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第75話 1stシングル『The Beginning of Summer』発売記念イベント前編

 本番1分前。


 舞台横、連絡通路の鉄扉の外。

 裏方の指揮にまわっているシオとウタを除く8人。そしてそれを見守る花さん。


「いよいよ待ちに待った日が来たわ。初の単独ミニライブよ。パフォーマンスはたった3曲。だけどそこに、私たちのこれまでをすべてを込めて! 私たちの最高を見てもらいましょう! Call Enchant! We Can! We Can! We Can! We Can definitely do it!<私たちなら絶対にできる!>」


 ハルルの言葉にみんなの気持ちが重なっていく。

 右手にはブイサイン。ボクたち8人で星形を作る。シオとウタの分の想いも乗せてダブルスターマークが宙を舞う。


「Are you ready? Our goal is to make lots of people smile. Let's enjoy the stage as usual today!<私たちの目標はたくさんの人を笑顔にすることよ。さあ、今日も普段通りステージを楽しもう!>」


『We are ≪The Beginning of Summer≫!!』


 Overtureスタート。花さんが力強くうなずき、鉄扉を開け放つ。


 爆音で鳴り響く序曲に合わせて、スクリーンにメンバー紹介動画が流れる。

 耳、肌で会場のボルテージが一気に上がっていくのを体感する。

 身震いするほどの緊張感。


 ヘッドセットにウタから「Go」の合図がかかる。

 ≪初夏≫の5人が真っ暗闇の中、舞台へと飛び出していく。


 会場全体が大狂乱に包まれる中、各メンバーはセットポジションについた。


 さあ、いよいよ始まる。


 1曲目は『The Beginning of Summer』だ。


 前奏ともにシオの作ったプロジェクションマッピングが会場全体に投影される。

 舞台も観客席も区別なく、すべてが『The Beginning of Summer』の世界に包み込まれる。


 デビューオーディションの前にボクたち≪ペンタグラム≫がパフォーマンスに使った映像に手を加えたものだ。


 懐かしいね。

 あの時と比べると、ずいぶん歌は安定してきたし、ダンスにも迷いがなくなってきたね。


 今日は単独ミニライブ。

 ここはホームだ。

 会場の端から端までみーんな≪初夏≫のファンだけ。どこにアピールしてもみんな味方だね。たくさんの「好き」を振りまいて、この特別な時間を共有しよう。


 熱狂。

 一体感のある小さな箱。

 これぞライブだ!

 あの日のバーチャル映像とは違う、本物の熱気がここにはある。

 

 ボクは帰ってきた。



 緊張の1曲目が終わり、暗闇の中、拍手が鳴り響く。そして一瞬の静寂が訪れる。

 ライトアップ。


「みなさん、こんにちは! 私たち~」


「「「「「≪The Beginning of Summer≫で~す」」」」」


 赤、緑、ピンク、水、青の5色に光るペンライトが大歓声とともに振り回される。……ん、黄と紫がちょこちょこ混じってる?

 

「今日は私たちの1stシングル『The Beginning of Summer』発売記念イベントにご参加いただきありがとうございます!」


 ハルルが深々と頭を下げる。


「今日のミニライブは、抽選で選ばれた200名のみなさんだけが参加できるプレミアムなライブなんですよね! みっちゃん?」


「さっちゃん、そうですわ~。昨日までオンライン個別トーク会でも『当たったよ~』といううれしいお知らせをしてくださる方もいれば、『残念、はずれちゃったよ~』という悲しいご報告をくださる方もいらっしゃって。わたくし、みなさまとお会いできるのを楽しみにしておりましたのよ!」


 キャー海桜ー!

 悲鳴のような声援とともに、緑とピンクのペンライトがひと際輝き、会場をウェーブする。


「私のファンの人たちは~、みんな当たったって言ってましたよ~。ね~♡」


 メイメイが観客席にレスを送ると、青いペンライトが一斉に光りだす。


「え、サツキ? それってどういうことなの⁉」


 素で驚くハルル。

 メイメイのこのトークはアドリブだ。そしてハルルはアドリブに弱い。いや、リアクションが素だからおもしろいし、逆にアドリブに強いって言えるのかな。


「チケットが当たる必勝法を伝授しましたからね~♡」


 ね~♡

 調子に乗る青いペンライトたち。


「なにそれ~。私も知りた~い! 次のミニライブがあったら会場全部水色に埋めたいも~ん」


 がんばるナギチ。

 それはもはや個人の単独ライブですね。今のところ予定はないけど。


「まずはシオちゃんが販売しているいかがわしい壺を購入します」


 あの壺!


「ちょっとサツキ。それはどうなの……しかもいかがわしいって言っちゃってるし」


 会場の一部だけ異常な盛り上がりを見せる。

 おそらくメイメイのファンはこの話を知っている反応だな。

 さてはボクが映画の撮影をしている時のオンライン個別トーク会では、シオの壺のネタで盛り上がっていたな?


「冗談です~。ホントは~、左手首に青いペンでハートマークを描いて~、3日間消えないようにしながら『当たって~!』ってお願いをするんですよ~」


 ふむ?

 なんかどこかで聞いたことあるような……?


「サッちゃん? それって恋のおまじないじゃなかった?」


 お、ひさしぶり! ナギチがツッコんだよ!

 そうだそうだ。おまじないだ。たまにレイがボクの手首に落書きしてくるやつ。


「そうですよ~。だって、そのおまじないで私と両想いになった人が今日この会場に来れてるってことなんですよ~」


 おお~。と感心したような歓声と拍手が鳴り響く。

 今の話、うまい、のか。うん、まあなんかいいかもしれない?


「サツキ、それステキね! 私もやってみたい! みんな~、これから抽選のものがある時は、手首にハートマークを描いてお祈りしよ~!」


 ハルルの呼びかけに、観客席が笑いあり、同意ありの返事が返ってくる。

 ちょっとおもしろいな。

 こうやってアイドルグループのローカルなルールは作られていくんだね。



「さて~、お次の曲はみんなお待ちかねのあの曲! 秋も深まってきてそろそろ終わりの季節かな? いやいやまだまだおいしいぞ。『サツマイモラブ』。立ち上がれ~! みんな踊り狂う準備はできてるか~⁉ いくぞ~!」


 ハルルが会場を煽る。

 ウーミーとサクにゃんが中央にポジションを取った。


 ミュージックスタート!

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