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第73話 いい日になりますように

 11月11日。

 例のごとく早朝。みんなで東京公会堂に向かう事務所のバスの中だ。


「とうとう来たね」


「きました~! 年に一度のポッキーの日です~」


 いや……メイメイさ、ポッキー買いすぎだから。

 1、2、3、4……何種類あるのこれ。

 見たことないパッケージもいっぱいだ。もしかして、ご当地モノも取り寄せた?


「ライブの前にあんまり食べ過ぎないでね? お腹痛くなっても困るし」


「ポッキーは別腹です~」


 甘いもの全般じゃなくて、ポッキーだけ別分類な人、初めて聞いたわ。

 まあほどほどにね?


「いよいよだね。ハルル」


「え~なにこれ⁉ こんな細いポッキーあるの⁉」


 おいリーダー。


「え、あ、つい。だってこんなに種類があるのよ? すごいわ!」


 ポッキー食べていても良いけれど、ちゃんと話は聞いてね?


「まだ寝てる人もいるから静かにしてね」


「はい、ごめんなさい……」


 ハルルが小声で謝り、下を向きながら極細ポッキーをポリポリする。


 早朝のためか、メンバーの半分くらいは寝ている。きっと仕事で疲れているメンバーも多いだろうし。そっとしておこうね。


 CD発売とミニライブの発表から約1カ月。長いようで短かったなあ。

 昨日はとうとうCDが発売されたし。

 各バディごとに分かれて首都圏の系列店を見に行って、ポスターにサインして回ったりして、平日なのにわりと忙しい1日だった。

 夜はオンライン個別トーク会のラストもあった!


「ハルルは昨日どこまわったの?」


「ショップのあいさつ回り? 私たちは全部都内だったわよ」


「さすが人気ユニット! ボクたちは埼玉、山梨、あとちょっとだけ神奈川のお店もあったかな」


 せんべい、うどん、馬刺し、かまぼこ。大変美味しゅうございました。


「あ、メイメイ! まさかその時にポッキーを⁉」


 ちょくちょくいなくなって買い物してると思ったんだよね。特産品やお土産を買ってるのかと思ってた。


「ポッキーはお土産物屋さんには売ってませんでしたよ~。これはししょーからもらいました~」


「え、マキが? なんでまた?」


「今日初の単独ライブだから『いい日になりますように』って11箱くれましたよ~」


 なるほど、11。いい日か。

 マキ、めっちゃ良い人だ! ちょっと感動しちゃった。


「カエくんを主人公にした小説を書いて渡したら喜んでくれましたよ~」


 ん?

 ボクを主人公に?


「えっと、メープルちゃんの冒険的なやつ?」


 シオのマンガのノベライズなのかな?


「ないしょです~」


 メイメイがポッキーをかじると外の景色を眺めだした。


 怪しい。

 何かとても嫌な予感がする……。


「サツキ。その小説、私にも読ませて~」


 ハルルも興味を持った模様。

 どんな話なんだろう……。


「これはししょー専用なので……」


 メイメイは外の景色を見つめたまま、ポッキーを3本一気にかじった。


 とても怪しい……。


「何でボクたちには見せられないのかな? 減るものじゃないし、良いでしょ?」


「これはししょー専用で、ししょー以外が読んでもおもしろくないので……」


 うーん。ますます怪しい。

 

「ボクが主人公なんでしょ? じゃあボクが読んでも良いよね?」


「ししょーの好きな設定で書いたししょーが理想とするカエくんなので、実在の人物や団体などとは関係ありません……なのです」


 ははーん。

 だいたいわかってきたぞ。


「マキに頼まれたからって、エッチなのはダメだよ?」


 絶対エッチなやつ書かされてるでしょ……。


「ちょっとサツキ! そんなのダメよ! 私が確認するから見せなさいっ!」


 ハルル、シートベルト外して身を乗り出してくるのはやめよう? 普通に交通ルール違反だからね?


「まだ序章と第1章だけなので、そんなにエッチじゃないです~」


 ……まだって言ったな?


「ということはそのうち……。まったく。ホントどんな話を書いているのさ?」


 白状しなさい。


「……レイちゃ~ん。カエくんがいじめます~」


 メイメイが前の座席をガタガタ揺らし始める。


「あ、ちょっと。レイは寝てるんだからそっとしておいてあげてよ」


 何やら昨日の夜は遅くまでナギチの振り付け特訓をしていたみたいで、ちょっと寝不足みたいだから。


「かえでくん。わたしはずっと起きてますよ。さきほどからずっと、まきさんにお借りした小説を読んでいました」


 レイが座席の上から顔を覗かせる。


「それって……」


「はい。『王国騎士団長に転生した俺。姫と駆け落ちして辺境国の国王になったが、平和すぎて体が鈍って仕方ない。準備運動ついでに軽く世界征服でもしようと思う』を読んでいました」


 なんじゃそりゃ。


「それを……メイメイが?」


 マキのリクエストで?


「でもレイちゃんなら読まれても良いかな~」


「なんで⁉ なんで私はダメなの⁉」


 ハルルが食いつく。

 まあそうなるよね。仲良さそうなのにいじわるしてるの?


「だって~、ハルちゃん……お姫様のほうが良いでしょ~?」


 うん? お姫様のほうがって何?

 メイメイの言ってる意味がよくわからなかった。


「それはどういう意味かしら?」


 ハルルの頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいるみたい。どういう意味かしら?


「だってハルちゃんは、カエくんが王国騎士団長で、ハルちゃんがお姫様で駆け落ちしたいって思ったでしょ~?」


「え、ええ。その作品のタイトルならそう……なんじゃないの?」


 ハルルが遠慮がちに同意する。

 うん、まあ、何かおかしいところがあったかな?


「ししょーもレイちゃんも逆なんですよ~」


「逆とは?」


 ちゃんとした説明を求む。


「かえでくんが騎士団長様で世界征服するなんてありえません。かえでくんにふさわしい役どころは。もちろん騎士団長様に一目惚れしたお姫様のほうですよ」


 え、ええ⁉


「その作品って、ボクがお姫様役なの⁉ マジで?」


 さすがにその発想はなかった……。

 マジか……。


「ししょーもレイちゃんもお姫様にメロメロです~」


 その後、ライブ会場につくまでの間ずっと、メイメイとレイによる小説のあらすじとキュンポイントを聞かされ続けたのだった……。


 何をどう聞いてもお姫様にボクの要素がないし、騎士団長にいたっては、「マジで誰?」状態の容姿と性格なんだけど。

 なんだかレイとマキの間ではものすごく盛り上がっているらしい……。


 ずっと2人の話を聞いているものの、いまいちハルルが乗り切れていないのは、まさに趣味の違い、ということなのだろうか。


 騎士になりたい願望か、お姫様になりたい願望か……どっちもあんまりなボクはぜんぜんピンと来ていなかったのだった。

 でもちゃんとしたストーリーのようだし、別に無理やりボクを絡めなくても良かったのでは?

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