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第17話 アイドル撮影会

「アカリちゃん今日もかわいい〜」


 メイメイが目を輝かせている。

 

 正直意外だった。

 メイメイはああいう服装も好きなのか。ファッションに興味があるとは知らなかったな。

 SNSに載せてたのは食べ物ばかりで、自撮りはほぼないし、たまにメンバーと写っている時もシンプルな服ばかりだったから。


 でもアカリさんって……一体誰なんだ。


「サッちゃんありとまと。あとでおすすめのお店教えるね。今日はね、んふふっ、マネージャーさんたちとお会いするから、アカリ気合い入れちゃった♪」


 アカリさんは立ち上がって、フリフリのスカートを広げてお辞儀した。

 うん、服もそうだけど、仕草も板についていてとてもかわいいと思う。一部に熱狂的な需要はある、売れると思う。

 ライブや握手会だけがアイドル活動のすべてではないし、オフの時間をどう魅力的に見せるかがとても重要。実際SNSの写真や動画から興味を持ってファンになる人も多い。


「アカリのマネージャーさんはあなた?」


 正面に座る後藤さんを見つめて言う。

 後藤さんは手に持っていたコップをテーブルに置き、右手を小さく上げた。


「ええ、そうみたい。私は後藤詩。よろしく」


「アカリは灰原灯(はいばらあかり)って言います!」


 灰原灯さん。

 オーディションの情報は公開されていなかったはずだし、ボクの知らない事情があるのかもしれない。≪初夏≫にはいないはずの、幻の“黄”のメンバーなのかな……。


「マネージャーさん、よろしくピーチ♪」


 アカリさんは胸の前にハートマークを作ってアピール。

 もう自分の挨拶考えてるのかあ。すごくいいね。ボクはどっちかっていうと自然なほうが好きだけど、爆レスもらえたら心は揺らぐ……よね? 揺らがないけど!


 そんなことを考えながら、ちらりとメイメイのほうに視線を送ると、ちょうど目が合ってしまった。

 

 メイメイが小さくウインクしてくる。

 そしてすぐにボクから視線を外すと、横を向いてサクにゃんと何やら小声で話し始めた。


 好き。

 

 普段塩対応でレスを送るような子じゃないからこそ、これは勘違いしちゃう……。

 いやいや、ボクはガチ恋とは違うからね!

 あくまで一般論としてギャップはとてもいいものだということを言いたいだけで、決して不純な気持ちからではなく。



「あのっ! 三井さん……はサクラのマネージャーさんですよね?」


 サクにゃんが勢いよく立ち上がる。少し声が裏返っていて、緊張気味なのが伝わってくる。なぜかメイメイがうれしそうに小さく拍手していた。


「あ、うち、桜さんのマネージャーさせてもらいます~。よろしくね」


 三井さんはニコニコしながら手を振って応えた。


「イントネーション! 関西の方ですか? 三井さん背が高くてかっこいいです。あの、栞さん……って呼んでも良いですか?」


「ええよ~。うちも桜さんって呼ぶね。でも背が高いとあんまり得はせんよ~。初対面だとバレー部かバスケ部ですか?って聞かれるし、家でマンガ描いてます~っていうと、背高いのにもったいないって。もったいないってなんなん?」


 三井さんはケラケラ笑う。

 170cmくらいあるのかな。しかし身長が高いと苦労することもあるんだなあ。

 まあボクも自分よりは少し低いほうが好きかも……ああ、今ってボクのほうがだいぶ小さいんだ……。


「ええ! マンガ描いてるんですか⁉ サクラもマンガよく読みます! どんなの描いてるんですか?」


「ちょっと、その……レンアイモノ……かな?」


 三井さんは視線をさまよわせると、オレンジジュースを一気飲みした。

 レンアイモノ、ね。ははーん、これはあっち系のやつかな。

 

「恋愛もの大好きにゃん……です。サクラは、身分違いの恋とか、転生貴族ものが好きかな!」


「あ、うん、ええね。貴族の五男に異世界転生して、チート能力で無双していたら、立場を気にした本家の長兄に命を狙われるんだけど、戦っているうちに恋が芽生えて――ああ、描きたい!」


 何か作品の構想が浮かんだようです。先生の次回作にご期待ください。


「五男? 長兄? あれ?」


 サクにゃんの頭の上にはハテナマークが浮かんでいそう。

 それは気にしちゃいけないにゃん。


「失礼、取り乱しました。そうですね、こういうのも得意です。少し時間をください」


三井さんはそう言って、画用紙に何か描き始める。視線はサクにゃんと画用紙をいったりきたり。


「もしかして、サクラを描いてくれるんですか? うれしいにゃん!」


 サクにゃんは前髪を整えたり、ネコミミをセットしなおしたり、ああでもない、こうでもない、と落ち着きなくポーズをコロコロ変えている。

 それだと三井さんが描きづらいんじゃ……。



「はい、できたで~」


 ものの5分。

 これは⁉


「わー、サクラ……と灯さん?」


 サクにゃんの肩にアカリさんがあごを乗せ、お腹に手をまわして抱きしめている。

 

 百合百合だあ!


