第70話 『メイメイのゲリラ雷雨』第6回目2
「私ね~、サビの振り付けがすっごく好きなんだ~。『シュークリームふわふわ~』のとこ~」
メイメイが振り付けを再現しながら話をする。
サビの頭で繰り返し出てくるフレーズ。
まず『シュークリーム』の部分では、カメラに向かって左にメイメイが、右にボクが肩が触れるくらいの近い距離で横並びになる。2人同時にそれぞれ胸の前で小さなハートマークを作る。
そして『ふわふわ』の部分はメイメイとボクで時間差の振り付けだ。
メイメイが最初の『ふわ』の時に、右手を太もも辺りの位置から外側に、大きく半円を描くように頭の上にもってくる。次の『ふわ』でボクが逆の半円を描くように左手を大きく頭の上に。そしてお互いの頭同時を軽くぶつけるように首をかしげながら、頭の上で手をつないでハートマークのシュークリームを作って完成。
“かわいい”
“全部かわいいけど特にかわいい!”
“黄色いベレー帽がぶつかるからクリームがはじけてるみたいに見える”
“楓がちょっと照れてるのがポイントだから要チェックなw”
“身長差があるのにきれいにハートになってる”
“下でしっかり手をつないでるところもキュンポイントな”
「そうなのそうなの~。よく見ててくれててうれしい! ちょっとカエくんがちっちゃいから、最初うまくハートマーク作れなくてね~。首をかしげる時にカエくんの手を握って、膝を曲げるようにしたの~」
ボクがシークレットブーツ履いて身長差を埋めるか、メイメイが膝を曲げるかでだいぶ揉めましたね。
でもカメラリハをやってみて、膝を曲げて小首をかしげるほうがメイメイのかわいいさが引き出せるってことに気づきました。
“裏話助かる”
“膝曲げるところ狂おしいほどかわいい”
“楓の首が遠慮がちで曲がり切ってないのとこがまたいいw”
“1サビ2サビラスサビとだんだんふわふわで頭くっつけてる時間が長くなるのいい演出”
“最後見つめあってるからそのままキスするのかと思ったw”
「みんなよく見ててくれるのね~。うれしい! サビを追うごとに『ふわふわ』のあと余韻が長くなるのは、シュークリームも彼への気持ちも少しずつ膨らんでいってるのを演出してるんだって~。『まん丸のシュークリーム』って言ってるけど、ハートマークのシュークリームだもんね」
見た目はまんまる。中身は愛がいっぱい詰まったハートマーク。
でも、この主人公の女の子の愛はどんな愛なんだろう。
純粋な気持ちで彼のことが好き。
その気持ちを伝えたい。わかってほしい。勇気が出ない。つついたらはじけ飛びそうなほどの想いをシュークリームに込めて。
その先は?
伝えてどうなりたい? それは見返りを求める愛なのか。
きっとそう。伝えて終わりじゃないはず。
両想いになりたい。彼も同じように自分のことを好きでいてくれたら。
わざわざ公園までおいてかけてきてくれた彼。
きっと少なからず主人公の女の子に好意を持ってくれているんだろうって期待しちゃう。
でも彼のその好意が恋なのか、ただの気遣いなのかはわからない。
それでも、女の子の作ったシュークリームに込められた気持ちに気づいてくれるといいな。
ボクはただそれを願う。
「最後この子の気持ちは伝わったのかな~。みんなはどう思う?」
“わざわざ追いかけてきて2人きりになってるんだし両想いじゃないの?”
“シュークリーム独り占めしたかっただけかもw”
“さすがに両想いだろ”
“いやでも彼のために焼いたとは言ってないわけで”
“わりと自己評価の高い男?”
“相当確信がなきゃできないムーブ”
“陽キャのモテ男”
“そこの背景が描かれていないだけで、周りから見れば気持ちがバレバレなのでは?”
“きっとそう、だと思いたいね!”
“だがこの曲を2人で歌っている意味を”
“あーね。それは気になってた”
“最後のサビのラストだけ2人の振りが違うんだよな”
「私はもちろん伝わっててほしいなって思う~。でも最後の振り付けは気になるよね。私たちもどうして最後のところだけ、2人が違う振り付けになってるかは聞かされてないんだ~」
そうなんだ。
そこの演出の意図だけはボクたちも知らされていない。
まん丸のシュークリーム
まるで私の気持ちみたい
この想い届いたらいいな
メイメイが口に手を当てて大声で叫ぶ振り付け。
反対にボクは背を向けて、首だけで振り返る振り付け。
これが意味するところはなんだろうか。
「シュークリームの話ばっかりしてたら食べたくなってきちゃった~」
“つくる?”
“渚を呼ぼうw”
“メイメイのクッキング始まる⁉”
“この時間から食べると太るw”
“食べながら配信でもいいのよ”
“楓買ってこいww”
仲良し男女4人組のグループ。
もし、ボクとメイメイが別の女の子の役を演じているとしたら……。
2人とも偶然同じようにシュークリームを焼いてきていたとしたら……。
さすがにそれは考えすぎかな。