんだからね」
「がんばりますよ~」
そう。メイメイはまだ何者でもない。
真っ白でニュートラルで、今からどんな存在にだってなれるんだ。
「ところで、この間遊びに来た時の話はしないの?」
マキがうまく誘導してくれる。
どっちがパーソナリティーなのやら。
「そうでした~。私たちはただ遊びに行ったわけじゃないんですよ~」
そうだね。少し定期公演の話にも触れておこう。