「え~、アカリも描いてくれてる♪ すっごくかわいい! えーと、こんなふう、かな?」


 アカリさんがサクにゃんの後ろに回ってイラストの構図を真似る。

 イラストと唯一違うのは、サクにゃんの顔がトマトみたいになっているところだけ。

 

 これは素養がなくても……きますわ!


 カシャカシャカシャッ。

 激しい連射音。


 三井さん……と後藤さんが写真を撮りまくっていた。

 そうですか、あなたもでしたか。


「これはまずいで! ハルにゃん! うちらも負けてられへん!」


「え? あ、はい⁉」


 ナギチが困惑しているハルルの肩にあごを乗せて強制合体!

 

「え、ちょ、キャッ」


 お腹に手をまわしてボーズ……をとらずに、そのままくすぐり始める。

 何やってんだか。


「え~ずる~い。私も~」


 メイメイがナギチの後ろに回ってお腹をくすぐり始める。

 いや、ほんと何やってるの。……カシャッ。



「すみません。遅くなりました。……これはいったい何が?」


 今ちょうど会議室に入ってきたばかりのレイには、この惨劇の理由が理解できない様子でキョロキョロしていた。

 

 まあ、そうだろうね。

 ボクもどうしてこうなったかわからないよ……。


「あら、零、お疲れさま。見てわからない? アイドル撮影会よ」


 花さんが涼しげな表情でそう答えた。

 放任主義! そしてポッキーの一気食いやめてください!


「零ちゃん……こっち、こっち!」


 若干青ざめた表情をしている市川さんが、レイに向かって激しく手招きしている。

 唯一の常識人っぽい市川さん、これからこの動物園を頼みます……。

 

「その、アイドル撮影会ってなんです?」


 市川さんが「それはね……」と、耳打ちで事情を説明し、「なるほど」とレイがうなずいた。

 まあ、そういうことなんですよ。でも尊いのでこのまましばらく観察しましょうか。



「んふっ、ねえねえ、カエちゃんはどの子が好きなの?」


 え?

 振り返ると、いつの間にかアカリさんが後ろに立っていた。

 おお、間近で見るとでかい。


「そかそか~。サッちゃんなんだ。バディでよかったね♪」


 そう言いながら、やさしくボクの肩をもんでくる。

 まだ何も言ってないですけど?


「でも~アカリ的には~こういうのも、おもしろいよねっと。はい、ドーン!」


 ふいに背中を強く押されて、ボクは前につんのめる。


「えっ、あっ、痛った!」


 勢いよくレイの背中に顔からぶつかってしゃがみこむ。鼻が、鼻がひりひりする。

 何するのさ、アカリさん?


「痛いです……。かえでくん、大丈夫ですか?」


 レイが振り返り、ボクの様子を心配そうにみてくる。

 うん、頭をヨシヨシしないで? 痛いのは頭じゃなくて、鼻です。


「あちゃ~、しっぱいしっぱい。よいしょっと♪」


 痛みでしゃがみこんでいたボクは、アカリさんによって強制的に持ち上げられ、レイの背中に下ろされた。


 反射的にレイの首に抱きつくと、まるで親子ガメのようなおんぶ状態でフリーズ。


「はい、完成っと♪」


「え? なに?」


 親ガメのレイ困惑。

 子ガメのボクは静かに目をつぶる。

 レイのうなじから漂ってくるひどく甘い香りに蕩けてしまいそうだ……。

 スーハ―スーハ―。


「は~い、みなさ~ん。寄ってらっしゃいな。新しいモデルさんたちはこちらで~す♪」


 アカリさんが呼び込みを始めている。

 そして、おんぶガメ状態で固まったままのボクとレイ。


「尊い! 尊いですわっ!」


 みんな悪ノリしてカメラを構える。


「え~ずる~い。私も~」


 ノリが違う約1名によって、ボクとレイは押しつぶされて床に突っ伏した。

 もう好きにして……。

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